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シヤチハタ、「パソコン決裁Cloud」で電子印鑑の世界でも“捺印分野で世界ナンバーワン”目指す

 シヤチハタ株式会社では、クラウドベースの電子印鑑サービス「パソコン決裁Cloud」を2015年6月から無償で提供している。クラウドサービス「Box」との連携によって、クラウドならではのオンライン上で完結する電子印鑑サービスとなっている。

 シヤチハタがクラウドサービスという新しいビジネスを開始した狙いはどこにあるのか。そしてこのサービスを利用することで、どんなメリットが生まれるのだろうか。

場所や時間を問わず決裁を可能とするクラウドサービス

 シヤチハタが提供するパソコン決裁Cloudは、米Box社の企業向けクラウドストレージサービス「Box」を基盤として利用し、外出先でも簡単に捺印・決裁ができるようにした無償のクラウドサービスだ。

 Windows端末、iOS、Android OSを搭載したスマートフォンやタブレット端末のWebブラウザを使用し、Boxのストレージ内に保存された電子文書への捺印を、簡単に行うことができる。事前にソフトウェアをインストールする必要がなく、Boxにユーザー登録さえしてあれば、アプリを追加するだけで即、使い始めることが可能だ。

 現在対応しているのは9mmの認印(氏名印)で、3種類の書体の中から選び利用する。書体とレイアウトはシヤチハタ独自のノウハウが詰まっているとのことで、「フリーソフトとは一線を画す」(同社)という。なお、珍しい名字など、印影が用意されていない場合においても、履歴をもとに1週間ほどでデータ化されるとのこと。

 利用可能なファイルはPDF形式に限定されるが、現在ではMicrosoft Officeをはじめさまざまな製品がPDF形式での保存に対応しており、PDF形式へ変換するためのエンジンも有償・無償を問わず数多く存在しているので、利用に際して困ることはないだろう。

名字を入れことで氏名印が瞬時に作成されるので、使いたい書体の印影を選ぶだけ
見積書や検収書へ簡単に捺印可能だ

なぜ、“あのシヤチハタ”が電子印鑑なのか?

 シヤチハタが電子印鑑サービスを提供しているという事実を聞いて、「シヤチハタといえば、電子ではなく、シヤチハタ印(インキ浸透印)などのリアルな印鑑を提供している会社では?」と思う人がいるかもしれない。

 これはその通りではあるのだが、忘れてはいけないのは、シヤチハタはすでに20年間、パッケージソフト「パソコン決裁」を提供し、1万社を超えるユーザーに利用されている点だ。

 「すでに20年間の実績がある製品ですが、パッケージソフトですから、PCにインストールし、初期設定を行う必要があります。より広く、たくさんのユーザーに使っていただこうとすると、やはり別のサービスが必要なのではという結論になりました」と、シヤチハタのシステム開発部 IS営業課、石井慶氏は話す。

 そこで、誰もが簡単に使える無償のクラウドサービスとして「パソコン決裁Cloud」の提供を始めたのだ。「お話ししたような理由から、パッケージ版は利用シーンを問わないものの、紙で利用するシヤチハタ印のような広がりには至っていません。しかし無償のパソコン決裁Cloudは、印鑑を必要とするあらゆる方に、あらゆるシーンで使っていただきたいと考えています」。

シヤチハタのシステム開発部 IS営業課、石井慶氏

無償のパソコン決裁Cloudで新しい市場を開拓したい

 パソコン決裁Cloudの提供がスタートして以来、ユーザーの利用シーンは広がっている。

 最も多いのがパッケージ版と同様に、見積書や注文書、検収書での利用である。電子印鑑であれば会社に戻る必要がないので、社外からでも印鑑を押した見積書を迅速に出せるし、検収書にその場で捺印してもらって回収する、といったことがやりやすくなる。

 少し変わった例では、マンションの理事会にパソコン決裁Cloudを導入。これまでは紙に印刷し、捺印していた報告書、議事録、管理会社から届く書類といったものを電子化して、電子印鑑で完結させるために利用している例があるという。

 このようにシヤチハタでは、無償のパソコン決裁Cloudを利用することで、さらに幅広い使い方が生まれることに期待している。

 捺印できるのが認印のみに限られているとはいえ、これまで有償で提供してきたのと同じジャンルの製品を無償で提供するのは、大きな決断となる。だが、あえて無償で提供し、利用者を増やすという戦略をとったのは、シヤチハタが目指す姿が「捺印分野での世界ナンバーワン」だからだという。

 物理的な印鑑の捺印においても、電子印鑑においても同様に、「捺印分野での世界ナンバーワン」を目指すために、無償のクラウドサービスの提供を開始したのだ。

 現段階では、電子印鑑を利用できる範囲は限られている。しかしその段階から、「電子印鑑=シヤチハタ」という認識を、より多くの人に持ってもらう――、そんな狙いが、パソコン決裁Cloudを無償で提供する背景となっている。

クラウドストレージのBoxを有効に活用

 また、そのサービス基盤として、無料でも利用できるクラウドストレージのBoxを利用することで、ファイル共有が行いやすくなることも、大きなメリットになっている。

 これまで、書類の受け渡しにはメールが使われることが多かったが、「メールアドレスを間違えて誤送信してしまう」のは日常的に起こっていることだ。また大容量の文書データを送る場合にはメールではなく、ファイル送信サービスを利用することも多いが、通信環境によっては送信途中で途切れてしまって、うまくファイルを送り込めない、といったトラブルもある。

 こうした、メールやファイル送信サービスに比べ、Boxは利便性が高く、セキュリティ面でも、フォルダ登録時にファイルを暗号化するなど、安心できる。

 シヤチハタが数あるクラウドストレージの中から、Boxとの連携を選択したのは、こうした管理機能を評価してのこと。電子印鑑を利用するのは企業が中心となるが、企業にとって必要な、安全なファイルの送付、送付後の管理といった機能が電子における書類の決裁には不可欠であると判断し、Boxとの連携を選択したのである。

 さらに、Boxでは共有フォルダでファイルへの操作が行われた場合、そのことをユーザーにメール通知するなど、多種の機能を備えている。この機能を生かせば、Box経由で送ったファイルを相手が見たことを確認できるので、そのタイミングでさらに連絡を入れる、といったことも可能になるのだ。

Boxへアップロードされたファイルに捺印できる

電子印鑑市場拡大に向けたチャレンジ

 なおシヤチハタでは、無償版の提供開始時点から、有償版の提供計画を明らかにしている。「現行の無償版に、新しい機能を加えた有償版を2016年度中に提供できればと考えています」(石井氏)。

 有償版では、認印に加えて、日付印や、役職印や角型印など特殊サイズの印鑑も電子印鑑として登録・利用ができるようになるようだ。

 さらには、企業内の業務システムとの連携も視野に入れているとのことで、石井氏によれば、無償版を見て、「当社の業務システムとの連携ができないか?」との申し出が多数寄せられているという。

 「サービス開始以降、たくさんの要望、リクエストをいただいています。現段階では詳細は明らかにできませんが、ユーザーに喜んでいただけるようなサービスを提供していきます」と石井氏は話す。

 また、「クラウド電子印鑑に対する注目は大きく、印鑑をメインビジネスとしている当社は、今後クラウドビジネスを加速、拡大させていきます。電子印鑑に興味はあるが、パソコンに不慣れで不安があるという方にも、安心して使っていただけます」と述べ、印鑑ビジネスを長年手掛けてきた、シヤチハタならではの自信をのぞかせる。

 ビジネスマンの多くは業務で捺印する機会があるだろうが、ほとんどのケースは認印で事足りるのではないだろうか。シヤチハタの実績とロードマップに支えられ、誰でも無償で利用可能ながら、時間や場所を問わず捺印を行える「パソコン決裁Cloud」は、試してみる価値のあるサービスといえる。

(協力:シヤチハタ株式会社)