Windowsエコシステムのバックエンドはクラウドがすべてを包み込む

部門トップが語るマイクロソフトの技術戦略


 毎年、7月上旬に世界中のマイクロソフトパートナーが北米の一都市に集結する「Microsoft Worldwide Partner Conference」では、初日キーノートで同社の年間方針がCEOから提示され、2日目では各部門のトップから重要技術の戦略が語られる。カナダ・トロントで開催中のWPC 2012においても例年通り、イベント2日目の7月10日(米国東部時間)のキーノートには各ビジネス部門トップが登壇し、Windows Server 2012、Windows Phone 8など、そのリリースが注目される製品の概要が紹介された。本稿ではその内容を紹介する。

オープニング。パートナーアワード受賞企業が各国の旗をもって壇上に。日本の受賞パートナーは大塚商会



ターゲットはVMware - Windows Server 2012は9月に

 2日目キーノートのトップバッターはサーバ&ツール部門のプレジデントであるサチャ・ナデラ氏。同氏からは年内発売予定のWindows Server 2012とWindows Azureを核とするマイクロソフトのクラウド戦略について説明が行われた。

サチャ・ナデラ氏「Windows Server 2012は新たなクラウドOS。そしてクラウドOSに必要なのはモダンなデータセンターとモダンなアプリケーション」ナデラ氏

 気になるWindows Server 2012のリリースだが、ナデラ氏は「RTM版は8月に、一般提供(GA版)は9月に開始」と壇上で発表した。同氏によればWindows Server 2012のリリース候補版(RC版)はすでに100万ダウンロードを超えたという。また、Windows ServerとSystem CenterのCTP版も発表したが、これには、

・Webサイト/Webアプリケーションのホスティング機能
・仮想マシン(Windows/Linux)のオファリング
・セルフサービスなポータル構築機能

 が含まれている。例えばホスティング事業者であれば、こうしたAzureと同等の機能をプライベートクラウドのWindows Server上で提供することが可能になる。さらにVMwareからHyper-Vへの移行を推進するためのプログラムとして、「Hyper-V Switch Program」も同時に発表している。

 Azureにより、パブリッククラウドである程度の成功を収めてきたマイクロソフトが次にリーチするのは、ナデラ氏が「新しい時代のクラウドOS」と呼ぶWindows Server 2012をベースにしたプライベートクラウドの領域である。ナデラ氏はこの市場の特徴を、

・ビジネスの73%がプライベートクラウドをすでに使っている、または検討している
・企業の37%が"モダンなアプリケーションへの投資"を重要な課題としている
・次の5年で、世界の人口が使うスマートデバイスの数は5倍になる
・5年ごとにデータの量は10倍ずつ増えていき、そのうちの83%は新しいタイプのデータである

 と指摘。そしてこれらのニーズに応えられるクラウドOSがWindows Serverであり、Azureと組み合わせることで最強のクラウドプラットフォームを構築できると断言する。プライベートクラウドでは後発のマイクロソフトは、Windows ServerとWindows Azure、つまりオンプレミスも含めたプライベートクラウドとパブリッククラウドを融合させたハイブリッドクラウドで優位性を強めることを狙っている。Windows Server 2012を「新しいクラウドOS」と呼ぶのは、ハイブリッド環境を迅速かつ容易に構築できる唯一のOSであることを強調しているからにほかならない。

「新しいクラウドOSに必要なものは、モダンなデータセンターとモダンなアプリケーションである」とナデラ氏。モダンなデータセンターはAzureと組み合わせることで、プライベート/パブリックを問わないしなやかでスケーラブルなクラウド環境を実現し、そしてモダンなアプリケーションは、あらゆる開発言語、あらゆるデバイスに対応する。これを用意できるのが“Widows Server 2012+Windows Azure”によるクラウドプラットフォームということになる。

 ナデラ氏は「この組み合わせはVMwareが提供する仮想環境をパフォーマンスで大きく凌駕する。仮想マシンでも64のCPU、1Tバイトのメモリをハンドリングでき、10Gバイトのデータなら10秒でデプロイが可能だ」と強調する。デモでは、仮想マシンが100万IOPSで稼働する様子が披露されたが、「このパフォーマンスはVMwareには無理」とのこと。どうやらマイクロソフトのクラウドビジネスのターゲットはVMwareであり、そこからいかに顧客を移行させることができるのかが2013年度のテーマのようだ。

Windows Server 2012はオンプレミスもクラウドもシームレスにつなぐ。「10Gバイトのファイルなら10秒でデプロイ可能」



Dynamics CRM Onlineだけじゃない! あらゆるポートフォリオをつなぐ存在としてのクラウド

キリル・タタリノフ氏

 ナデラ氏に続いて登壇したのは、マイクロソフトのビジネスソリューション(MBS)部門のプレジデントであるキリル・タタリノフ氏。Dynamics CRMをはじめとするCRM/ERP/BIビジネスやSystem Centerといったソリューション全般の総責任者である。

 Dynamics CRMはオンプレミス版とクラウド版のDynamics CRM Onlineがあるが、ここ数年、マイクロソフトは同社のクラウド戦略の重要な柱としてDynamics CRM Onlineに大きく注力してきた。マイクロソフトの数あるソリューションの中でもDynamics CRM Onlineのパートナーインセンティブは比較的高めに設定されており、積極的に販売を推奨していることが伺える。1万6000名のパートナーが参加する今回のWPC 2012において、Dynamicsのパートナーは約3000名が参加しており、その数は年々増えていることからも、パートナーにとって魅力的な製品になりつつあるのがわかる。「昨年度は大規模事例を数多く発表できた。これもパートナーの力によるものだ」と世界中から集まったDynamicsパートナーに謝意を表している。

 Salesforce.comという強大なライバルが存在するクラウド市場で、Dynamicsは今年度どう戦うのか。タタリノフ氏は「Dynamics CRMの顧客のうち、60%がクラウドを選択している」と語り、「オンプレミスでもクラウドでも動くCRMをデバイスをクロスして提供できるのは地球上でマイクロソフトだけ」とそのメリットを強調する。同氏は昨年度のDynamics導入事例をいくつか紹介したが、そのひとつとして日産自動車のプライベートクラウドにおけるDynamics CRM導入事例(パートナーはアバナード/アクセンチュア)を挙げ、Dynamics CRM Onlineを単体で販売していくことよりも、この事例のように顧客のクラウドへのニーズに柔軟に対応し、「顧客のオポチュニティをクラウドで広げていく」(タタリノフ氏)ことの重要性を強調している。

 さらに今年度は、Windows 8、Windows Server 2012、Windows Phone 8など、重要なプラットフォームが続々とリリースされることを受け、これらとDynamics CRMを連携させていく方向をより強めていくようだ。デモではWindows 8とWindows Phone 8上で連携させたり、クラウド経由でWindows Phoneから認証する様子が披露されたが、オンプレミス/クラウド/モバイルでいかにシームレスなアクセスを実現できるかが鍵になると思われる。

Dynamicsは10月末にリリース予定のWindows 8にももちろん対応スマートフォン上でCRMアプリを動かしているところ

 「クラウドで重要なのはシンプリシティとアジリティ。これを意識して顧客のIT環境をレガシーからプロアクティブに変えてほしい」とパートナーに訴えたタタリノフ氏。ユーザーがクラウドを通してすべてのプラットフォームに相互につながるビジネスソリューションをパートナーとともにめざす。これが2013年度のMBSの戦略になる。


Windows Phone 8は“シンプル、エレガント、パワフル”

 2日目のキーノートにはほかにも以下のエグゼクティブがプレゼンを行った。

・ローラ・イプセン氏
 ワールドワイド パブリックセクター部門のコーポレートバイスプレジデント。6月に発表したOffice 365の教育機関向け無償提供プログラム「Office 365 for Education」を紹介。その他、オリンピック開催が決まったブラジルにセキュリティソリューションを提供するなどワールドワイドにおけるマイクロソフトの社会貢献活動の成果などを強調。パートナーに対し、「ローカルのマイクロソフトチームとの連携」「あなたの課題をわれわれの課題に」「マイクロソフトのストーリーをともに語る」ことを約束してほしいと訴えた。

ローラ・イプセン氏ブラジル・リオデジャネイロのセキュリティを高めるためにマイクロソフトのソリューションで貢献

・トム・グルーラー氏
 Windows Phone部門のコーポレートバイスプレジデント。次のリリースであるWindows Phone 8の紹介とデモを披露。「Windows Phoneはどのスマートフォンよりもシンプルでエレガントでパワフル。すでに10万のアプリケーションが存在する。スマートフォンユーザーにWindows Phoneがあまり知られていないのは非常に残念」「音楽好きのユーザーならミュージックフォンになる。ソーシャルネットワークユーザーならソーシャルフォンにすることができる。ユーザーにあわせてどんな端末にもなりうる。それがWindows Phone 8」と魅力を語る。

トム・グルーラー氏Windows Phone 8ではタイルの大きさをタッチひとつで自由に変えられる。到着したばかりのメッセージや写真を大きく表示させたいときなどにも便利。Windows 8とも完全互換

・スティーブ・クレイトン氏
 マイクロソフトリサーチ所属。3Dスキャニングや3D印刷、Bingのトランスレータ機能など最先端の研究プロジェクトを紹介。

Surfaceのデモ。ディスプレイ上に地球や宇宙船のオブジェクトをタッチ操作で追加/削除していた。ズームやピンチも自由自在。両手で扱うこともできる



 Windows 8のリリース、Office 365 Openの提供、Perceptive Pixelの買収など、インパクトのある発表が続いた初日に比較して、やや目新しさにかけた印象の2日目キーノートだったが、どの部門においてもやはり中心はクラウドであることは間違いない。それも単体で製品を販売するのではなく、あらゆる製品をクラウドをポータルとして連携させていく方向にシフトしているようだ。

 2013年度にリリースされるWindows 8をはじめとするマイクロソフトの新製品。これらに対し、パートナーはどんな付加価値をつけて顧客に提供していくのか。そのトレンドはやはりクラウドソリューションにあることを2日目のキーノートでは再認識させられた。マイクロソフトから提示された新しい素材を、世界中のパートナーたちはどう料理していくのだろうか。ユニークな事例の発表に期待がかかる。

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