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富士通研究所、地方移住の満足度向上にAIを活用する実証実験を開始

 国立大学法人九州大学のマス・フォア・インダストリ研究所富士通ソーシャル数理共同研究部門と、福岡県糸島市、株式会社富士通研究所は24日、人間の好みを徐々に学習し、自ら成長するAI(人工知能)を用いて、地方都市への移住希望者と移住候補地を適切にマッチングさせるための共同実証実験を開始すると発表した。

 糸島市では、昨今の地方への移住・定住に関する注目度の高まりにより移住相談が増加してているが、移住希望者は移住先検討の際、地域に密着した情報を得ることが難しく、移住者の満足度が低下することもあるという課題があった。

 実証実験では、移住希望者の好みを自律成長するAIに学習させ、好みに基づいて移住希望者に適切と考える移住候補地の地域密着情報を提示し、提示された地域の評価を繰り返してもらうことで、移住希望者と移住候補地のマッチングを支援する。

 実証実験の実施にあたり、糸島市は移住希望者・地域住民インタビューのフィールド提供および移住地域推薦のノウハウ提供を、九州大学マス・フォア・インダストリ研究所富士通ソーシャル数理共同研究部門と富士通研究所はAI技術の開発および社会科学の知見を用いたAI技術の評価検証を担当する。

 移住希望者の特性と好みの関係を数理技術を用いてモデル化し、自律成長AIはこのモデルに従って移住希望者の特性に適した地域を提示する。提示された地域に対して移住希望者が評価を行い、その評価結果を基にAIが移住希望者の好みをさらに学習し、自動で数理モデルを修正して、自律成長していく技術を構築する。

 実証実験では自律成長AIの性能を実フィールドで検証するとともに、同じ属性の移住希望者に対し、実証前の移住相談と比較して自律成長AIにより移住希望者の満足度が全体的にどの程度向上するかという行政サービスの質の観点からの効果も検証。実証実験期間中も移住希望者から得られたフィードバックを基に適宜AI技術を修正し、より良い移住支援システムへと改善する。

 また、本実証実験では、AIは機械的に移住希望者と移住候補地をマッチングすることを主眼とするのでなく、移住希望者が自分の移住先での希望を知る手助けを行い、AIが提供する推薦結果を市担当者と共有して効率的な会話を実現することを主要な狙いとしている。こうした人間同士の会話を促進するためのAI活用とすることで、AIを使用する際の心理障壁を取り除き、移住希望者の満足度向上を期待するとともに、移住希望者にとっての利用しやすさの観点からも見直しを行い、人と協創して社会に受容されるAIの構築を目指すとしている。

 実証実験は、2016年9月~10月(予定)に少数の被験者によるAI技術のプレ評価を実施。2016年11月~2017年3月(予定)に移住相談の場におけるAI技術の効果検証を行う。

 糸島市では、細かな地域密着情報を提供し、移住希望者に移住先の地域を知ってもらい、気に入り、納得して転入してもらうことで、移住者の不安解消、周辺住民とのトラブルの防止、生活満足度の向上、地域活動の活発化、住民の転出抑制などにつなげるとしている。

 九州大学と富士通研究所では、人間の好みや希望といった心理に関する数理モデルとAI技術を融合し、移住希望者のマッチングのみならず、多様な社会課題の解決を目指す。また、富士通研究所は、実証実験の結果から自律成長AIの改善を行い、2017年度中に富士通株式会社のAI技術「Human Centric AI Zinrai」の新技術としての実用化を目指す。