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孫正義氏「ソフトバンクはOracleで接続率1位になった」
~Oracle CloudWorld Tokyo基調講演

ラリー・エリソンCEOは30日以内のOracle Database 12c“登場”を予告

 4月9日、東京・六本木のグランドハイアット東京において「Oracle CloudWorld Tokyo」(主催:日本オラクル)が開催された。同イベントへの事前登録者数は4900名を超え、日本オラクル主催のワンデーセミナーとしては「過去最高を記録」(日本オラクル 代表執行役社長の遠藤隆雄氏)する数の参加者を集めている。

 午前中に行われた基調講演には、米Oracleのラリー・エリソンCEOがサテライトで登場し、Oracleのクラウド戦略についてプレゼンテーションを行った後、国内最大のOracle Exadataユーザーとされる、ソフトバンクの代表取締役社長 孫正義氏が登壇。エリソンCEOと対談を行ったほか、ソフトバンクグループにおけるOracle製品を活用したクラウドおよびビッグデータ事例の紹介を行った。本稿ではその概要をお伝えする。

クラウドの普及モデルはユーティリティモデルだ

米Oracleのラリー・エリソンCEO。サテライトでの登場となった

 開催直前に来日が中止となってしまったエリソンCEOだが、世界10都市で開催されているCloudWorldのうち、サテライトとはいえ同CEOが基調講演を行うのは東京のみとなる。

 エリソンCEOはまず、クラウドコンピューティングがいかに世界を席巻しているかについて触れ、「近い将来、アプリケーションはすべてクラウドから提供されるようになり、ユーザーはPC上のブラウザだけでなくスマートフォンやタブレットからのアクセスが中心となる。アプリはクラウドに、サーバーはデータセンターに置かれるようになり、ユーザーの手元にはモバイルデバイスだけ。そういう時代がまもなくやってくる」と強調する。

 さらにクラウドの普及モデルを「電気や水道のようなユーティリティ(公益事業)モデル」と表現し、「ユーザーはクラウドについてその裏側の複雑さを知る必要がない。蛇口をひねれば水が出る、コンセントにプラグを差せば電気を得られるように、ユーザーはクラウドを使いたいときだけそのパワーを使えばいい。電気を作り出すのが送電会社の役目であるように、コンピューティングパワーを提供するのはサービスプロバイダの役目。そして電気や水道と同様に、クラウドはユーザーが使った分だけ料金を支払う従量課金制がふさわしい」とクラウドのあるべき姿を“ユーティリティコンピューティング”と定義する。

 公共事業のように、コンピューティングパワーがクラウドで提供される時代がきたとき、「すべてのクラウド環境、つまりSaaS、PaaS、IaaS、さらにはプライベートクラウドを含めて包括的に提供できるのはOracleだけ」とエリソンCEOは続けている。

業界標準とアプリ間の容易な統合・拡張にこだわる

 Oracleは現在、従量課金制のパブリッククラウド(SaaS、PaaS、IaaS)である「Oracle Cloud」と、ユーザーのデータセンター内にプライベートクラウドとしてIaaSを構築する「Oracle Private Cloud」を提供している。

 Oracle Cloudが提供するサービスのそれぞれの強みについて、エリソンCEOは以下の点を挙げている。

・SaaS … CRM、HCM、ERPなど100種類以上のアプリケーションを包括的なスイートで提供。競合はSAPではなくsalesforce.com
・PaaS … Oracle Database、Java、Fusion Middlewareなど業界標準の技術で構成されたセキュアなプラットフォーム
・IaaS … Exadata、Exalogic、SuperClusterといった高性能のOracleハードウェアがベースで、OSやVM、コンピュートサービス、ストレージサービスもすべてOracle製品。競合はIBMではなくAmazon.com

「これほど豊富なSaaSポートフォリオを抱えているのはOracleだけ」(エリソンCEO)

 特にエリソンCEOが強調していたのが「業界標準の技術」と「アプリケーション間の容易な統合/拡張」だ。

 ことに業界標準であることに関しては「Oracleが最もこだわっている部分」だとし、「JavaやSOAなど、業界標準の技術だけでクラウドを構築しているのはOracleだけ。Oracleがスタンダードにこだわるのは、競合他社のようなベンダーロックインが発生することを避けるためだ」と強調している。

 またアプリケーション間の統合については「すべてのアプリケーションがクラウドに置かれるわけではなく、一部はオンプレミスに置かれたままかもしれない。しかしそうした状況でもアプリ同士を相互接続させる必要がある。インテグレーションを簡素化させるにはSOAの力が必要になる」とする。

 「すべてのアプリを統合/拡張するわけではないにしろ、アプリにその能力をもたせておくことは重要。Oracle Cloudの場合、PaaS上で簡単に機能を追加することが可能だ。また、現在はアプリ開発段階からカスタマーエクスペリエンスを考慮する必要がある。ソーシャルでどんな内容の投稿がなされているかなどモニタリングする機能や、ソーシャルの動向を分析するBI機能、モバイルに対応したUIなどが最初から内包されていなくてはならない。これもOracle Cloudであれば容易に実現する」とそのメリットを強調する。

Oracle Cloudにおけるアプリケーションは統合や拡張が容易

3つのパブリッククラウドを提供できるのはOracleだけ

 競合として名前を挙げたsalesforce.comやAmazon.comについては「salesforce.comはPaaSとSaaS、Amazon.comはIaaSしかサポートしていない。(パブリッククラウドを)3つのサービスで提供できるのはOracleだけ」(エリソンCEO)と切り捨てる。

 Oracle Private CloudについてもエリソンCEOは自信を隠さない。

 「どうしてもファイアウォールの外側のクラウドを使いたくないという企業は多い。それならばわれわれがユーザーのデータセンター内にExadataやExalogicを使ったエンタープライズグレードのインフラを構築する。高性能で単一障害点(SPOF)もなく、フォールトトレラントで、しかも従量課金制のクラウドを、Oracleが設備投資してファイアウォールの内側に作る。運用もOracleが行うし、万一、Exadataなどに何か問題が生じたなら15分以内で必ず対応する。また、Oracle Private CloudではすべてのOracleソフトウェアが動作し、パブリッククラウドとの連携も可能だ。こんなことができるベンダはOracleしかない」(エリソンCEO)。

 また最後には昨年のOracle OpenWorldで発表されたものの、出荷が遅れていた「Oracle Database 12c」についても言及、「向こう30日以内にアベイラブルな状態にする」と明言している。

 「Oracle Database 12cの“c”はクラウドを意味している。マルチテナントをアプリに組み込むとセキュリティが非常に脆弱になる。Oracle Database 12cはアプリケーション層ではなくデータベース層でマルチテナントに切り分け、独立したプラガブルデータベースとすることで、セキュリティを担保することに成功した。アプリケーションコードは1行たりとも変更を加える必要はない」とその特徴をあらためて強く訴える。

エリソンCEOが「30日以内にアベイラブルにする」と発表したOracle Database 12c

Oracleとソフトバンクは“情報革命の同志”~ソフトバンク 孫社長

 エリソンCEOのプレゼンテーション終了後、会場にはソフトバンク 代表取締役社長 孫正義氏が登壇し、エリソンCEOと短い対談を行った。ソフトバンクはExadataの国内最初にして最大のユーザーであるだけでなく、グループ全体で非常に多くのOracle製品を導入していることでも知られている。

 孫氏は買収した米通信会社のSprint Nextel(以下、Sprint)について触れ、「SprintのオフィスでももっとOracle製品を使いたいと思っている。Sprintの幹部が安心してOracle製品に移行できるように、現地でサポートしてやってほしい」と語ると、エリソンCEOは「Oracleとソフトバンクは長年のパートナーであり、孫社長は私の大切な友人。Sprintの件も両社のエンジニアリングチーム同士で協力していきたい。ソフトバンクのようにアグレッシブに新しい技術を取り入れ、将来を待っているのではなく自ら作り出している企業とパートナーでいることを非常に誇りに思う。今後も両社でさまざまなことを一緒にやっていきたい」と高く評価する。

 孫氏はSprintの環境移行を進めている理由について、「6年前にボーダフォンの日本事業を買収したとき、社内に数多く残っているメインフレームに非常に苦しめられた。あまりにユニークなアプリばかりだったので、“なぜ業界標準のOracleを使わないんだ。もっとシンプルなデータベースに移行すべきだ”と怒った経験がある」と語る。

Oracleとソフトバンクは情報革命の同志
サテライト対談を行った米Oracleのラリー・エリソンCEOと、ソフトバンクの孫正義社長

“本邦初公開”の事例を紹介

ソフトバンク 代表取締役社長 孫正義氏

 さらに「Exadataをはじめ、Oracle製品の優秀さはわれわれが実証してきた」とし、Exadataの活用事例、特にクラウドとビッグデータに関する3つの事例を「本邦初公開」(孫氏)として紹介を行った。

・電波改善
 「ソフトバンクの一番の悩みは電波状態の改善」だとする孫氏。ソフトバンクの接続状況がキャリア間で最下位となった調査結果を見た人も多いだろう。“つながりにくいソフトバンク”と呼ばれることを悔しく思っていた孫氏は「少ない設備投資でいかに大きな効果を上げるか」に注力する。

 基地局の最適化、つまり「あと1本の鉄塔を建てるとしたら、それはどこに建てるべきなのか」(孫氏)という判断を行うためにビッグデータ分析を活用した。

 具体的には、防災アプリとして配布したアプリに通信ログをチェックするプログラムを仕込み、電波がつながったかつながらなかったか、その結果をクラウド上に収集する。もし10秒以内に接続できなければそれは“パケ詰まり”として記録する。

 月間にして1億9000万件の通信データを収集し、「どこに基地局を建設すればよりつながりやすくなるのか」を分析を続けた結果、都市部から山間部まで、あらゆるエリアでのパケット接続率においてソフトバンクがNo.1になったという。

Exadataによるビッグデータ分析により「パケット接続率No.1」になったソフトバンク
どのランドマークの近くに基地局を作るのか、それもビッグデータ分析が判断の指標になる

・ツイート解析
 日本でもインターネット選挙の解禁が近いとされているが、孫氏は「これからは日本の選挙も自然言語でつづられたデータを解析する重要性が問われることになる」と語る。

 ソフトバンクでは常に同社に対するTwitter上の反応を解析しているが、顧客に電波改善の実感があるかどうかを調査するため、2012年3月から2013年3月までの8200万件の投稿を解析、顧客の感情がポジティブからネガティブ、あるいはその逆に変わるポイントをチェックしている。

 「こんな分量でこんな長い期間の解析を行っている会社は世界中にほかにない。Twitter社すらもやっていない」と孫氏。得られた分析結果は顧客の満足度向上のための施策に活用している。

ソフトバンクでは同社に関するツイートをつねに分析しており、ネガティブツイートが50%に振れたときは対策を講じるという

・Yahoo! JAPANの行動ターゲティング広告
 「われわれが純増No.1キャリアになれたのはなぜか。それはライバルのユーザーに対してピンポイントでターゲティング広告を表示しているから」と明言する孫氏。

 月間500億ページビューの行動履歴をYahoo! JAPANから収集し、「ドコモの10代女性で、もうすぐ機種買い替えのタイミングにあるユーザーを狙ってキャンペーンやクーポンの情報を表示させる。

 自社のユーザーに表示させたってユーザー数は伸びない。限られた予算で最大限の効果を得るのに有効」と語り「ソフトバンクが伸びているのは白戸家のキャンペーンのせいだけじゃない。ちゃんと頭を使った施策を行っているから」と自信を見せる。

Yahoo JAPANのデータを使い行動ターゲティング広告を打つまでのステップ

 「日本を愛しているからといって日本製品を使うことがいいことだとは限らない。世界で最も進んだコストパフォーマンスを誇るOracle Databaseのような世界企業の製品を使うことで日本を強くし、世界に打って出る実力を付ける。それは坂本龍馬が海外の最新製品や情報を駆使して日本を変えようとしたことと同じ。それが日本を愛するということだと思う」と、自身が尊敬する坂本龍馬の逸話になぞらえてOracle製品の強さを語る孫氏。

 「ソフトバンクはクラウドを人類最大の資産にしたいと願っている。そのためには今後もオラクルと”情報革命の同志”としてともに歩んでいきたい」と最後に両社のパートナーシップを強調して講演を結んだ。

 クラウドビジネスではAWSやsalesforce.comの後塵を拝しているイメージの強いOracleだが、ソフトバンク、そして孫正義という強力なパートナーのメッセージはOracleのクラウドビジネスにとって大きな後押しとなったはずだ。

 エリソンCEOが明言した30日以内に登場するというOracle Database 12cの登場も含め、Oracleがクラウド市場でどこまで先行企業に追いつくことが可能なのか、その動向に注目したい。

(五味 明子)