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グルコース大向氏、「Webを使う“ヒト”の変化の結果がWeb 2.0」


 最近RSSリーダーもしくはFeedリーダーという言葉も一般的になってきましたが、そのパイオニアといえるソフトウェアがglucoseです。今回は、glucoseの開発・販売を行っている有限会社グルコースの大向一輝さんを迎えて、Web 2.0とセマンティックWebの相違についてなど、いつもより少々アカデミックな内容をお届けします。


gooとの取引をきっかけに起業

有限会社グルコースの大向一輝氏
―まず自己紹介をお願いできますか?

大向氏
 有限会社グルコースの大向です。同志社大学卒業後、2005年3月までは博士課程にいましたが無事にPHD(博士号)を取りまして、去年の4月から国立情報学研究所の助手をしています。つまり、グルコースと二足のわらじを続けていることになります。


―グルコースの設立についてのお話を伺えますか?

大向氏
 最初はグルコースの社長である安達(真)と二人でSemblogプロジェクトというのを、2003年4月からやっていまして。Semblogというのは、ブログとメタデータを利用した情報流通環境の構築を目指したもので、具体的にはRSSアグリゲーションの高度化を目的に、RSSフィードのチェックとクリップとポストのプロセスを考えていくみたいなプロジェクトです。そこで作ったソフトでIPA(情報処理推進機構)からお金をもらったので会社を作ったんですね。


―そのソフトがglucoseというわけですね。現在の社員数は?

大向氏
 役員とアルバイトを含めて7人ですね。実を言うと、IPAのお金があったから会社を作ろうと思ったわけではなくて、最初gooさんからRSSリーダーを提供してくれないかという話があって、いざ契約しようとしたら、やっぱり法人でないとNTTグループとしても取引できないということになって、やむを得なくというか、なりゆきで会社を作ったんです(笑)。


―なるほど(笑)

大向氏
 で、事業としては、最初のプロダクトとしてのglucose(現在のバージョンはglucose 2)の開発と直販。それとgooさんへのOEM提供。あとは、RSS技術に関するコンサルティングのような仕事をしています。


RSSリーダーからパーソナル情報プラットフォームへ

―glucoseを作った背景をもう少し詳しく教えてください。

大向氏
 最初のリリースは2003年7月でした。そのときにはNewsGlueがあったくらいで、RSSリーダーという言葉を知る人はほとんどいない状況でしたね。

 RSSを使いたくて作ったというよりは、ブログ等のコミュニケーションを効率化するために考えたという感じです。Semblogプロジェクトでブログを調べていた過程でRSSを知ったんです。RSSを使うと周りの人との情報収集ができる、検索とは違うなと思いましたね。でも、読むだけではコミュニケーションは終わらない、書くこともサポートしたいと思った。で、ブログエディタをつけました。読み書きのサイクルをソフトにつけて、今のバージョンだとさらに検索して書くというループもそれに加わったわけです。


―分かります。

大向氏
 具体的にはRSS検索ですけど、キーワードを登録すると自動的に必要な記事を探し出してくれるような簡単なモノを目指しました。RSSという存在は見えないけど、キーワードに該当する記事が明日になると集まってくる、という感じの評判が徐々にできてきて。だから、いわゆるRSSリーダーを作りたかったわけではないんです。


―glucoseはRSSリーダーではない?

大向氏
 ユーザーがglucoseをRSSリーダーと呼んでくれるので、それを否定するつもりもないんですけど、僕らとしてはコミュニケーション支援ツールであると今でも思ってますね。だから、IEやSafariにRSSリーダー機能がついても、あまり気にしていない。トレンドみたいなものですし。グルコースのサイトにも「RSSリーダーからパーソナル情報プラットフォームへ」というタグラインを置いて、自分のポジションを明確にしています。2、3年後にはちゃんとした認識を持ってもらえると思うんですけど。2年なのか10年なのかは分からないが、僕らが考えていることに気づいてもらえて、いつかは「なるほどね」、といってもらいたいです。



―気持ちは分かります。われわれもFeedpathで同じような感覚を持っています。

大向氏
 Feedpath、登録してみましたよ。Ajaxってここまでできるんかと驚きました(笑)。


―注目されたのはAjaxだけですか(苦笑)。


Web 2.0は“ヒト2.0”

―さて、最近glucose 2をリリースしたわけですけど、今後の開発スケジュールはどうなっていますか?

大向氏
 まだなんとも言えないんですけど、僕らは研究者なので、新しいものしか認めないという気分があるんですね。今の時代よりも2年くらい早いモノを作って、世間にディストリビュートしていくということをしてきたつもりなんですが、今後はこの2年よりもっと遠いところに目標を定めたいですね。商売にならない、といわれるかもしれませんが、ヒトの言うことを聞くのが上手じゃないし(笑)。自他ともにグルコースは「早いよね」と認められる企業になりたいです。


―最近ドリコムがIPOして、Web 2.0企業の上場と騒がれています。開発資金を得るためにIPOを考えることはしないんですか?

大向氏
 もともとRSSがビジネスになるとは思いもしなかったですし、今の段階でIPOに踏み出すことも考えないですね。手持ちの成果とIPOするということのバランスがとれていないと思う。いつかは、ということもあるかもしれないですけど、今ではないという感じです。


―大向さんといえばセマンティックWeb、という感じがするんですが、Web 2.0とセマンティックWebの関係をどう考えていますか?

大向氏
 Web 2.0というキーワードは、2006年のWeb上でうまくいっているいろいろなキーワードをまとめたものという感じですね。でも本当は、ヒト2.0というか、Webを使うことや、コミュニケーションすることを受け入れて、情報を使うことや組み合わせることにユーザー自身が慣れてきた結果であるとも思うんですよ。


―確かに。

大向氏
 Webやそれをとりまく技術の進化論がWeb 2.0。で、Web上のデータは同じ形にしたほうがいいというような、概念などを皆が受け入れたからこそ、それが実現してきたわけです。

 情報を発信する人に情報が集まるというのも10年前には、それを理解する人はいなかったわけで、ソーシャルブックマーキングだって10年前には研究されていたけれど普及するとは誰も思わなかった。技術というよりはヒトが変わった。ヒトに技術がついてきたという感じを強く持っています。


―同感です。

大向氏
 前置きが長くなりましたけど、セマンティックWebは、ティム・バーナーズ=リーが90年代後半に提唱したもので、ハイパーリンクを書くときに、そのリンクに意味的なラベルを付けておくという概念です。なぜそれがつながっているかを説明することです。で、意味があるなら三段論法にしておけばコンピュータも意味を理解できる、というように拡大していきます。三段論法を示すための技術がRSSの基になっているRDFで、さらにコンピュータがわかる辞書(オントロジー)が必要になるわけです。

 でも、研究者としてはセマンティックWebの実現は正しい目標になり得るんですけれど、実際にはユーザーにそのメリットを正しく伝えきれず、さらにふくれあがっていくWeb上の既存のデータをどうするのかという問いに対する回答も持ち得なかったために、なかなかセマンティックWebが一般に普及することがなかったんですね。

 Web 2.0はセマンティックWebとは異なるアプローチで進化してきたWebの形ではあるんですが、セマンティックWebと同じように誰にでも、コンピュータにでも理解できる、正しい言葉を使おうという共通理解はあるわけです。ということは、Web 2.0の推進者達もまた、さらに大きな世界との構造的接続を行おうとしたときに、セマンティックWebの研究者が対面した課題と同じ壁にぶつかる可能性はあると思います。それを乗り越えるために、フォークソノミーであるとか、言語処理であるとか、あるいはコミュニティの自浄作用のような動きをさまざまな人が考えてはいるわけですが。


―ありがとうございます。セマンティックWebについては今度別の機会にもっと詳しくお聞きしたいと思います。最後に、今後の抱負を聞かせてください。


大向氏
 そうですね。例えば、はてなという企業は技術を使って人間の心をハックしているような感じがしています。伊藤さんもそうだし、(シックス・アパートの)宮川さんといった、いわゆるギークと呼ばれる人たちは皆、高い技術を持っている上に、その技術を楽しんでくれる人たちをちゃんと選んで、ふさわしい形にして提供できるという点がすごいと思うんです。人がなにを喜ぶかを考えて、それを造っていく姿勢がひたすらすごい。見習いたいです。

 グルコースとしても態度としては同じ。実現手法は全然違うかもしれないですが、技術を使って人の本質に向かうところは同じだと思っています。今がどうかで右往左往するよりは、より本質的なことを考えて、それに向けてサービスを作っていきたいですね。


―楽しみにしています。今日は長い時間、ありがとうございました。




小川 浩(おがわ ひろし)
フィードパス株式会社 COO。1996年、デル、ゲートウェイの代理店としてマレーシアにて日系企業および在住邦人向けのPC通販ベンチャーを創業。1999年9月にアジアと日本をまたがるSNSを開始。その後日立製作所にてコラボレーションウェア「BOXER」を立ち上げたのち、ネットビジネス・プロデューサーとしてサイボウズにジョイン。ブロガーとして「Web2.0 BOOK」「ビジネスブログ」シリーズなどの著作がある。

2006/02/14 09:00

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