クラウド構築のベースとなるVMware vSphere 5【ライセンス編】


 vSphere 5になり、ライセンスが大幅に変更された。そこで、今回はvSphere 5のエディションとライセンスに関して解説していく。

 

vSphere 5の各エディションを見る

vSphere 5の各エディション
vSphere 5から、各エディションにvRAM制限が加わった。エディションごとにvRAM制限の容量は異なる(VMwareのWebサイトより)

 現在、vSphere 5は、大規模企業(エンタープライズ)に向けたvSphere 5 Standard、vSphere 5 Enterprise、vSphere 5 Enterprise Plusなどのプロセッサ単位のエディションと、中小企業に向けたスイートパッケージとなるvSphere 5 Essentials、vSphere 5 Essentials Plusがある。

 Standard、Enterprise、Enterprise Plusは、プロセッサ単位のライセンスとなっている。以前は、CPUコア数、物理メモリ容量でのライセンスだったが、vSphere 5ではプロセッサ単位のライセンスへ変更された。このため、CPUコアが多数搭載されたIntel XeonやAMD Opteronは、vSphere 5のライセンスとしては大きなメリットがある。

 例えば、Xeonの2ソケットサーバーを3台使い、プライベートクラウドを運用する場合は、2ソケット×3台の6ライセンスが必要になる。

 また、物理メモリ容量に関しては制限が撤廃されているため、サーバーが搭載できるだけのメモリが利用できるが、代わりにvRAM(仮想メモリ)制限が新たに作られた。各エディションごとに、仮想マシンが使用するトータルのvRAMが制限されている。

 Standardは32GB、Enterpriseは64GB、Enterprise Plusは96GBの制限(1ライセンスあたり)が課せられており、例として、1ソケットサーバーにStandardをインストールした場合は32GBまで設定できるということになる。2ソケットサーバーなら64GB(32GB×2ライセンス)だ。

 制限対象としては、動作している仮想マシンのvRAMの合計になるので、2ソケットサーバーでStandardを利用する場合は、8GBのvRAM環境で動作する仮想マシンを、8つまでなら同時に動かせる。起動させていない間はカウントされないし、もし9つ目の仮想マシンを動したかったら、追加のvRAMライセンスを購入すればよい。

 実は、vRAM制限は1年間に利用された平均値での制限となるので、瞬間的には制限を超えたとしても、平均値が制限されたvRAM容量を超えていなければよい。つまり、3月は決算で処理能力が必要なため、8GBのvRAMを使う仮想マシンを16台動かした場合、後の11カ月には仮想マシンが7台しか起動していなければ、ライセンス的には問題ない。この点は少しわかりにくいかもしれない。


vRAM制限では、仮想マシンが使用する仮想メモリの総量が制限される(vForum2011のプレゼンテーションより)vRAM制限は、ライセンス1つあたりに設定されているため、サーバーにCPUが2ソケットある場合、そのサーバーはvRAM制限の2倍のvRAMが使用できることになる(vForum2011のプレゼンテーションより)vRAM制限は12カ月の平均値によって判断される。つまり、ある月だけ制限以上使用しても、ほかの月では制限を下回ればライセンス違反にはならない(vForum2011のプレゼンテーションより)

 vRAM制限の例外としてはもう1つある。vCenter Serverで複数台のStandardを管理している場合、vRAMの制限をプール化することが可能だ。つまり、2ソケットサーバーが2台あり(Standard×4ライセンス)、これをvCenter Serverで管理している場合は、システム全体で128GB(32GB×4ライセンス)のvRAMが使用できることになる。

 このため、vMotionなどで、1つのサーバーから別のサーバーに仮想マシンを移動した際に、1サーバーが64GBを超えるvRAMを使ったとしても、システム全体で制限以上のvRAMを使っていなければ、ライセンス的には問題ない。極端な例をいえば、1つのサーバーがvRAMを128GB使っていても、もう一方のサーバーで仮想マシンが1つも動作していなければ、ライセンス違反にはならない。


vCenter Serverを使って、複数のサーバーを利用している場合、vRAMプールを設定することができる。vRAMプールは、2台のサーバー全体で使用できるvRAMを設定する(vForum2011のプレゼンテーションより)vRAMプールで実行できる仮想マシン数。1台のサーバーで動作する仮想マシンの数が増えても、別のサーバーで仮想マシンの数が少なければ、システム全体で許可されているvRAM容量を超えなければライセンス違反にはならない(同左)vRAMプールでは、エディションの異なるvSphere 5をまとめることはできない。エディションごとにvRAMプールを作ることになる(同左)

 なおvSphere 5は、エディションにより、利用できる機能に制限がある。最下位のStandard版でもHA、vMotionなどの機能は利用できる(vCenter Serverが必須)。

 vShield Zone、FT、DRS(Distributed Resource Scheduler)、DPM(Distributed Power Management)といった機能を利用するには、Enterprise以上が必要になる。Storage I/Oコントロール、Network I/Oコントロールなどの機能は、Enterprise Plusで利用できる

 

中小企業をターゲットにしたvSphere 5 Essentials/Essential Plus

 Essentials/Essentials Plusは、3台までの2ソケットサーバーに導入ができるスイート製品だ(ソケット単位で考えると合計6ライセンスあることになるが、1ソケットサーバーを6台という使い方はできない)。

 価格面では、Essentials/Essentials Plus専用のvCenter Serverが同梱されているため、個々に製品を購入するよりもかなりお買い得になっている。

 また機能面では、上位製品のEssentials Plusで、エンタープライズ向けのStandard相当の機能がサポートされており、Enterprise、Enterprise Plusが持つ上位機能を利用するには、Acceleration Kitを使ってアップグレードする必要がある。

 一方、下位製品のEssentialsではvMotionがサポートされていない点に注意が必要だ。単に1台ずつ使うだけなら問題ないが、vSphere 5で複数の物理サーバーを仮想化するメリットがなくなってしまう。


Essentials/Essentials Plusの違い。vMotionは、Essentials Plusでサポートされている(VMwareのWebサイトより)

Essentials/Essentials Plusの機能差。vSphere 5らしい使い方をするには、Essentials Plusが必要になる

 

 vSphere 5は、ここまで何回にもわたって紹介してきたように、機能的には優れたモノがある。

 ただ、本格的にプライベートクラウドを構築するには、Enterprise、Enterprise Plusといった上位のエディションが必要になる。また、SUSE Linux Enterprise ServerをゲストOSとして利用する場合は、vSphere 5のライセンスに含まれているが、Windows ServerやRed Hat Enterprise Linuxを使用する場合は別にOSコストが必要になる。さらに、データベースなどのアプリケーションコストを考えれば、相当の額に達する。

 このため、仮想環境の導入を考える場合は、コスト面を考えて、Hyper-V、Red Hat Enterprise Linux(KVM)、XenServerなどとの比較をよく行う必要があるだろう。機能とコストのバランスを考えないと、プライベートクラウドの構築・運用に多大なコストがかかることになる。

 それでも構わないというユーザーにとっては、とても魅力的な仮想化製品といえるのではないだろうか。

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