IIJとACCESSの合弁会社、ストラトスフィアがSDN事業の説明会開催
来週のInteropでStratosphere SDN Platformをお披露目
ストラトスフィア代表取締役社長 浅羽 登志也氏 |
株式会社インターネットイニシアティブと株式会社ACCESSが4月5日付けで設立した合弁会社「株式会社ストラトスフィア」は6月4日、事業説明会を開催。SDN(Software Defined Network)技術をベースとして、仮想ネットワークによるIaaSなど、次世代クラウド環境実現のためのプラットフォームを構築するソフトウェアスタックの研究開発を行っていくと説明した。
ストラトスフィア代表取締役社長 浅羽 登志也氏は「現在CPUやストレージなど計算のリソースは仮想化されているが、ネットワークの部分の仮想化が遅れていて、情報システム全体の仮想化が遅れている」とサービスの背景について説明。
「このため、物理ネットワークの構成に合わせたネットワークシステムを組むことになるが、例えばイーサネットのVLANには4094という限界があり、『CPUは余裕があるが、VLANがもう取れない』といった状況も実際に発生している。また、VLANはイーサネットのL2を使っているので、L2自身の制約もある。」
また、複数の仮想マシンとデータセンターを広域に分散するようなケースではネットワークの複雑な構成管理や物理的なボトルネックとなっていると述べた。
ストラトスフィアでは、こうした課題を解決し、複数のデータセンターや、複数の機器で構成されるネットワーク全体をソフトウェアで制御することによりネットワーク仮想化を実現するSDNを構築する。
浅羽氏は、「今後はインフラとIaaSの間にSDNシステムを作ることができると考えている」して、ストラトスフィアの目指すモデルを図示。従来は、IaaS、PaaS、SaaSなど目的別の垂直統合モデルで提供されていた各サービスを、物理的なインフラストラクチャの上に仮想ネットワークインフラとしてSDNをかぶせることで、その土台の上にIaaS、PaaS、SaaSを重ねていけるモデルを示した。
ストラトフィアのクラウドモデルは、ちょうどOSI参照モデルのように機能別に水平分離し、スタック化が可能なモデルとなっている。そのキーとなるのがSDN層で、浅羽氏は、ストラトスフィアの社名は、このSDNを対流圏と中間圏との間の大気の層(成層圏=Stratosphere)にたとえて社名としたと述べた。
システムリソースやファシリティなどの状況を考慮した仮想情報システムを任意に構成可能とする | 現状の課題と目指すソリューション | 従来の目的別垂直統合型(左)と、ストラトスフィアの目指す機能別水平分離とスタック化モデル(右)。SDNを成層圏にたとえたのが社名の由来だ |
ストラトスフィア 取締役副社長の石黒邦宏氏は、「特に昨年からOpenFlow とSDNという考え型が盛り上がってきた。OpenFlowは、ネットワーク機器に直接命令を送って構築するモデル。ネットワークにある機器すべてがOpenFlow対応という想定のHop-by-Hopモデルになる。しかし、現実にはすべてのものをOpenFlow対応で構築するのは難しい」としてすべてをOpenFlow対応にするには時間がかかると指摘。
そこで、ストラトスフィアでは、「中間にあるネットワーク機器については、サーバーの中に仮想スイッチを置き、トンネリングを行う。まずはEdge Over-layで仮想ネットワークを実現する」とした。
トンネリングプロトコルでは、ストラトスフィアの出資会社であるACCESSが取り組んできたプロトコルで運用実績もあるEtherIPのほか、VxLAN、NVGRE、SDNで先行する米ニシラネットワークスのSTTなどに対応すると説明。こうしたトンネリングプロトコルの採用で、具体的にはたとえばVxLANでは従来のVLANでは4096までしか対応できなかったところ、1600万テナントを一意に識別可能になる。
VMは、KVM、VMware、XENに対応。IaaSは、Open Stack/Cloud Stackに対応し、OpenFlow ControllerではNOX、floodlight、tremaに対応する。
石黒氏は、その他の技術課題として、ルータ、ファイアウォール、ロードバランサー、WANオプティマイザーなどを仮想化した仮想ネットワークアプライアンスや、ネットワークアーキテクチャではTag VLAN、MPLSなどの既存技術との融合、エッジネットワーキングではPPPoE、L2TP、IPsec/User認証、アカウンティングなどを上げた。スタック化ではPaaSへのAPI提供、ネットワークの隠ぺいなども実装する予定だ。
OpenFlowの適用モデル。Hop-by-Hop(上)では、すべてがOpenFlow対応でである必要があり、現実的には難しい | 全体のアーキテクチャ | ソフトウェア・アーキテクチャ |
■事業ロードマップ
事業目標としては、まず第一段階として、クラウド上に仮想ネットワーク環境を実現するSDN IaaSを構築。これにより任意のVM間での広域も含むL2 VLAN接続を可能にし、100万テナント以上のVLANも収容可能となる。
構築したSDNはIaaSと連動させ、任意の仮想情報システムを柔軟に構築・展開可能とする次世代クラウド環境を構築。これにより、VMの生成や削除、VM間ネットワークの自動設定や、物理リソース上でのVM再配置への仮想ネットワークの追随が可能になる。
また、上位のPaaSへの基盤サービスレイヤを提供。Ruby on Rails、Hadoop DFS、Cassandra NoSQL、Hbase BigTableなどのPaaSに対する必要なIaaS APIの再定義を行い、上位レイヤを仮想ネットワーク環境に合わせて再構築を行う。
「SDNはキーコンポーネントになるが、クラウドOS的なところを目指したい。全体を融合した日本発のCloud OSを提案していきたい」。
具体的な開発方針としては、VM IaaSと連動するネットワーク仮想化コンポーネントを最初のプロダクトとする。IPネットワークをシームレスに活用できる環境構築を目指し、オーバーレイ型のSDNソリューションとする。「既存のIPv4/IPv6に、何も手を加えなくてもそのまま乗ることが重要だ。」(石黒氏)
ロードマップでは、2012年4月から6月までに数十台規模で動作するSDN IaaSのベータ版をリリース。7月から9月まで数百台規模での運用とIaaSとPaaSの連動を実装し、SDN IaaS製品版をリリースする。10月から12月に統合Cloud制御環境構築と特定PaaSの取り込みを行い、Cloud OSのアルファ版をリリース。2013年1月から3月に、Cloud OSとしてのパッケージと機能を整備、PaaS連携機能整理を行い、Cloud OS製品版をリリースする。
(競合となる米ニシラネットワークスなどに対して)「後発となるので、早く追いつかなくては」(浅羽氏)としており、1年間でCloud OS製品版リリースまでを行うハードなスケジュールとなるが、SDN IaaS ベータ版については、5月末にすでにリリース、評価できる状態となっている。
初期開発ターゲット | 取り組むべき課題 | Cloud OS開発ロードマップ |
製品ターゲットは、国内でクラウドサービス、通信サービス、データセンター事業を展開する事業者。加えて、自社で大規模なプライベートクラウドを運用する企業なども対象になるという。
■来週のInteropでお披露目、デモとクラスルームセッション
ストラトスフィアの提供するSDNソリューションについては、6月13日から15日までの3日間にわたって幕張メッセで行われる「Interop Tokyo 2012」で、ACCESSのブース(6G27)でデモを実施。6月14日(木)14時~14時40分に「SDN Powered Application Layer」と題して、ストラトスフィア副社長の石黒邦宏氏によるクラスルームセッションも行われる。セッションは事前登録制。
事業説明会ではデモも行われた | 東京のデータセンターから大阪のデータセンターへVMをライブマイグレーションするデモ | デモでは、GREトンネリングを使用 |