勝負に出る米Palm－会長交代、3億2500万ドル調達

　米Palmが勝負に出た。同社は6月4日、投資会社のElevation Partnersから3億2500万ドルの出資を受け、引き替えに自社株の25％を同社に譲渡するという取引を発表した。合わせて米Appleの元幹部を会長に迎え入れる。混戦のモバイル市場で、攻勢をかけることを選んだようだ。

　取引では、新たに3人を取締役会に迎え入れる。Elevationの代表取締役兼共同創設者のRoger McNamee氏とFred Anderson氏、2006年までAppleでハードウェアエンジニアリング担当上級副社長を務めていたJon Rubinstein氏の3人である。2005年以来、社長兼CEOを務めてきたEd Colligan氏は続投する。

　Palmの動きは、PDA市場が曲がり角に来ていること示すものだ。1996年に投入した「Palm Pilot」でPDAという新しい市場を作ったPalmはその後、高機能化する携帯電話の侵食を受けてきた。

　Palmは2002年にOS事業をPalmSourceとして分社（その後、ACCESSがPalmSourceを買収）、Palm開発者が設立したPalm OSベースのPDAを開発・製造するHandspringを買収するなど、紆余曲折を経てきた。端末にもそれは表れており、スマートフォン「Treo」の投入、Microsoftの「Windows Mobile」の採用、Linuxベースの独自OSの開発など、幅広く展開しているが、迷走してきたという印象は否めない。

　それでもPalmの業績がそれほど悪化していないのは、境界がぼやけつつもモバイル機器市場が全体として成長しているためだろう。Palmが3月22日に発表した最新の四半期業績決算によると、同社の売上高は4億1050万ドルで前年同期比約5％増、純利益は1180万ドルとなった。そのけん引役となったのはTreoで、同四半期中73万8000台を出荷、最高記録を樹立した。

　だが依然、自社のポジショニングはあいまいだ。同社は5月末、“スマートフォン・コンパニオン”と呼ぶ「Palm Foleo」も発表した。スマートフォンと連携してメールやWebブラウザが使えるフルキーボードの端末で、かつてのNTTドコモの「モバイルギア」をちょっと思い起こさせるものだが、アナリストには不評だった。同社の模索が続いていることを象徴するものだろう。

　モバイル機器市場は、PDA、WiFiを搭載したノートPC、スマートフォンなどの携帯電話などのカテゴリがあり、PCメーカー、消費者家電メーカー、携帯電話メーカーが入り乱れて争う激戦区だ。さらに、今月末に米国市場に登場するAppleの「iPhone」で、競争はさらに激化すると予想されている。

　新たにPalmの会長となるRubinstein氏は、そのAppleのハードウェア開発担当の責任者で、「iMac」を生み、「iPod」を大ヒットさせた立役者といわれている。また、ElevationのAnderson氏は、2004年までAppleのCFO（最高財務責任者）を務め、同社の事業建て直しに大きく貢献したとされている。

　The Wall Street Journal紙のブログ「Deal Journal」が関係者の話として伝えたところによると、Rubinstein氏は2006年にAppleを退社する際、同社との間で、競合他社には行かないという取り決めをしたが、この期間が終了したという。一方、PalmのColligan CEOは、Rubinstein氏の参加が取引の重要な条件だったと認めているという。

　Palmの発表によると、Rubinstein氏はPalmで製品開発全体を統括するという。再スタートするPalmがスマートフォンに特化するのか、多角戦略を続けるのかは不明だが、魅力的な端末を目指していることは間違いない。Colligan氏は、この取引の目的を「ユーザーが望む製品を開発することにある」と述べている。

　だが、ElevationがPalmに期待しているのは、単なる携帯電話メーカーとの競争ではないとの見方もある。International Herald Tribune紙は、今回の出資を「携帯電話業界がパソコン業界の歩んだ歴史を繰り返さないため」と分析した。

　同紙によると、ElevationのMcNamee氏は取引の動機について、携帯電話が急速にコンピュータやエンターテイメント機器に進化している現状にある、と説明しているという。Microsoftもモバイル分野への進出を強化している中、McNamee氏の言葉からは、Microsoftに対抗する意図もうかがわれる。

　Rubinstein氏を擁したPalmが、再びユーザーを魅了できる端末を送り出せるのか―。以前からのPalmファンならずとも気になるところだろう。