特別企画

Wi-Fiコントローラと管理業務の“クラウド化”で新ビジネス開始~ナビックの取り組み

東京大学エッジキャピタルに対する2億円の第三者割当増資も

ナビック 代表取締役社長の高津智仁氏

 「企業のWi-Fi利用は、大きな転換期を迎えていると感じています」――。2013年8月に設立した、株式会社ナビックの代表取締役社長である高津智仁氏はこう話す。

 同社は、予算の少ない中小企業でも導入できる、企業向けWi-Fiサービス提供の準備を進めている。低コストを実現するポイントとなっているのは、従来は高価なハードウェアを購入するのが一般的だった無線LANコントローラをソフト化し、さらにクラウドベースでの提供を実現したこと。

 ハードウェアのコントローラを利用する場合は、機器導入だけで数百万円を超える費用が必要になる場合が多いが、ソフトウェア化した場合、大幅に低価格化が実現する。さらに管理についてもクラウド化したサービスとして提供することで、セキュリティ面を強化するとともに、運用コスト削減を実現した。

 このサービスを支えるのは、公衆無線LANサービスを提供している、ワイヤ・アンド・ワイヤレス(Wi2)の元メンバー。同社の社長を務めていた高津氏を中心に、技術陣も、初期段階で同社の技術開発を担っていたメンバーが集まっている。

 こうしたメンバーとともにナビックでは、さまざまなWi-Fi関連ビジネスを行う計画を立てているのだ。

Wi-Fiの認知向上で導入機運は高まるも…

 現在のWi-Fiの中で最も多くの利用者がいるのは、NTTドコモやau、ソフトバンクモバイルといった携帯キャリアが提供するWi-Fi網だ。これは、スマートフォンのデータ通信の補完的回線として、普及が進んでいる。

 「各地にWi-Fiスポットを作り、マネタイズできないかというトライアルをしてきましたが、Wi-Fi網単体ではマネタイズが難しいと考えられ、2009年頃からキャリアのデータ通信をバックアップする通信網としてWi-Fiが導入されていくようになりました」と高津氏が話すように、主要3キャリアだけでも、全国に数十万カ所のWi-Fiスポットが誕生。多くのユーザーがWi-Fiを利用することになったことで、Wi-Fiの認知度が向上することになった。

 「これは、Wi-Fiといいながら加入キャリアの端末しか利用できないなど、制限が多いものなのですが、Wi-Fiの認知度向上に大きく寄与したことは間違いありません。その結果、これまでWi-Fi導入に消極的だった企業が導入に前向きになってきました。Wi-Fiが受け入れられる環境が整ってきたといえるでしょう」と、高津氏は指摘する。

 これに加え、(1)オープン化によるWi-Fi機器構成のコストダウン、(2)有線LANポートをもたないタブレット端末の普及、という条件が加わったことで、「企業のWi-Fi導入機運が高まった」というのが、高津氏の見方だ。

 従来、管理されたWi-Fiを企業が導入する場合、ネットワーク機器ベンダーが提供する無線LANコントローラ(無線LANスイッチ)と無線LAN管理ソフトを導入する必要があった。無線LANコントローラは、ユーザー認証、不正アクセスポイント検出機能といったセキュリティ機能を持っているものの、大手ネットワーク機器ベンダーの製品は一般に高価で、設置・導入費用までを含めると、時には一式で1000万円を超す価格になる場合もあるという。

 「これだけ高額になると、導入前の社内稟議(りんぎ)を通すのにかなり難しい上、導入後には、機器運用のための別コストがかかります。予算的に余裕がある企業でなければ、導入が難しいのがこれまででした」(高津氏)。

 そこまで予算をとれない企業は、店頭で販売されている無線LAN親機と無線LAN子機を導入し、無線LAN環境の設置を済ませているケースも多いが、こうした機器では、企業での利用には必須のセキュリティ機能があまり含まれていない。店頭で販売されている機器を対策せずに利用するとセキュリティ的に問題が大きいが、この点がきちんと理解されていないのだという。

さまざまなキャリアとの連携も可能

 企業の無線LAN導入機運が高まっている現在、こうした導入のネックとなる問題に対し、ナビックでは無線LANのアウトソーシングサービスを提供することで、課題の解決を図る。

 まず無線LANコントローラは、ナビックが設置したサーバーから企業のWi-Fi機器を集中管理する、クラウドサービスとしての提供を可能とした。また導入後の運用についても、マネージドサービスとして提供するので、利用者側の負担が少なく、低コストで、セキュリティにも配慮した運用が実現する。

 「すでに海外製の製品やサービスが日本にも入ってきていますが、日本語化されていない場合が多いですし、導入や運用の面倒は見てくれません。しかし当社は、日本語で使えるものを提供するだけでなく、運用・管理の部分もサービスとして提供することで、導入のハードルを引き下げました」(高津氏)。

 懸念されるセキュリティ面の不安についても、しっかりとした管理によってそれを払しょくするとのことで、高津氏は「最低限、機器のMACアドレスを取得し、常に端末の動きを監視しますし、必要であれば、指定したユーザー、端末以外は接続できないようにすることも可能です。これによって、その企業のポリシーにのっとった環境で無線LANが利用できるようになります」と説明する。

 また同社のサービスでは、従来必要だった、Wi-Fiを導入する際のネットワーク設計も任せられるため、ネットワークエンジニアを別途手配する必要がなく、その点でもコスト削減につながる。

 こうした特徴に加え、同社の特徴は特定の回線事業者、携帯電話キャリア等の資本が入っていない点も強みなのだという「どこの携帯電話事業者、回線キャリアとも連携してビジネスを行うことができます。この点を強みとして、さまざまなパートナーとビジネスしていきたいと考えています。現在、当社のソフト+サービスに対し、通信キャリアが光回線とのセット販売ができないかと、興味を示してくれています。キャリア側は、光回線の販売先として家庭の次に中小企業を考えていました。そこに合致するものとして、当社のマネージドサービスを売り込んでいきたいと思います」。

 具体的には、マネージドサービスを再販できるメニュー化し、外部のパートナー企業と連携して外販するビジネスとすることも模索している。中小企業向けWi-Fiの場合、すでに中小企業と取引がある企業を介しての導入が向いているため、新たなパートナー構築を行うことも計画しているという。

2億円を調達、ビジネスを本格展開へ

 同社のサービスを開発しているのは、初期のワイヤ・アンド・ワイヤレスの技術陣が中心。「ワイヤ・アンド・ワイヤレスのビジネスモデルが変わり、初期の新規開発を行う力を持ったエンジニアが活躍する場面が少なくなったので、会社を離れたエンジニアも多かった。Wi-Fiを理解したメンバーが中心になって開発をしていることで、技術的な優位性が生まれています」と高津氏は説明する。

 なお、ナビックのこうした面を評価し、ベンチャーキャピタルも動き出した。4月30日付けで、同社は、株式会社東京大学エッジキャピタル(UTEC)が運用するファンド「UTEC3号投資事業有限責任組合」に対して、総額2億円の第三者割当増資を実施した。

 「今回の資金調達によって、検討中であったビジネスを本格的に加速することができます。現在、第1号ユーザーへの導入が進んでいる最中で、導入を進めながら、今後加速化すると思われるWi-Fi導入ビジネスを進めていきたいと思います」と高津氏は話している。

三浦 優子