CTCと日本マイクロソフトが協業、Azureを用いたハイブリッド型HPCソリューションを提供
伊藤忠テクノソリューションズ株式会社(以下、CTC)と日本マイクロソフト株式会社は10日、両社のデータセンターを連携させたクラウドソリューション提供について協業すると発表した。CTCのHPC環境と日本マイクロソフトのWindows Azure Platform(以下、Azure)を連携させたHPCソリューションを、まずは金融機関向けに提供するという。
連携ソリューションの概要 | 日本マイクロソフトの樋口泰行社長(左)とCTCの藁科至徳 取締役兼専務執行役員(右) |
CTCの金融部門では、コンプライアンス部門、特にリスク管理に注力しているが、両社ではすでに2008年から、Windows HPC Serverをベースとしたソリューションを金融分野に提供しており、国内大手銀行のリスク管理システムなど、市場リスク管理や保険数理といった分野で10社への導入実績があるという。
CTC 金融システム事業企画室 担当マネージャーの下地俊一氏 |
今回の協業は、こうした両社の取り組みをクラウドへ拡張するものだが、その背景には、リスク管理に関連した規制が強化されており、金融商品のリスク計算や金融機関の財務計算において、膨大なシステム負荷の発生が予測されていることがある。
この一番の要因はIFRSで、「IFRSが適用されると、金融機関ではすべての口座、貸金、有価証券を計算し直さなくてはいけない」(CTC 金融システム事業企画室 担当マネージャーの下地俊一氏)のだという。しかし、こうした計算は季節性があり、多くは四半期に1回、つまり年間で4回、各1週間~1カ月ほどの期間に集中して行うため、「ピークには膨大な計算量になるが、企業からすれば、ピークに合わせたシステムをずっと持つのは割に合わない」(CTC 取締役兼専務執行役員の藁科至徳氏)といった現状がある。
そこで注目されているのが、パブリッククラウドサービスとの組み合わせによるハイブリッド型のアプローチだ。柔軟にリソースの拡張と縮小が行えるクラウドサービスを繁忙期に活用する前提であれば、ユーザー企業は平常時の負荷に合わせてシステムを構築すればいいので、コスト効率のいい形でHPC環境を利用できるようになる。
今回CTCが提供するサービスでは、同社のデータセンター内にHPC環境を構築し、必要に応じてAzureのリソースを活用することで、一時的なシステム負荷の増大に対応。「四半期に1回、1カ月間ピーク時にクラウドを利用する場合は、最大で7割のコストを削減できる」(下地担当マネージャー)という。
通常時(左)はCTCのデータセンター内のリソースを用いてHPCシステムを運用するが、繁忙期(右)はAzureのリソースを併用してシステム負荷を分散させる。クラウドへは自動的に拡張されるので、ユーザーはクラウド利用を特に意識する必要はないという |
CTCではまず、保険会社の資本に関する健全性の規制「ソルベンシーII」対応に伴い、計算能力の増強が必要とされている保険数理アプリケーションに向けて、ハイブリッドHPC環境の提供を予定するとのこと。さらに今後は、金融のみならず物流、科学分野にも適用を広げていく考えである。CTCでは、金融分野において、今後3年間で30億円の売り上げを見込んでいる。
なお日本マイクロソフト側でも、CTCの取り組みを支援するとともに、営業やマーケティング活動を共同展開するほか、大手町の「イノベーションセンター」の「金融HPCラボ」に、Azureと連携した検証環境を用意し、ユーザー企業が利用するアプリケーションの事前検証を行えるようにするとした。
同社の代表執行役社長、樋口泰行氏は「当社は水平型のプラットフォームを提供する企業であり、各分野でパートナーと協業していくのはクラウド時代でも変わらない」と、コメント。CTCとの取り組みを推進するのに加えて、「クラウドサービスにアプリケーションを載せていくのは大変な作業だが、すでにあるデータセンター同士を連携させるのはやりやすい。短期的には、このようなデータセンター連携が増えてくるだろう」と述べ、同様の連携・協業の拡大にも期待を示していた。
金融以外に、物流、科学など他分野への適用も見込む | 協業における両社の役割 |