「IBM Connections 4」でソーシャルビジネス市場のリーダーを狙うIBMの戦略


専務執行役員 ソフトウェア事業担当 ヴィヴェク・マハジャン氏

 「日本企業の経営層はソーシャルに対する意識が非常に高い。新しいビジネスをソーシャルで作り出したいという強い思いを感じる。IBMはその思いに応えていきたい」――。9月20日、日本アイ・ビー・エム株式会社(以下、日本IBM) 専務執行役員 ソフトウェア事業担当 ヴィヴェク・マハジャン氏は同社のソーシャルビジネス戦略発表会の席でこう強調した。

 IBMは9月上旬、米国において企業向けコラボレーションソフトウェアの新製品「IBM Connections 4」をリリースしている。現在、IBMはConnectionsを「ソーシャルビジネスプラットフォーム」と位置づけており、同社のソーシャル戦略はConnectionsを中心に展開されていると言ってもいい。

 FacebookやTwitterがコンシューマレベルで爆発的に普及したことにより、ソーシャルメディアをビジネスに生かしたい、経営改善に役立てたいとする企業は多いが、FacebookやTwitterでは、セキュリティやアナリティクスといった面での課題が少なくない。この課題を解決するため、ITベンダはここ数年、こぞってソーシャルビジネス市場に参入し、企業のためのソーシャルメディア基盤製品の提供を始めている。

 その中にあって、「マーケットを作る力、高い技術力、グローバルサポート」(ヴィヴェク氏)でもって業界のリーダーを自負するのがIBMだ。「コンペティターの存在など気にもしていない」と豪語するヴィヴェク氏だが、その自信の根拠となるConnections 4とはいかなる製品なのか。またIBMは今後、ソーシャルビジネス市場でどう戦っていこうとしているのだろうか。

 

IBM Connections 4の4つの機能拡張

ソーシャルビジネス向けのIBMプラットフォーム
IBM Connections 4の機能拡張

 企業がソーシャルメディアを活用しようとするとき、社内での情報共有や社内コラボレーションを促進する「内向き」のソーシャルと、外部の関係者とのコラボレーションや顧客とのコミュニケーションを図る「外向き」のソーシャル、この2つのどちらを優先すべきか悩むケースが多い。これに対しIBM Connectionsは、内向きと外向きの両方に対応すべきだとしている。新バージョンのConnections 4も、この点を意識した機能強化となっている。

 具体的には、以下の4つの機能拡張がポイントとなる。

・統合されたソーシャル体験で個人の生産性向上
・コミュニティを活用し、チームの生産性向上
・ソーシャルブリッジを活用して外部とつながる
・モバイルを活用してソーシャルビジネスをいつでもどこでも

 ひとつずつ見ていこう。まずは“統合されたソーシャル体験”である。ここで重要になるのは、1つの画面で思考を中断されることなく、流れるようにソーシャルから情報を取得できることだ。

 アプリケーションをまたがった画面遷移は、ユーザーに思考の中断を余儀なくする。例えば、メーラーでメールをチェックした後に、ブラウザからFacebookを立ち上げ、次にPowerPointでスライドを確認し、そのあとにWordを開き、またメールをチェックする…こうした作業は、アプリケーションの切り替えが必要になるため、そのたびに思考の切り替えもまた必要となる。IBMはこうした流れは生産性の低下を招く要因と指摘しており、Connectionsでは1つの画面(タイムライン)上で可能な限り作業が完結することを目指している。そしてConnections 4で実装された“Activity Stream”がその機能をさらに高めている。

 Activitiy Streamはプロプライエタリ製品からOSSまで、あらゆるビジネスソフトウェアをサポートしている。このため、タイムライン上にはタイムライン上には「○◯さんからメールが届いた」「レポートがアップされた」「××さんがコメントした」といった具合に、さまざまなアプリケーションと連携した通知がタイムリーに行われる。さらに“Embedded Experience”という通知内容のプレビュー機能により、コメントを付けたり承認/否認を行うといったパーティシペーションアクションも可能だ。同様に画面の右側にグラフや画像を表示させるといったことも簡単にできる。「今回のバージョンアップで実現した統合されたインターフェイスは、IBMが2年前に約束していた機能を実現したもの。Activity StreamこそはConnectionsの基盤であり、個人の生産性向上のカギ」と日本IBM 理事 ソフトウェア事業 Lotus事業部長 三浦美穂氏は語る。

 “コミュニティの活用”は、チーム単位でのソーシャル活用にフォーカスを当てている。コミュニティ内の通知機能やコミュニティごとのカスタムレポート作成など、「チームで活動するならソーシャルを使おうという流れを促進することに力を入れている」(三浦氏)という。

 3つめの“ソーシャルブリッジ”は、内外のソーシャルネットワークを迅速につなげることを目的としている。「IBMはもともとフレームワークやアーキテクチャを整理してインターコネクトを作るのが得意な企業」と三浦氏は言うが、このソーシャルブリッジはまさにその得意分野を生かした機能と言えるだろう。今回のバージョンアップでは、FacebookやTwitterなど外部の情報を迅速かつセキュアに社内で共有したり、複数の関連コミュニティをひとつにまとめて表示させる機能が追加されている。「内外のソーシャルの情報を単にひとまとめにするではなく、外部の重要な情報をブリッジングして、生産性の向上に生かしていくこと、これが重要」と三浦氏。

 そして最後が“モバイル”である。Connections 4は、iOS、Android、Blackberryに対応しており、先日発表されたばかりのiPhone 5もサポート済みだ。iOSとAndroidに関してはネイティブアプリも提供している。モバイルはソーシャルメディアと非常に相性が良いため、今後はConnectionsの機能強化においても最も期待される部分だろう。

 

IBMのソーシャルビジネス戦略

IBMで成長しているソリューションポートフォリオ

 IBMはここ数年、グローバルでソーシャルの利用を社内で進めてきた。したがって、企業がソーシャルメディアを利用するためのノウハウに関しては、大きな自信を見せている。ヴィヴェク氏は「インフラからWebアプリまで、オンプレミスからクラウドまで、また業務ごとのソリューションを見渡しても、ソーシャルビジネス市場ではIBMが圧倒的に強い」と語る。国内でもパナソニック、ベルリッツ、リコーといった大手が採用企業に名を連ねており、「あと5年で、ほとんどの企業がソーシャルを活用するようになる。コンシューマが利用するソーシャルとは異なるニーズをとらえ、アナリティクスなどを含めて企業にソーシャルを訴求していくとき、これまでのノウハウが強みとなる」とヴィヴェク氏は日本市場での優位性を強調する。

 IBMは今後、ソーシャルビジネスに関するパートナーとの連携をより深め、“ソーシャルエコシステム”を構築していきたいとしている。また、グローバルでは引き続き買収戦略を進めていくとしており、8月に話題となったタレントマネジメント企業のKenexaのようなすぐれたSaaS/ソーシャル企業の買収に注力していくという。

 経営層のソーシャルに対する関心が強まる一方で、「ソーシャルをビジネスにどのように活用すべきかわからない」とする声もまた多い。ヴィヴェク氏は「テクノロジの使われかたは国によってそれぞれであり、こういう使い方をすべき、などと決めつけるべきではない。むしろソーシャルの新しい使い方を、われわれは顧客から逆に学んでいきたい」と語る。実際、ソーシャルビジネス市場には、まだ圧倒的な勝者が存在していないというのが正直なところだろう。コンシューマドリブンでスタートしたソーシャルビジネスは、ユーザー企業もベンダもまだ手探り状態の中にある。ノウハウを積んできたIBMもそれは例外ではない。Connections 4でその状況を打破し、頭ひとつ抜け出すことができるかどうかは、成功事例をひとつでも多く積み上げていくことがカギになるだろう。


CEOはソーシャルを重要視しているという調査結果も出た社内コラボレーションの変革も積極的に行おうとしている
関連情報
(五味 明子)
2012/9/21 11:28