あらゆるユーザーのあらゆるニーズに応えるアプリケーションを~Visual Studio 11の強化ポイントをMSが公開


日本マイクロソフト 執行役 デベロッパー&プラットフォーム統括本部長の大場章弘氏

 日本マイクロソフト株式会社は29日、報道向けに同社の統合開発環境「Visual Studio」の次期バージョンである「Visual Studio 11(開発コード)」の技術説明会を行った。現在ベータ版が提供されているVisual Studio 11だが、リリース時期が年内なのか、それとも2013年になるのかは決まっていない。しかも“Visual Studio 11”という名称すら正式決定ではない。

 しかし、「マイクロソフトが現在、全力で開発に取り組んでいるWindows 8のアプリケーション基盤となる非常に重要な製品。以前からのマイクロソフト製品の開発者はもちろん、マイクロソフト製品になじみのなかった開発者にも数多くの価値を届けられると確信している」と日本マイクロソフト 執行役 デベロッパー&プラットフォーム統括本部長の大場章弘氏が強調するように、Visual Studio 11がWindows 8の成功を大きく左右する存在であることは間違いない。

 詳細なロードマップや内容についてはまだ語れることが少ないとしながらも、「現時点で日本の皆さんにお伝えできる最大限の情報を公開したい」(大場氏)という趣旨のもと開催された説明会の内容をベースに、Visual Studio 11の位置づけと強化ポイントについて紹介する。

 

アジャイルな開発スタイルを意識したVisual Studio 11

日本マイクロソフト デベロッパー&プラットフォーム統括本部 開発ツール製品部長の伊藤信博氏
開発者を取り巻く状況

 Visual Studio 11の戦略的位置づけについて説明を行ったのは、日本マイクロソフト デベロッパー&プラットフォーム統括本部 開発ツール製品部長の伊藤信博氏。同氏はまず、現在の開発者を取り巻く環境には、

・魅力的なアプリケーション――ITのコンシューマライゼーションの加速により、ユーザーのアプリケーションに対する期待が高まっている
・継続的なサービス――マルチデバイスの普及で、いつでもどこからでもどんなデバイスからでも使えるサービスをユーザーが求めている
・柔軟なプラットフォーム――ソーシャルメディアやクラウドの利用が一般化し、ユーザーの環境の幅が広がっている

といった3つの要素が強く求められていると前置きする。

 「仕様にそって要件定義したアプリケーションを開発するというスタイルではなく、絶え間なく変化するトレンドを踏まえながら、ユーザーの要求をすぐに動く形で、しかも生産性と品質を落とさずに作り上げる傾向が強まってきている、と多くの開発者が口にしている」と伊藤氏。言うなればアプリケーション開発のトレンドが、世界的に見てもウォーターフォールからアジャイルに移りつつあるのかもしれない。

 開発者が激しい時代の変化に対応するアプリケーションを求められるのであれば、Visual Studio 11はそれに応える開発環境を提供する義務がある。伊藤氏はその点について「これまで時代に即した進化を遂げ、最高のユーザーエクスペリエンスを提供してきたVisual Studioだからこそ、Visual Studio 11では新発想のアプリケーション開発環境を届けられると信じている」と自信をのぞかせる。


Visual Studio 11における強化ポイント

 Visual Studio 11における強化ポイントは大きく以下の3つになる。

・アプリケーション利用者の期待に応える
・無駄を省いて注力できる開発環境
・俊敏性の高いコラボレーション

 現在、マイクロソフトは製品開発においてワールドワイドでアジャイル開発を採用し、約9800名の社員がテスターとして従事している。その開発スタイルで年間300を超える製品を世界に送り出しているという実績は、同社自身が“時代に即した開発”を行っている証しでもある。だからこそVisual Studio 11が現在の開発者の要求に応えた製品になると言い切ることができるのだろう。

 

Visual Studio 11の新機能

日本マイクロソフト デベロッパー&プラットフォーム統括本部 開発ツール製品部 エバンジェリストの長沢智治氏
Visual Studio 11では、あらゆる開発ニーズに対応できるという

マイクロソフトが絶対の自信をもって送り出そうとしているVisual Studio 11。その新機能のいくつかについて、日本マイクロソフト デベロッパー&プラットフォーム統括本部 開発ツール製品部 エバンジェリストの長沢智治氏がデモを交えながら紹介を行った。

まず、開発者は現在、多種多様なプラットフォーム上で動くアプリケーションを要求されている。マイクロソフトが提供するプラットフォームに必要なアプリケーションだけでも、

・デスクトップアプリケーション
・Directベースアプリケーションやゲーム
・Webアプリケーション
・Metroスタイルアプリケーション
・.NET Framework 4.5サーバーアプリケーション
・Windows Azureアプリケーション
・SharePointアプリケーション

と非常に多岐にわたる。だがVisual Studio 11はこれらのすべてで動くアプリケーションを開発することが可能だと長沢氏は言う。そのポイントは

・無駄を省く
・シンプル
・使い勝手
・フィードバック

の4点。以下、長沢氏が行ったデモからもう少し具体的に見ていこう。

・レガシーのサポート
 業務で利用しているレガシーなシステムにも対応するため.NET Frameworkはバージョン2.0以降、すべて対応している。あらゆるニーズに対応するというポリシーは古い環境にも適用される。


・マイクロソフト以外のテストユニットフレームワークに対応
 Visual Studio 10まではマイクロソフト単体のテストユニットが提供されていたが、Visual Studio 11ではxUnit系のNUnitやJavaScript用(jQuery)のQUnitなどでも検証が行えるようになっている。これはさまざまなデバイスやプラットフォームに対応するため、製品コードを書くだけではなく、検証できる環境も必要という開発現場のニーズを反映したと言える。「テスト段階から品質を高めるための作りこみをしたいという開発者のニーズに応える」(長沢氏)


jQuery派生のQUnitで検証しているところ

・開発者が開発に注力できる環境を
 「現在、求められている“成熟した開発環境”とは開発者が本当に開発に注力できる環境のこと」と長沢氏。そのためには「IDEは極力無駄を省き、シンプルである」ことが重要だとする。だがIDEの画面をシンプルにすることは意外なほど難しい。

 マルチデバイスやクラウドに対応したアプリケーションを開発するとなれば、込み入った作業が多く発生するため、IDE上に何個もタブが並び、右側のプロジェクトファイルもずらずらと表示されることになる。このため開発者は複数のインスタンスから取り組むべきひとつを見つけることが難しくなる。そこでVisual Studio 11では、いま現在、開発者が関心を寄せている作業にフォーカスできるよう、参照したいものだけをプレビューで見せることが可能になっている。

 また、検索やヒストリ機能も大きく改善されており、「例えば作業が進んでタブが増えたとき、1つか2つ前の作業に戻りたくなったら、ヒストリを表示→選択することですぐに前の作業に戻ることができる」(長沢氏)など、すぐに必要なプロジェクトに着手できるよう、開発者の使い勝手を最大限考慮したインターフェイスになっている。


プレビュー形式で参照したい部分をすぐに表示。検索機能も大幅に改善

・チーム作業の効率化
 チームで開発を進めていく場合、開発者とテスター、開発者とマネージャなど、チーム間のコミュニケーション/コラボレーションが重要であることは言うまでもない。Visual Studio 11はチーム開発の効率改善を製品の大きな特徴のひとつに挙げており、Visual Studioファミリの「Team Foundation Server」との連携がポイントになる。

 チームの一員としての開発者は、自分が担当する作業がチームの中で現在どういう状況に置かれているのかを常に意識しておく必要がある。それをIDE内で直観的に操作するするため、Visual Studio 11では関連するタスクの一覧が可視化できるようになっている。

処理中の作業、レビューの結果など、チーム内での担当作業が可視化されている

 チームで作業をしていると、例えば「緊急でこの作業をやってほしい」という割り込みのタスクを依頼されるケースも多い。その場合、開発者はいったん自分の作業を中断し、割り込みのタスクをこなしてから、再び中断した作業に戻る。この際、ソースコードの状態も、割り込み前に作業をしていたときと同じ状態であるほうが望ましい。「Visual Studio 11ではそういった開発者の要望にフレキシブルに応えることが可能。途中からでも元に戻れるという安心感を開発者に提供できる」(長沢氏)。

そのほか、Visual Studio 2010から提供されているテストマネージャを利用してTeam Foundation Serverに置かれているテスト作業項目を表示する際も、個々の開発者が好みのビューで「自分が一番しっくりくる形でテスト作業を確認することができる」(長沢氏)など、細かい部分での改善も多い。

 フィードバックをすぐに反映できるよう、コードのレビューやコメントも見やすく、かつ書き込みやすくなっている。このあたりの機能強化の充実ぶりを見ると、マイクロソフトがチーム間のコミュニケーションロスを防ぐことにいかに注力しているかが理解できる。

 

さらなる詳細はWindows Developer Daysで

 説明の最後、長沢氏は「開発プロセスをスピーディにすること、そして実際にアプリケーションを運用してフィードバックを継続的に行い、価値を高めていくこと、この2つにフォーカスしている開発環境がVisual Studio 11」だと総括した。つまりはアジャイルな開発スタイルを非常に意識した製品ということになる。先にも書いたように、マイクロソフト自身が時代の流れを敏感にキャッチアップしていくための試行錯誤を繰り返し、いまの時代の開発者には“ローンチ&イテレート”なアプリケーション開発環境が必要と判断した上でのアプローチと見ていいのではないだろうか。

 現在、Visual Studio 11 Betaはマイクロソフトのサイト(http://www.microsoft.com/visualstudio/11/ja-jp)から無償で入手することが可能だ。また、4月24日および25日にザ・プリンスパークタワー東京で開催される同社の開発者イベント「Windows Developer Days」ではWindows 8とともにVisual Studio 11の最新情報が公開される予定という。

 Windows Phoneで採用されているメトロスタイルのアプリケーション開発などについても情報が提供される予定とのこと。残念なことに気になる製品リリース時期や製品構成など、ロードマップに関する話はまだ語られないが、着実にその姿を見せ始めたVisual Studio 11の今後の展開に期待したい。


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