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フェンリル牧野氏「SleipnirはF1カーのようなWebブラウザ」
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本日のゲストは、国産Webブラウザ「Sleipnir」の企画・開発を行うフェンリル株式会社の牧野兼史取締役です。WebブラウザはWeb 2.0時代においては、OS以上に重要なソフトウェアといえます。
ネットスケープがマイクロソフトに破れて以来、しばらくInternet Explorer(IE)一色となったWebブラウザ市場ですが、捲土(けんど)重来を期したMozilla CorporationのオープンソースWebブラウザ「Firefox」の登場によって風向きが変わってきています。アップルはMac専用Webブラウザ「Safari」を擁してシェアを伸ばし続けていますし、日本国内においてもSleipnirやLunascapeなどの新興Webブラウザメーカーが相次いでIEに挑戦し始めているのです。
■ Webブラウザ市場には可能性がある
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フェンリル株式会社 取締役の牧野兼史氏
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―今日はよろしくお願いいたします。まず、簡単に自己紹介をお願いできますか?
牧野氏
フェンリルの牧野です。よろしくお願いいたします。フェンリルでは営業とアライアンス関連担当の取締役をしております。元々はあるメーカーで営業やマーケティングの仕事をしていまして。その後、2001年4月に某ネット広告代理店に入社して、4年ほどバナー広告配信システムの営業をしていました。その会社で新しい事業提携先を模索しているときに、個人でSleipnirという無料Webブラウザを作っていた柏木泰之(フェンリル社長)に出会って意気投合しまして。それをきっかけに、柏木ともう一人のパートナーを加えて3人で会社を興すことにしたんです。創業は2005年6月13日ですが、私自身は2005年6月30日に広告代理店を退社して、7月1日にフェンリルに正式にジョインしていました。
―Webブラウザメーカーという会社を興そうと考えたのはなぜでしょう?
牧野氏
そもそも市場が大きいですよね。会計ソフトのような業務アプリとは違ってWebブラウザは誰もが使うわけです。Webブラウザは無料で入手するものであるという考え方はあるにせよ、ボリュームさえあればビジネスにすることができると考えました。
―フェンリルは完全な独立系なんですよね?
牧野氏
ええ。資本金1000万円で、まだVC(ベンチャーキャピタル)は入っていません。
―柏木さんがWebブラウザを作り出した理由を教えてください。
牧野氏
彼がWebブラウザを作り始めたのは、2001年頃だったと思います。彼は元々あるソフトウェア会社のエンジニアだったんですけど、既存のWebブラウザがあまり気に入らなかったんでしょうね、自分にとって使いやすいWebブラウザが欲しいと思ったんだそうです。それで作ってみたら結構出来がいい。出来がいいから一般にも公開してみたら、たくさんの人がダウンロードしてくれて、しかもさまざまなフィードバックをくれたわけです。ユーザーの意見を取り入れて改良したらまたユーザーが増えて、という具合になって、会社を設立しようと思った時には何十万人というユーザーに使っていただいていたんです。ちなみにフェンリルとは、北欧神話に出てくる狼のことです。Sleipnirも同じく北欧神話の八本脚の馬です。柏木の趣味です(笑)。
―収益は広告モデルですか?
牧野氏
はい。Webブラウザ自体は無料です。シェアウェア化するという噂がありましたが、それはないですね。柏木はフリーウェアの文化に傾倒してますから。広告モデルといってもWebブラウザ自体に広告を出すわけではありません。Webブラウザに検索ボックスがあって、そこを検索エンジンに提供することによってトラフィックを誘導して、その代価をいただいています。OperaはGoogleと組んでいますけど、Webブラウザ上の広告を出すことを最近止めました。われわれはいま、エキサイトと組んでいます。他には、Webブラウザのホームボタンをクリックしたときに最初に表示するトップページもトラフィックの誘導に使えます。FirefoxはトップページをGoogleにしていましたが、最近Yahoo!に変えました。うちはそこもエキサイトにしています。
―なるほど。トラフィックの量が収益につながるとなると、シェアがそのまま収益につながります。今どのくらいのシェアですか?
牧野氏
インプレスさんの『インターネット白書2005』によると、国内におけるシェアは、IE6、IE5、Netscapeの次にSleipnirが入っています。全体の3.8%だそうです。そのあとにFirefoxが続いています。しかしながら、こうした数字はアンケート次第で変わりますし、一喜一憂しても仕方ないので地道に少しずつ増やしていけばいいと考えています。新規ユーザーも大切なんですけど、既存ユーザーも大事にしたいですから。サポートはメールベースや専用サイトの掲示板を通じて行ったり、Wikiのユーザー同士のコミュニティを通じて情報を公開したりしています。
―直接的な競合Webブラウザは?
牧野氏
あまり意識することはないですね。うちは独自で、ウチの製品を気に入ってくれるユーザーを満足させることを考えたいです。ここに勝つぞという考え方はない。とはいえ、Firefox、Operaは技術面では常に気になりますけどね。Firefoxのプラグインなどの膨大な数は参考にしていますし、OperaのUIの良さも参考にしています。ただSleipnirのUIはIEに近いものです。なぜかというと、Sleipnirは上級者向けと考えて開発してるんですけど、そのため一般ユーザーが初めて使うWebブラウザになることはないわけです。だから、大抵の人が初めて使うWebブラウザであろうIEの基本的な使い方を踏襲してあげる方が親切です。
―なるほど。
牧野氏
とはいえ、Sleipnirにはたくさんの機能がついていますし、カスタマイズもできるのが売りです。特に新バージョンのSleipnir 2シリーズは、複数の部品がモジュール化しているので、取り外しもできるし付け加えることもできます。
―コア部分は独自開発ではないんですよね?
牧野氏
ええ。エンジンはIEとGekkoをベースにしています。だから両方使える(笑)。
■ Sleipnirはフォーミュラーカー
―Windows版だけなのはなぜですか? 僕はMacユーザーなので残念です(笑)。
牧野氏
Mac版もLinux版もないです(笑)。開発リソースがないので全部いっぺんにできないですし、ベンチャーとしてはユーザーが多いところにリソースを集中したいわけです。柏木がよく言うんですけど、SleipnirはF1に挑戦するクルマの開発に似ています。悪路でも走れる万能型ではなく、サーキットのようにきれいに整備された道においては最速にしたいわけです。市販のクルマやラリーカーなどいろいろなクルマを作るのは大企業に任せて、われわれはF1用のクルマにだけ集中したいと。Webブラウザは多機能になっても、Webサイトを見るのが本道ですから、起動速度や表示速度を重視して、それ一本に集中するのが正しい戦略かな、と思っています。
―個人的には残念ですが(笑)その方針は正しいと思います。ところでズバリお伺いしますが、フェンリルという会社はWeb 2.0という環境変化に対してどのような考えをお持ちですか?
牧野氏
自分たちがWeb 2.0企業である、とは言わないです。Web 2.0代表になろうとは思っていません。でも、今のWeb環境においてフィットしているかどうか?という点ではいい線いっていると思います。それにツールとしてSleipnirは日本人にフィットしているとも思いますし。Web 2.0的な企業はターゲットをどこか一つに集中していると思います。Sleipnirは上級者向けで、そこにターゲティングしています。Webブラウザを使うすべての人を満足させるとは思っていません、満足できる人にだけ使ってもらえば今はいいと考えています。IEやFirefoxはできるかぎり100%を満足させようとしますが、われわれはあくまでF1のように限られたユーザー用に開発していくつもりです。実際、先駆的だったのはタブブラウザをいち早くサポートしたことでも証明されていますし、RSSリーダーもついています。あ、そうそう…。
―なんでしょう?
牧野氏
ブログが伸びているので、RSSリーダー機能は強化しようと考えていましたが、Headline-Readerの大倉さんがフェンリルにジョインしてくれたんですよ。Headline-ReaderをプラグインとしてSleipnirに組み込んでいくことで、ますます機能強化を図っていけます。
―それは素晴らしいですね!機能強化の面では携帯電話用フルブラウザは計画されていませんか?
牧野氏
ケータイ版はまだ作ってないですけど、Jigとは連動してブックマークを共有できるようにしています。ブログエディタとかもつける予定です。プラグインも徐々に開発していこうと考えていますし、外部APIを公開していきたいですね。
―Lunascapeと比較されることは?
牧野氏
はたから見るとライバルに見えるでしょうけど意識したことはないです。Lunascapeさんは、Webブラウザ開発技術を他に応用することでビジネスにしようとしているような気がします。われわれはあくまでWebブラウザを製品として提供することを核とした企業ですから。
―クライアント型のRSSリーダーはライバルでしょうか? 例えばglucoseなどはどうでしょう?
牧野氏
Headline-Readerを組み込むと3ペインで、いわゆるRSSリーダーに近くなりますけど、ライバルと言えばそうだし、そうでもないともいえますしね。動向はチェックしていますけど…。質問の回答にはならないと思いますけど、最近ネット業界のメンバーが変わってきたと感じますね。エンジニアというか、テクノロジードリブンの人が中核になってきているなあと感じます。ネットバブルの時は、ビットバレーのような集まりに来ている人はどっちかというと営業やマーケに関わる人たちでしたけれど、今は技術ベースの人ばかりです。こういう変化もまたWeb 2.0的なのかな、と思います。
―同感です。今日は長い時間、ありがとうございました。
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小川 浩(おがわ ひろし) フィードパス株式会社 COO。1996年、デル、ゲートウェイの代理店としてマレーシアにて日系企業および在住邦人向けのPC通販ベンチャーを創業。1999年9月にアジアと日本をまたがるSNSを開始。その後日立製作所にてコラボレーションウェア「BOXER」を立ち上げたのち、ネットビジネス・プロデューサーとしてサイボウズにジョイン。ブロガーとして「Web2.0 BOOK」「ビジネスブログ」シリーズなどの著作がある。 |
2006/02/21 08:50
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