クラウド&データセンター完全ガイド:インタビュー

「世界中のデータセンターとデジタルビジネスの架け橋を担う」米エクイニクス 社長兼CEO スティーブ M.スミス氏

弊社刊「クラウド&データセンター完全ガイド 2017年夏号」から記事を抜粋してお届けします。「クラウド&データセンター完全ガイド」は、国内唯一のクラウド/データセンター専門誌です。クラウドサービスやデータセンターの選定・利用に携わる読者に向けて、有用な情報をタイムリーに発信しています。
発売:2017年6月30日
定価:本体2000円+税

23万超のInternet Exchange Point(IX:相互接続点)、パートナー運営も含めて175以上のデータセンターを擁する米エクイニクス(Equinix)。世界中のデータセンター/ネットワークの“つなぎ手”にしてトップクラスのサービス事業者でもある同社は、デジタル変革期のメガトレンドをどのようにとらえて、施設やサービスの強化拡充に反映させているのか。来日した社長兼CEOのスティーブ M.スミス(Stephen M. Smith)氏に聞いた。 interview&photo:河原 潤(クラウド&データセンター完全ガイド編集長)

スティーブ M.スミス氏 Stephen M. Smith 米エクイニクス 社長兼CEO
米ニューヨーク州ウエストポイントの米国陸軍士官学校を卒業し、工学理学士号を取得。8年間の米軍在籍時代に太平洋方面駐在米軍の司令官付き副官を務めた。IT業界では、米ルーセント・テクノロジーズ(Lucent Technologies)、米EDS(Electronic Data Systems)、米HP(Hewlett-Packard)の要職を経て、2017年にエクイニクスの社長に就任。前職ではHPサービス部門のシニアバイスプレジデントとして企業・組織のコンサルティングとインテグレーション、マネージドサービス、技術開発/サポート事業グループを統括した。

グローバルクラウドネットワーク接続の担い手

――業容が拡大した現在のエクイニクスを、何を手がける会社と形容したらよいでしょう。

スミス氏:シンプルに言えば、インターコネクションカンパニーだ。企業とデータセンター、企業とクラウドネットワークの接続をグローバルレベルで担う企業ととらえてもらえればよいだろう。

 最新のミッションは、デジタル変革(Digital Transformation)に挑戦しようとするあらゆる企業・組織の支援ということになる。クラウドであれコロケーションであれ、コンピュート、ストレージ、ネットワークの各リソースを世界中くまなくセキュアに届け続けることで、各社のデジタル変革を根底から支えることのできる企業でありたい。

 経営上の差別化ポイントの1つに、クラウドサービスを自ら提供するのではなく、パートナー各社にそれぞれの分野での強みを持ち寄ってもらうマーケットプレースの仕組みがある。各社がデジタルイノベーションを起こすためのステージを当社が提供するわけだ。パートナーは、各々のビジネスに必要な分のコンピュート、ストレージ、ネットワークを強固なセキュリティの下で簡単に調達し利用することができる。

 クルマ、電話、冷蔵庫。ご存じのようにIoT(Internet of Things)の進展で、多様なモノが多様なかたちでシームレスにつながり始めている。このトレンドを我々のデータセンターで支えていくことも、今の我々の大きなテーマとなっている。

――近年は、「Platform Equinix」を掲げてデータセンター事業を拡大させています。International Business Exchange(IBX)データセンターは、どんな価値を企業や社会に提供しようとしているのですか。

スミス氏:最新のファクトを示そう。米ベライゾンコミュニケーションズ(Verizon Communications)の買収が2017年5月に完了した時点で当社運営のデータセンター数は80に達している。パートナー運営の拠点を合わせると、22カ国・44都市で175を超えるデータセンターが稼働している(図1)。

図1:エクイニクスがグローバル展開するIBX データセンター(出典:エクイニクス・ジャパン)

――日本では都心型データセンターで知られるビットアイルが加わり、国内のデータセンターも大きく拡充されました。

スミス氏:そう。これで日本では、東京10カ所、大阪2カ所、12のデータセンターを構えることになった(写真2)。エクイニクス・ジャパンの顧客1000社弱からの売上げは、当社の中で米国、英国、ドイツに続いて4番目の市場規模に相当する。上位3国と同様、近い将来、国内ナンバー1のデータセンター事業者になることを期待している。

写真2:IBX 東京TY5 データセンターのエントランス(出典:エクイニクス・ジャパン)

 クラウドがここまで広範な普及を遂げた。次の10年では、より多数の企業がクラウド活用を推し進めていくことになる。デジタル時代、エクイニクスはあらゆる業種の企業にとって信頼できるアクセスポイントとしてあり続けたい。エンタープライズと、大手クラウド/ネットワークプロバイダーなどの事業者の両方に対してだ。

 そして、我々がこれから顧客に促そうとしているのは、ITインフラへの投資の変革だ。この領域は長らく、オンプレミス(自社運用)が8割、ITアウトソーシング/マネージドサービス、コロケーションなどのオフプレミスが2割という比率で来た。だが先々、この比率は逆転するだろうと言われている。特に、ITアウトソーシング/マネージドサービスやコロケーションはマルチクラウドやハイブリッドクラウドの1形態となって、これまでよりも存在感を増していく流れを見ている。

デジタル変革とクラウド/データセンター業界

――あらためて、デジタル変革の世界的なトレンドをどう見ていますか。このメガトレンドで、エクイニクスはとりわけ何に注目しているのでしょう。

スミス氏:デジタル変革の機運は言うまでもなく、我々のデータセンターやクラウドネットワークのビジネスに深く関わるものだ。クラウドの進展と軌を一にしており、企業のIT活用の形態がこれまでハードウェアやアプリケーションが主体だったのが、ユーティリティやオンデマンドの形態へと急速にシフトしている。そして、セキュリティはこれまで以上に重要視されていくだろう。

 加えて、コンピュート、ストレージ、ネットワークのいずれもがSoftware Definedのアプローチを積極的に取り入れつつあるのも着目すべき変化だ。コモディティ化がさらに進む中、どのハードウェア企業も、いずれはソフトウェア企業のようになっていくのではないだろうか。

 デジタルの時代が深まるにつれ、我々のようなITインフラの提供企業はどうなっていくかというと、やはりクラウドベンダーが主役の座を占めるようになろう。私は、AWS(Amazon Web Services) やMicrosoft Azure、Google Cloud Platformなど超大手クラウドサービス数社の寡占になるとまでは思っていない。だが、この先50~60社が市場に存続するとも思っていない。成功する企業はおそらく、10数社か多くても20社程度に限られてくるだろうし、グローバルレベルで大きな成功を収められる企業はせいぜい5、6社と見ている。

 こうしたクラウドベンダーと比較した場合、世界中でデータセンターを自社運営しているのがエクイニクスの強みとなる。そこにパートナー各社との協力でさまざま価値を付加して顧客に訴求できる、大変良いポジションに立っていると自負している。

――AWSやAzureなどのハイパージャイアントは、エクイニクスにとってパートナーであると同時に、データセンターサービスやクラウド基盤サービスのシェア争いでは競合関係になりますね。

スミス氏:そのとおりで、グローバルクラウドブレーヤーのトップ10クラスには、いずれも我々がパートナーとして彼らのビジネスを支援している一方で、エンドユーザー企業にとってのITインフラの選び先としてはライバルにもなる。

 2強と呼ばれるAWSとマイクロソフトを例に取ると、両社ともクラウドサービスの提供基盤として独自の大規模サーバーファームを構築し運用している。AWSもマイクロソフトも、この3~5年でデータセンター設備やIT機器購入などにおそらく70億~100億ドルは投じているのではないだろうか。

 一方、我々は、AWSやマイクロソフトの独自サーバーファーム以外の、データセンター、ネットワーク、ストレージなどで、彼らのビジネスをグローバルにサポートしている。我々は彼らの広範なクラウドサービスのうち、ミッションクリティカル性が高く、カスタマーフェイシングな領域を引き受けていることになる。

――エクイニクスのグローバルデータセンター/ネットワークの強みが生かされる領域ですね。

スミス氏:そう。具体的には両社のクラウドサービス提供基盤を形成するアクセスノード、エッジノード、キャッシュノードのうち、アクセスノードの部分を当社が担っている。パリやドバイ、ニューヨーク、シンガポールなどに拠点を置いている顧客が、AWS、Microsoft Azure、Salesforce.com、Oracle Cloudなどのクラウドサービスを利用する際、どの拠点からでも我々がサポートするアクセスノードを通じて接続することになる。グローバルなマルチクラウド環境をエクイニクスが支えているかたちだ。

写真3:スミス氏は、「大手クラウドベンダーはパートナーでもありライバルでもある」と語り、グローバルなマルチクラウド環境を支えるエクイニクスの役割を強調した

分散へ向かうデータセンターアーキテクチャ

――ビッグデータ分析、AI、IoTといったデジタル変革のメインストリーム技術に、多くの企業が取り組みを始めています。その際、従来からの中央集権型のデータセンターも、デジタルに最適化されるかたちでアーキテクチャ自体が変わっていくと見る向きもあります。

スミス氏:その意味では、集中から分散へのシフトはすでに始まっている。グローバル企業の場合、従業員も顧客も世界中に散らばっているため、各拠点の側でデータやアプリケーションを展開したり、従業員のスマートフォンに業務情報を配信したりするためには、グローバルネットワークを巧みに利用できる仕組みが求められる。つまりハブ&スポーク型であり、エクイニクスのデータセンターやIXはいわば、大量の乗降や乗換がなされる国際ハブ空港のようなものだ。こうしたハブ空港は、どの大都市にも置かれている必要があるが、当社のIBXはまさにそのモデルだ。

 グローバル主要拠点は押さえたので、次のフェーズでは新興市場に展開していきたい。AWSは現在約40カ国に展開し、目指すは130カ国だという。マイクロソフトやIBMもそうだろうし、世界中にこうしたクラウド基盤が急速に展開されていくと見ている。エクイニクスもこの動きに追随していく構えだ。

写真4:左より、エクイニクスアジア太平洋地域社長のサミュエル・リー(Samuel Lee)氏、スミス氏、エクイニクス・ジャパン代表取締役の古田敬氏。日本法人を率いる古田氏は「デジタル時代、データセンターがコアであり続ける。日本市場固有のニーズを踏まえて、コアにどう付加価値をつけていくかに注力する」と語った

クラウド&データセンター完全ガイド2017年夏号