「オープンソースの特許侵害235件」-Microsoftの公表に騒然



 オープンソース・ソフトの特許侵害問題が再燃している。米Microsoftは先週、「オープンソースソフトが235件の自社特許を侵害している」と述べ、Linuxのユーザーやオープンソース・コミュニティに衝撃を与えた。以前からオープンソースソフトの特許侵害には言及していたが、今回の発言は、より踏み込んだものだ。その狙いをめぐってコミュニティやメディアは騒然となった。


 「オープンソース・ソフトウェアの特許侵害」は、Microsoftの上級副社長兼法務部門責任者のBrad Smith氏が、5月14日付のFortune誌で取材に答えて述べたものだ。それによると、オープンソースソフト全体で計235件、Linuxカーネルで42件、LinuxのGUIで65件、OpenOffice.orgスイートで45件以上などの自社特許侵害があるという。

 Smith氏は、特許ポートフォリオの拡大とライセンスというMicrosoftの特許戦略を説明しながら、この数字を挙げた。MicrosoftはこれまでもLinuxやオープンソースソフトが自社の特許を侵害していると主張していたが、具体的な数字は明らかにしていなかった。Fortuneの記事のあと、各社の取材に対して同じ内容のメールを送って答えており、はっきり意図を持って持ち出したことは間違いない。

 ただし、その後も、Microsoftは個々の具体的な特許は明らかにしていない。また、InformationWeek誌などに対して「訴訟を起こすつもりはない」(知的所有権及びライセンス担当上級副社長のHoracio Gutierrez氏)とも述べ、即座に法廷に持ち込む考えはないと説明している。


 そこで、この話は同社の“FUD”活動の一環だったという見方が広がっている。FUDは、「fear」(恐れ)、「uncertainty」(不確かさ)、「doubt」(疑い)の意味で、「具体的な事実を出すことなく、不安をあおって、競争相手の製品を使うことを思いとどまらせる」マーケティング上のテクニックだ。

 欧米メディアでは、FUD活動の狙いとして、1)オープンソース人気に歯止めをかける、2)特許クロスライセンス提携を進める、3)「The GNU General Public License Version 3(GPLv3)」に対するけん制 ― などを挙げている。ここでは、2)と3)について見てみたい。

 Microsoftは昨年11月に米Novellと提携している。ビジネス、技術、法の3分野にわたるもので、法的分野では互いの顧客を特許侵害で訴えないという内容になっている。提携の有効性自体については論議もあったが、両社は提携を利用する顧客を増やしており、先日は米Dellも提携に参加した。

 これと併せて、富士ゼロックス、韓国Samsungなどと特許クロスライセンス契約を結んでいる。ただし、Linuxディストリビュータ最大手の米Red Hatは、「必要性や根拠はない」としてMicrosoftとの提携やライセンス契約を結ぶ可能性はないと断言している。

 Microsoftが特許ライセンスによる収益を狙っているという見方は多くのメディアが伝えている。IDG Newsは、ライセンス販売というこれまでの同社のビジネスモデルの行き詰まり、インターネットをベースとした新しいビジネスモデルへの移行の遅れなどが背景にあるとしている。特許ライセンスは、そのなかでの暫定的なビジネスモデルであるというのだ。

 では、3)の「GPLv3に対するけん制」はどうだろう。Free Software Foundation(FSF)が今年3月に公開したドラフト第3版では、ディストリビュータが特許権者と組んで差別的な特許保護を提供することを禁じる項目が追加されている。MicrosoftとNovellの提携を無効にするものだ。

 Fortuneによると、FSFの法務顧問でGPL v3を作成しているEben Moglen氏とSmith氏は、Novellとの提携について話し合いを持ったが、Microsoft側はGPL違反の可能性があるというFSF側の意見を無視したという。MicrosoftのGutierrez氏は、GPL v3を「(フリーソフトウェアとプロプライエタリソフトウェアとの間の)架け橋を壊すもの」と評している。


 では「235件」という数字の公表がFUDを目的としたものであったとすれば、その狙いは成功したのだろうか? オープンソース陣営の反応をみると、必ずしもそうとは言えないようだ。

 Novellは企業ブログで、「昨年11月の提携時にも述べたように、Linuxは特許を侵害していない。このスタンスは変わっていない」と説明している。オープンソース関連特許管理会社のOpen Invention Network(OIN)は声明文で、「(抽象的な)言いがかりをやめて、証拠を示すべきだ」とコメント、Linuxに対する特許訴訟が実際には起きていないことを挙げている。

 また、Linus Torvalds氏自身も口を開いた。InformationWeekによると、同氏は、OSの基本的な理論が1960年代に築かれたため、「LinuxよりもMicrosoftの方が特許を侵害している可能性が高い」としたうえで、Microsoftに特許内容の開示を求めた。そして、その狙いについて、訴訟を起こすよりも「FUDを広げたいだけだ」と述べている。

 Microsoft Watchは、1976年にBill Gates氏が書いた「Open Letter to Hobbyists」(ホビィストへの公開質問状)を挙げ、今回のSmith氏の発言を、基本的にこの公開質問状と同じだとしている。

 創業間もないMicrosoftが、MIT Altair用のBASICを開発していたころ、ソフトウェアを収めていた紙テープが流出し、趣味のパソコンマニアの間で出回った。二十歳そこそこのGates氏は公開質問状で、ソフト開発にかかる資金と手間を訴え、「ソフトウェアのコピーは盗みである」と主張、代価を支払うよう求めた。それ以降もソフトは有償のものというのがMicrosoftの基本姿勢である。

 今、ホビィストから生まれたオープンソースがビジネスとして成立し、ソフトウェアがインターネットベースに移行しつつある。Microsoftは30年を経て、再びソフトの有償・無償の問題に直面しているのかもしれない。

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(岡田陽子=Infostand)
2007/5/21 09:05