クラウドの管理に一歩足を進めたMicrosoftのSystem Center


 Microsoftが提供しているITシステム管理・運用ツールのSystem Centerは、単なるサーバー単体の管理・運用から、パブリッククラウドへと範囲を広げている。将来的には、パブリッククラウドも一元的に管理・運用できるようにしていく考えだ。今回は、次期製品として開発されているSystem Center 2012についてお届けする。

 

バラバラだったバージョンを再整理し新ラインアップを追加

 System Centerは、2007年から2008年にメジャーアップデートされた後は、サービスパックやR2といったマイナーリリースを繰り返していた。このため、System Center製品群といっても、名称に入っている西暦が異なったり、SPやR2といった製品があるなど、非常にわかりにくくなっている。

 そこで、すべてを一度仕切り直し、System Center 2012として作り直した製品がリリースされる。これに合わせて、プライベートクラウドとパブリッククラウドが併存するハイブリッドクラウド環境を管理・運用するために、新しいアプリケーションがSystem Centerに追加されている。

 System Center 2012は、主な製品として、以下のラインアップが存在する。

・サーバーの構成管理や更新管理を行うSystem Center Configuration Manager(SCCM) 2012
・サーバーの稼働監視やログ収集を行うSystem Center Operations Manager(SCOM) 2012
・仮想環境の管理を行うSystem Center Virtual Machine Manager(SCVMM) 2012
・データのバックアップや復元を行うSystem Center Data Protection Manager(SCDPM) 2012
・Microsoft Operations Framework (MOF)やInformation Technology Infrastructure Library(ITIL)などを用いて、ITシステム管理のベストプラクティスを自動化するために使われるSystem Center Service Manager(SCSM) 2012

 さらに新製品として
・複数のITシステムや管理ツールを連携させるSystem Center Orchestrator(SCO) 2012
・プライベートクラウドとパブリッククラウドを管理するSystem Center App Controller(SCAC) 2012
などが追加された。

 なお、米国でクラウドサービスとして提供されるSystem Center Advisorは、サーバー運用のベストプラクティスを自動的にチェックして、現状とベストプラクティスとの違いをチェックしてくれる。Advisorは、OSだけでなく、SQL Server、SharePoint、Exchange、Dynamicsなどが対象になっている。


System Center2012では、単なる管理・運用だけでなく自動化やオーケストレーションにまで踏み込むSystem Centerの全体像。各サーバーの管理をつなぐのが、System Center OrchestratorとSystem Center Service Manager

 

プライベートクラウドの管理を可能にするSCVMM 2012

 SCVMMは、サーバー上の仮想マシンを管理するための管理ツールとして開発された。

 しかし、プライベートクラウドが当たり前の時代になり、ハイパーバイザーが搭載された1台のホストだけを管理するのではなく、複数台のサーバーを管理する必要が出てきた。さらに、仮想マシンの管理も、1つ1つの仮想マシン単位で管理するのではなく、複数の仮想マシンで構築されたITシステムを単位として管理する必要が出てきた。

 例えば、3階層アプリケーションなら、フロントにくるWebサーバー、ミドルティアのアプリケーションサーバー、バックエンドのデータベースサーバーと、最低限3つの仮想サーバーが必要になる。さらに企業での利用を考えれば、仮想マシンといえども耐障害性を高めるため、別々のホストに二重化してシステム構築をする必要がある。また、アクセスが多くなるなら、各層のサーバーを複数台用意してロードバランシングする必要が出てくる。

 このように、仮想サーバー群で構築されたITシステム全体を管理・運用する必要が出てきている。

 そこでSCVMM 2012では、複数のサーバーをファブリックとして管理し、その上でさまざまな仮想マシンを動作させていこうとしている。つまり、SCVMM 2012では、プライベートクラウド化されたサーバー群の管理・運用が対象になっている。

 ITシステムとして仮想マシン群を管理するため、SCVMM 2012に登録されているITシステムを起動すると、自動的に仮想マシン群が起動されて、ホストに配置されていく。もちろん、データベースサーバーなど、起動の順序があるサーバーに関しては、あらかじめ先に起動するように設定しておくことにより、管理者の指定した順番に起動を行うようにすることができる。

 新機能としては、ホストの負荷を考えて、仮想マシンをダイナミックに再配置するダイナミック・オプティマイゼーション(Dynamic Optimization)機能が用意されている。再配置を行うときには、Hyper-Vのライブマイグレーション機能を利用するため、サーバーを利用しているユーザーにとっては、サーバーが再配置されていることにも気づかせずに(サービスの中断がない)再配置が行える。

 このほか、ダイナミック・オプティマイゼーション機能を利用して、ホストの負荷が低いときには、特定のホストの電源を自動的にオフにすることで、プライベートクラウド全体の節電が実現する。電源をオフにするホストで仮想マシンが動作している場合は、自動的にライブマイグレーションにより、別のホストに移動し、あるホストで仮想マシンが1つも動作しない環境を作ってから、電源をオフにする。

 さらに、ほかのホストの負荷が上がってくれば、自動的に電源をオフにしているホストを起動して、仮想マシンを再配置して、プライベートクラウド全体で負荷を分散していくように管理・運用することが可能になっている。

 また、プライベートクラウド環境においては、すべてのホストがMicrosoftのHyper-Vだけで構築されているわけではない。そこで、SCVMM 2012では、VMwareやXenServerなどが一括して管理できるようになっている。

 Windows OSのアップデート機能を提供しているWindows Server Update Server(WSUS)の機能もSCVMM 2012に統合されている。これにより、仮想マシンのWindows OSに対してのアップデートも簡単に行える。さらに、プロビジョニング機能、P2V、V2Vなどの機能も強化されている。


SCVMM 2012では、各ホストではなく、ハイパーバイザーが動作しているファブリックとして管理される。このため、CPUやメモリ、ディスクだけでなく、ネットワークもSCVMMが管理するSCVMM 2012のファブリック管理では、WSUSの統合、VMwareやXenServerの管理もサポートされている
SCVMM 2012では、複数の仮想マシンをサービスという単位で管理している。これにより、各仮想マシンの設定なども一元的に管理できるVMwareのESXは、vCenterを経由して管理する。XenServer 6.0は、SCVMM 2012から直接管理できる

 もう1つ、SCVMM 2012で大きな機能追加は、Server App-V機能だろう。

 Microsoft Desktop Optimization Pack(MDOP)では、アプリケーションを仮想化して配信するApp-Vという機能が用意されている。SCVMM 2012に搭載されたのは、App-Vのサーバー版だ。つまり、サーバーで動作するソフトウェアを仮想化して、サーバー(仮想サーバーでも、物理サーバーでもOK)に配信するというものだ。

 この機能をうまく使えば、さまざまな環境をプロビジョニングするのではなく、基本OSとServer App-Vで仮想化したアプリケーション群を用意しておけば、さまざまな機能を持つサーバーをダイナミックに構築することも可能だろう。


SCVMM 2012の画面。新しくクラウドという管理単位ができているSCVMM 2012は、WSUSと統合しているため、管理画面でも簡単にアップデートが行えるプロビジョニングもテンプレートを使って、簡単に行える

 

複数のアプリケーションを連携させるSystem Center Orchestrator 2012

 SCO 2012は、今回新しく追加されたアプリケーションだ。SCO 2012は、複数のアプリケーションがサポートしている機能を連携させることで、あたかも統合された1つのアプリケーションであるかのように利用することが可能だ。

 例えば、プライベートクラウドで動作している仮想マシンを停止して、再度新しい仮想マシンを作成し、アプリケーションをインストールし、仮想マシンを起動し、管理できるようするまでの作業は、今までならIT管理者が手動で行っていた。

 しかし、SCO 2012を利用すれば、一連の作業を自動化して行うことができる。これは、SCO 2012が、各アプリケーションに対して、コマンドを発行し、イベントの戻り値をチェックして自動的に作業を進めていく機能を持っているからだ。


SCO 2012は、複数のツールをまたいだ自動化を提供するSCO 2012は、コネクタを使って複数のツールを連携させることが可能

 SCO 2012が便利だと思われるのは、各動作をコマンドとして管理者がプログラミングするのではなく、フローチャートで記述できることだ。管理者が必要とする機能は、コネクタとして登録されているため、Office 2010のVisioでフローチャートを作るように、コネクタを画面に配置して、接続していくだけでOKだ。

 なおSCO 2012はもともと、Microsoftが2009年に買収したOpalis Softwareの製品をベースしているため、Opalis Softwareが提供していた機能モジュールも利用できる。

 現状では、連携できるアプリケーションとしては、System CenterなどMicrosoft製品以外に、Integration Packsが用意されている、HP、IBM、EMC、BMC、CA、VMwareのアプリケーションに対応する。さらに、ユーザーが独自にコネクタを書くことも可能になっている。


SCO 2012を使えば、VMwareとも連携することが可能SCO 2012の画面。Visioのようにコネクタを接続するだけで、一連の作業が作成できる

 

ハイブリッド クラウドを管理するSCAC 2012

 SCAC(System Center App Controller) 2012は、プライベートクラウドとパブリッククラウドを管理するアプリケーションだ。3月に米国で開催されたMicrosoft Management Summit 2011では、「Concero(開発コード名、コンチェロ)として紹介されていた。

 SCAC 2012は、パブリッククラウドのAzureと社内に構築されたプライベートクラウドを管理するセルフサービスポータルだ。

 ポータルの画面には、社内のプライベートクラウド(SCVMM 2012によって管理)とパブリッククラウドのAzureが同時に表示されるため、ユーザーが必要する要件にしたがって、パブリック/プライベートクラウドのどちらかで仮想環境を作成することが可能だ。

 SCAC 2012により、管理者にとっては、いちいち仮想環境の作成や運用といった作業にかかわらなくてもよくなる。セルフポータルにより、決められた範囲で、各部門が各自にサーバーを構築してくれる。もちろん、プロビジョニングにより、あらかじめ設定された仮想環境を簡単に作成することが可能だ。

 ただし、SCAC 2012は、仮想環境の作成や停止などの管理は行えるが、プライベートクラウドの仮想環境をパブリッククラウドのAzureに移動したりすることはできない。

 さらに、対応しているパブリッククラウドも現状ではAzureだけになる。Amazon EC2やVMwareのvCloud Datacenterなどには対応していない。このあたりは、将来的にさまざまなパブリッククラウドサービスとの間でWeb APIがサポートされることで、対応してくることになるのだろう。


SCAC 2012では、Azureとプライベートクラウドのセルフポータル機能を提供SCAC 2012では、1つのWeb画面にAzureとパブリッククラウドの管理画面が表示される

 これ以外にも、SCCM(System Center Configuration Manager) 2012では、PCやサーバーだけでなく、携帯電話やiPadなどタブレットなども管理対象になっている。携帯電話を紛失してもSCCM 2012から、携帯電話内部にあるデータを消去(WIPE)したり、紛失した携帯電話の通話やデータ通信などをオフにすることも可能だ。


SCCM 2012では、スマートフォンやタブレットも管理対象。スマートフォンはWindows Phone 7、iPhoneやAndroid、タブレットはiPadやAndroidなどをサポートSCCM 2012を使えば、スマートフォンやタブレットを盗難や紛失をしても、リモートでデータを消去できる

 SCSM(System Center Service Manager) 2012では、IT管理を人の作業という面でサポートしている。

 例えば、仮想マシンの作成や環境の変更依頼などの申請が出て、その申請を上司が許可し、管理部門に回り、管理部門の各担当に作業依頼が回り、作業の確認が行われ、最終的に申請者に作業終了のメールが送信される。今までは、このような一連の流れは、申請書ベースで作業が行われていた。

 SCSM 2012を使えば、このような作業フローをシステムで管理することができる。このため、作業に抜けがあったり、連絡ミスがあったりするようなこともなくなる。もちろん、仮想マシンの作成といったことだけでなく、ヘルプデスクの業務にも利用できる。


SCSM2012は、ITサービスのマネージメント機能を提供するSCSM2012は、人の作業フローを見える化してくれるSCSM2012の概念図。中心にCMDBというベータベースが配置され、さまざまな作業フローに対応する

 このように、System Center2012は、以前の製品群からは、大幅に機能が変わっている。現在、RC版やBeta版のダウンロードが行えるようになっている。年内には、RTM版がリリースされ、2012年の早い時期に発売されるだろう。RTM版がリリースされるころ、詳細な解説記事を行いたいと考えている。


System Center 2012のリリーススケジュール。現在、ベータ版のダウンロードが可能になっている
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