富士通とTRVA、クラウドを利用したペット診療の実証実験

被災地・石巻のペット救済医療にも実践投入


 一般社団法人 東京城南 地域獣医推進協会(Tokyo Japan Regional Veterinary Medicine Promotional Association、以下TRVA)と富士通株式会社は5月12日、クラウドサービスを用いてペットの診療情報を地域で共有・活用する共同の実証実験を開始すると発表した。

24時間対応、高度医療へのニーズを満たす地域動物医療システムの構築へ

左から、TRVA会長 古谷隆俊氏、TRVA理事小林元郎氏、富士通 クラウドビジネスサポート本部 本部長 岡田昭広氏

 TRVAは、東京都城南地区(世田谷区をはじめとする都内7区)で開業する東京都獣医師会員41名で発足。今年2月に世田谷区深沢で夜間動物医療センターを開設し、地域の動物病院と連携した診療を行っている。

 TRVA会長の古谷隆俊氏は、近年ペットに対する飼い主の認識は飼育の対象から家族の一員へと変化しており、ペット医療に関して飼い主側の意識や行動も変化していると説明。具体的には、夜間も診療が受けられる医療環境や、症状により高度な治療設備や専門知識をもった医師による診療などが求められているという。

 しかし、動物病院のうち88%は獣医師1~2名で経営しており、24時間365日対応などの医療サービスを提供するのはひとつの動物病院では困難であるという現状があるため、これまでのかかりつけ医による単一病院での対応から、夜間受付や高度治療設備を持つ診療機関と連携を行い、地域として飼い主の求める充実した診療体制を提供する必要があるとした。ただし、現状は診療情報の管理は動物病院ごとに異なり、カルテは紙で記録しているためこうした診療記録の共有自体が困難であると現状の課題を挙げた。

 こうした背景からTRVAでは、飼い主のニーズに応えるために夜間救急動物医療センターを開設。1階には検査機器を設置し、2階を夜間救急医療センターとして、夜間診療と、より高度な検査機器や医療が受けられるような地域獣医療システムを構築した。

 ただし、飼い主のニーズに応えるには夜間診療センターなどの設備を設けるだけではなく、かかりつけ医と夜間診療センター、高度治療設備をもつ診療基幹がスムーズに連携できるよう、カルテや検査結果のデータ共有が必要となる。医療情報が個人の病院から出ることがなく、活用されないという現状を打破するために、「どうぶつ医療クラウド」を構築、地域獣医療のセーフティネット構築を目指して富士通との実証実験に取り組む。

 現在、「どうぶつ医療クラウド」では夜間救急動物医療センターで診察した際のカルテ、検査結果などが地域のかかりつけ医に共有される仕組みはできているが、かかりつけ医の持つ診療データは夜間救急動物医療センターで共有できる仕組みはできていない。

 これについて、TRVA理事の小林元郎氏は「かかりつけ医のもつ情報の共有は、今後絶対に必要なことだと考えている。TRVAには現在41の動物病院が参加しているが、たとえば手術の際は連絡を入れてほしいなど、かかりつけ医側の要望もある。そうした要望は現在紙ベースで共有しているが、今後はクラウドで共有していきたいと考えている」とコメント。単にペットのカルテや検査結果のデータ共有にとどまらず、かかりつけ医としての治療指針についてもクラウドで共有していく考えを示した。

飼い主の意識変化に対応するための、動物医療現場の課題TRVAの取り組み
1階は検査機器を並べた検査室、2階が夜間救急動物医療センターとなっているTRVAの目指す地域獣医療のセーフティネット

 

すでに被災地でのペット救済に

 富士通株式会社 クラウドビジネスサポート本部 本部長の 岡田昭広氏は、「どうぶつ医療クラウド」は、富士通クラウドを基盤としたIaaSレイヤと、データを必要な第三者へのみ共有開示可能な仕組みや標準的APIでの連携の仕組みなどを提供するPaaSレイヤ、効率良く医療現場で情報入力を行うための簡易な入力インターフェイスを提供するSaaSレイヤからなると図を示しながら説明。「現場で起こっていることを反映してすぐ開発する、アジャイル開発の手法を取っている」とした。

 富士通としてこの実証実験については、「クラウドの特徴を実証実験できるのではないかということで取り組んでいる」と富士通が取り組む理由を説明。提供するサービスは、「医師と医師の情報共有、医師と患者の情報共有、業者間の情報共有」で、ペットの医療データを「Pet Health Record」として必要に応じて公開はできるが漏洩しない仕組みを構築すると述べた。

情報共有の容易性、現場状況への即時対応性などクラウドの特徴・有効性を実証「どうぶつ診療支援サービス」と「セキュア情報共有基盤サービス」を提供する
SaaSでは、診療の流れに沿った入力しやすいインターフェイスを実装セキュア情報共有基盤サービス。標準的なAPI採用により、他社製品やベンダーとの連携も可能にする

 また、「どうぶつ医療クラウド」は、城南地区での実験だけではなく、TRVAが宮城県の獣医師会と連携し、石巻市でペットの救済活動で活用が始まっていると紹介。シェルターの動物の健康管理や、里親捜しなどもできるよう5月2日から利用を開始し、「現場では使っていただけそうな感じになっている」(岡田氏)という。

 「どうぶつ医療クラウド」は情報を共有できる仕組みを構築しているため、ペットの情報をクラウドの中で管理し、ボランティアの現場医師が入れ替わる中でもペットの情報を共有できているとした。ボランティアの活動の作業計画にも利用されているという。

 対応OSとしてはWindows OSのほか、Android対応のアプリも開発が終わり、石巻のペット救済現場では、すでにAndroidタブレットを活用。被災地における活動ではAndroidタブレットに3G回線も必要なため、NTTドコモから端末提供の協力を得て、被災現場に提供している。端末は特定の1機種ではなく、すでに複数機種を活用しているという。

基盤となるオンデマンド仮想システムサービスすでに東日本大震災の被災地おいても、ペット救済活動に活用されている

 

今後のスケジュールやビジネス化

 富士通の岡田氏は実証実験の今後について、「始めたところなので、効果が見えるまで続ける。数年単位のプロジェクトになるだろう。商用化の際のコストについては、実証実験を続けていく中で、どういう形のコスト負担がいいか詰めていこうと考えている。通常のクラウドサービスのように、IDあたりいくらといった単純な課金にはならないだろう」とコメント。

 また、「人間の医療と動物ではかなり違い、人間の場合は情報管理などで規制も多いためこうした試みは難しい。クラウド的な事業というものをこの実験で検証しようと考えてい」と富士通としての取り組みを述べた。




夜間診療受診のデモ。診療前に、ペットの年齢や性別、既往歴などを動物看護師が確認してデータ入力を済ませておく夜間診療を担当した獣医師の記入したカルテや、X線写真など各種検査結果データはかかりつけ医に共有される
関連情報
(工藤 ひろえ)
2011/5/13 15:10