特別企画

Windows 8から抜け出したいMicrosoft

 7月後半に米国で開催された米Microsoftのパートナー向けイベント「Worldwide Partner Conference 2014」では、世界中のパートナーを集めて、ナデラCEOになった新しいMicrosoftの方針を示している。その方針としては、「クラウドファースト」「モバイルファースト」を打ち出しているが、明確にキーワードとして上げられたわけではないものの、「脱Windows 8」ということも垣間見えた。

Windows 8.1 Update 2はリリースされない

 8月第2週に配信されたWindows Updateの直前には、当初秋に配信されると噂されていたWindows 8.1 Update 2の存在をブログで否定している。

 Microsoftでは、2014年春にリリースされたような大幅なアップデートを、秋にも行う予定にしていたとされている。これが、いわゆるWindows 8.1 Update 2だ。しかしブログでは、毎月配信されるWindows Updateにおいて、今後は新しい機能を随時導入していくことが明らかにされた。

 実際、8月に配信されたWindows Updateでは、Wi-Fi Direct APIを改良して、Windows PCをMiracastの受信機として利用できるようにしたほか、マウス接続時でもタッチパッドが利用できるようにしている。これ以外にも、5月にはWindows Storeのリフレッシュ、6月にはOneDriveの同期管理のアップデートなどが行われている。

 このような流れを見ていると、Microsoftでは、次世代Windowsといわれている「Threshold」(開発コード名)を前倒ししようとしているように思える。

 これは、Windows Vistaの失敗からできるだけ速く抜け出すように開発されたWindows 7と同じような図式を感じる。Microsoftにとって、大きくつまずいたWindows 8を忘れさせる新しいOSブランド(Threshold)を必要としているのかもしれない。

 Windows 8/8.1で採用されたModern UI(タイル)に関しては、使いにくい、分かりにくいといったマイナス面での評価を聞くことが多い。Windows 8.1になり、そこそこ評判はマシになったが、Windows 8に関しては、市場においては大きくWindows OSの評価を下げている。

 タブレットなどタッチファーストのデバイスでの利用を考えると、意義はあったと筆者は思う。ただ、個人ユーザーや企業ユーザーを問わず、Windows PCでWindows 8を使用しているユーザーのほとんどは、デスクトップアプリケーションを使っていて、Windows ストアアプリに積極的に移行しようという状況にはなっていない。

 Microsoftにとっても、今までのデスクトップをそのままタブレットに持ち込んでも成功しない、ということは、Windows XP Tablet PC Editionなど失敗例を見て分かっていたのだろう。こういったことからもタブレット向けの新しいOSが必要とされ、登場してきたのがWindows 8なのだろうが、Windows 8をタブレットで利用できるOSにしようというコンセプトと、デスクトップやノートPC用のOSというコンセプトが入り交じり、整理しきれなかった、という印象だ。

 タブレットで成功した米Appleは、iPhoneで使用していたiOSの機能を拡張してiPadを開発しているし、米GoogleのAndroidも、スマートフォン向けのOSを機能拡張してタブレットに適応させている。現状では、そちらのアプローチの方が、タブレットには適していたようだ。

 しかし一方で、PCカテゴリにおいては未だにWindowsが中心的な存在といえる。

 AppleやGoogleにおいても、Appleでは、PC用(Mac用)のOS Xとモバイル用のiOSをできるだけ融合させていこうとしているし、GoogleではAndroidをPCでも利用できるように拡張していこうとしている。

 このような流れを見ていると、Windows 8は、うまくいかなかったが、1つのOSでタブレットやPCをカバーするという考え方は正しかったのかもしれない。

Thresholdと次世代Windows Phoneでは“1つのOS”に近付いていく

 Microsoftでは2015年以降、スマートフォン向けのWindows Phone、タブレット向けのWindows RT、タブレット/PC向けのWindows 8/8.1、ゲーム向けのXbox One用のOSを1つにまとめ上げようとしている。

 4月に米国で開催されたBuild 2014、日本で開催されたde:codeなどの開発者向けのカンファレンスで発表された、Universal Windows Appsがその大きな第一歩となる。

 Windows Phoneは、Windows RTとコードベースが近く、開発されたスケジュールなどから見ると、Windows RTのOSの一部を利用しているが、フレームワークなどは全く異なっていた。しかしWindows Phone 8.1では、Windows PhoneでもWin RTをフレームワークとして採用するため、Windows 8.1/RTとWindows Phone 8.1で同じストアアプリを動かすことができる。

 Windows PhoneやWindows RTではARMプロセッサを利用し、Windows 8.1ではx86/x64プロセッサを利用していることから、Windows Appsにおいてもマシンコードは異なる。そのため、厳密に言えば2種類のバイナリコードを作る必要はある。しかし、Windows Phone用、Windows RT/Windows 8.1用などの2種類のプログラムを開発するよりも、1つのプログラムがWindows Phoneでも、Windows RT/Windows 8.1用でもそのまま利用できるようになれば、開発効率は大幅にアップする。

 またMicrosoftでは、Windows 8.1/RT向けのWindows StoreとWindows Phone向けのApp Storeを1つにまとめ、1つのアプリを購入すれば、Windows Phoneでも、Windows RT/Windows 8.1でも利用できるようにしていこうとしている。ユーザーにとっては、この変更は歓迎すべきことだ。

 さらに.NET Nativeというプロジェクトでは、開発したアプリのプログラムをMicrosoftのクラウドにアップすると、クラウド側で必要に応じてARMやx64などのバイナリにコンパイルして、Storeからインストールできるようにする、といった仕組みを考えている。Universal Windows Appsでプログラミングしておくと、クラウド側で自動的にWindows Phone用、Windows RT/Windows 8.1のアプリのバイナリを作成してくれるようになるので、開発者の負担は軽減される。

MicrosoftのWindows OSは、スマートフォン、タブレット、パソコン、サーバー、ゲーム機に至るまで、1つのOSとプラットフォームに集約することになる
Windows Phone 8.1でUniversal Windows Appsが実現し、Windows PhoneとWindows RT/Windows 8.1の両プラットフォームでアプリ動作するようになった。Thresholdでは、さらに融合が進む

 今、見えているのはこうした動きまでだが、ひょっとすると、2015年のリリースが予定されているThresholdと次世代Windows Phoneでは、大きな変化があるかもしれない。スマートフォン向けのWindows Phone、タブレット/PC向けのWindows RT/Windows 8.1という今のカテゴリがなくなる可能性もある。そうなった場合、Windows RTに関してはWindows Phoneに吸収され、Windows Phoneがタブレットからスマートフォンまでをカバーするようになるだろう。Windows 8.1系は今と同様、デスクトップ/ノートPC、2-in-1タブレットなどをカバーすることになる。

 なおMicrosoftでは、PCメーカーにWindows 8.1 With Bing(ライセンス料は、ほぼ0円ともいわれている)を提供している。ドメインサポートなどの企業向けの機能はサポートされていないが、機能はほぼWindows 8.1そのままだ。

 Thresholdでのエディション構成がどうなるかはわからないが、将来的にMicrosoftがこの取り組みを拡大し、個人向けのWindows OS(Windows Phone、Windows RT、Windows 8.1系を含む)は無償化して、企業向けのエディションに関しては有償化する、といった方針を採用するかもしれない。現在、企業向けとしてはEnterpriseエディションとProfessionalエディションがあるが、エディションをEnterprise(相当のもの)にまとめて、企業向けはすべて年間サブスクリプションのモデルにしていく可能性もあると、筆者は考えている。

Thresholdでは、デスクトップ上でWindows Store Appsがウインドウとして動作するようになる。また、新しいプログラムメニューが追加される
日本ではリリースされていないWindows Phoneも、2015年のThresholdリリース後には発売されるかもしれない

Threshold時代のサーバーOSは?

 クライアントOSがThresholdにアップデートされれば、サーバーOSもアップデートされることになるだろう。ただ、サーバーOSという企業の基幹で利用するOSがクライアントOSと同じ頻度でアップデートされるというのは、IT管理者としては仕事が増えて面倒だ。

 このため将来的には、クライアントOSのアップデートとサーバーのアップデートはズレていくことを予想している。ただ、ここ数年はWindows OSのコードベースが大きく変化していくため、サーバーOSも頻繁にアップデートする可能性が高い。

 もともサーバーOSに関しては、Microsoft Azureなどのクラウドが大きな市場になるため、企業が自社の内部に持つサーバーのOSを頻繁にアップデートするのではなく、ワークロードやコンプライアンスに合わせて、オンプレミスとクラウドを使い分けるようになっていくだろう。このようになれば、サーバーOSのバージョンを気にすることはなくなるかもしれない。

 また、最近話題になっているARMベースのサーバーに関して、Threshold世代でサーバーOSをリリースするかどうかは不明だ。

 現在、AMDがサーバー向けARMプロセッサを提供し、OSをインプリメントする開発向けのテストサーバーをリリースしている。また、NVIDIAのサーバー向けARMプロセッサDenverは、今年後半のリリースを予定して開発が進んでいる。

 こういった状況を見れば、Threshold世代でARMプロセッサ向けのWindows Server OSがリリースされるとは考えにくい。やはり、もう少しハードウェアプラットフォームが出てきてからになるだろう。2016年以降には、ARMプロセッサ版のWindows Server OSの可能性はあるかもしれない。

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 Thresholdの開発は、急ピッチで行われており、一部報道では、Thresholdは2015年4月ごろのリリースともいわれている。Microsoftとしては、Windows 8でつまずいたことを、Threshold世代のOSで早く払拭していきたいと考えているのではないか。

 Thresholdがリリースされる2015年は、ナデラCEOが率いるMicrosoftにとっては、大きなターニングポイントになるだろう。

(山本 雅史)