事例紹介

マイナンバーを軸に母子健康・学校情報を集約し、子育て支援~前橋市

ICT街づくり推進事業(3)

「母子健康手帳」や「お薬手帳」を電子化

 「健康情報ポータル」は、母子健康手帳とお薬手帳の電子化などを通じた情報提供基盤。産婦人科、小児科、保健所、小学校、調剤薬局、前橋市が保有する情報として、妊婦~子どもの小学校までの妊婦検診、乳幼児検診、予防接種、健康診断、処方薬情報をPC・スマホで閲覧可能にし、母親が「健康診断管理」「成長日記・グラフ」「お薬手帳」として利用できるようにした。

 同事業全体を通して、個人認証にはマイナンバーカードを活用する想定で、そのための共通ID認証基盤も構築している。

健康情報ポータルの概要
母子健康にかかわるさまざまな情報をポータルに集約

 糸氏によると「母子手帳などの電子化はほかでも取り組まれているが、行政情報も統合するのは珍しい」という。「そもそものきっかけは、妊娠にともなう風疹発症歴の問い合わせが多かったことで、従来は窓口での本人確認が情報提供の前提となっていたので、より簡便にできないかと考えました」。

 2013年12月から市民参加で実証実験。保健センター、保育園・幼稚園、小学校にて約250名のモニターを募り、実際にアプリに触れてもらった結果、約8割の人からサービス継続を希望する好意的な評価が得られた。自由意見をみても「子どもの成長記録や子育てFAQがスマホで見られるのは便利」「育児に悩む母親同士で相談したり、生の声を投稿できる掲示板があるといい。その掲示板を通して地域のママ友と知り合えたらさらにいい」と概ねポジティブな反応だ。

 ほぼ唯一の不満点は「UIの使いづらさ」だった。「情報をそのままアプリに流し込んだたため、欲しい情報にたどり着くまでに5回以上クリックが必要になるなど、検索性に難がありました。このため2014年にUIを刷新し、年明けにもう一度実証実験を行う予定」という。

 一方、お薬手帳の電子化では、薬局で手渡される薬剤シールのQRコードをスマホで読み取ると、薬剤情報が「健康情報ポータル」に集約される。個人認証にはマイナンバーカードを使うため、電子お薬手帳の課題となり得る「薬局ごとに異なるICカードを持ち歩く必要」もなくなる。

 ただ、当初実装したQRコードを読み取る方式は高齢者には難しいため、2014年に情報入力方法を改善した。まずは薬局での代理入力。患者のマイナンバーカードを借りて薬剤師が作業する。さらに患者がマイナンバーカードを忘れた場合にも対応するため、前橋市に届く国民健康保険の請求書から調剤情報を抜き取り、市の担当者側でも代理入力を行う二段構えの運用とした。

 「請求書が市に届くまでのタイムラグにより、急性疾患の場合は対応が遅いことも考えられますが、少なくとも情報入力率は十分なものになります」という。

健康情報ポータルのシステム構成
お薬手帳のシステム構成

「医療連携」や「緊急時利用」も想定

 この仕組みとクラウド上の情報は、地域医療連携にも利用する。まずはCT画像をクラウドにアップロードし、診療所と病院で共有する仕組みを検証。患者の個人認証にはマイナンバーカード、医者側のアクセス制限には公的個人認証サービス(JPKI)や、医師会の医師資格確認データベースを活用する。

 「大病院ではCT撮影に2~3週間待たされることもあるようです。画像撮影専門の診療所では待ち時間なしで撮影できますが、CD・DVDに焼いて患者に渡す形。これをオンライン化しようというところから始めました」。効果が見込めれば、MRI・カルテなどについても共有させたい考えだ。

 加えて、救急隊・救急病院での緊急時利用も検討。救急搬送する患者のマイナンバーカードを救急隊配備の専用タブレットで読み取ると、母子健康手帳、お薬手帳、あるいは健康管理機器から取得・蓄積されたバイタル情報などから、病歴・投薬歴などが即座に確認できるというものだ。専用タブレットの端末認証とPINによるアクセス制限により、情報を表示できる端末を制限している。

 これらは2014年内にシステムを完成させ、2015年早々に実証実験を行う予定とのこと。

地域医療連携のシステム構成。まずはCT画像の連携に着手
緊急時利用のシステム構成。患者のマイナンバーカードから病歴・投薬歴などを確認する

(川島 弘之)