クラウドソーシングによる検索サービス~“検索のWikipedia”目指す「Blekko」


 検索サービスに、さらに新しいプレーヤーが食い込む余地があるのだろうか――。

 11月初め、新しい検索エンジン「Blekko」のパブリックベータが公開となった。ユーザーが参加し、クラウドソーシングで構築していくオープン型のサービスだという。メディアの興味は、Googleに対抗しうるかという点に集まっているようだ。が、当のBlekkoは、そんな考えは持っていないらしい。“検索でのWikipedia”といった方向を目指しているようだ。

最大の特徴は「スラッシュタグ」による検索

 Blekkoは、WebディレクトリのOpen Directory Projectなどを立ち上げた経験のある43歳のRich Skrenta氏らが2007年に創業したベンチャー企業だ。2年以上の準備期間を経て2010年7月に限定ベータをスタート。今回のパブリックベータローンチとなった。Marc Andreessen氏、Ron Conway氏ら数人の有名個人投資家、U.S. Venture Partnersなど2社のベンチャーキャピタルから、計2400万ドルの資金を調達している。

 BlekkoはGoogleなどと同様にクローラーを使っており、30億以上のWebページを巡回しているという。最大の特徴は「スラッシュタグ」というツールだ。文字通り、スラッシュとタグによって検索結果を絞り込む。

 スラッシュタグはトピック別、ビルトイン用など用意されているものがあり、ユーザーが公開しているものからも選択できる。また、自分で作ることもできる。使い方は、たとえば「/date」とすれば、日付が近いものから検索結果が表示され、「/amazon」とすればAmazon.com内を検索できる。ローンチ時、「ヘルス」「レシピ」など7つのカテゴリでは自動的にスラッシュタグが適用される。

 もう1つの特徴はオープン性だ。Blekkoはサイトに張られているリンク数などのデータを公開している。またBlekkoの方針を探るキーワードとして、BlekkoのWebサイトに掲載されている「Web検索の権利章典」がある。

 権利章典の項目は、(1)検索はオープンである、(2)検索結果に人が関係している、(3)ランキングデータは公開する、(4)Webデータが利用できる、(5)1種類の検索ですべてのニーズを満たすことはできない、(6)高度な検索技術にアクセスできる、(7)検索エンジンツールは全員にオープンである、(8)検索とコミュニティは共に進化する、(9)検索結果にスパムを含まない、(10)検索者のプライバシーを守る――である。

ローンチ後の反応は上々

 Blekkoのローンチ後、メディアには多くのレビューが出ているが、反応は上々といえそうだ。THINQの記事のGoogleユーザーでもあるフリーライターは、スラッシュタグによる検索結果の精度、速度、シンプルなインターフェイスなどを高く評価した。アーリーアダプターに影響力を持つTechCrunchのMichel Arrington氏は7月の限定ベータを報じた際、「Googleの検索オプションを利用したことがある人なら、すぐに好きになるだろう」と評価している。

 PC Worldのレビューアーは、スラッシュタグがうまくいく場合もあれば、まったく使えない場合もあるとして、「Googleの深さと素早さがなつかしい」と結論している。eWeekはGoogle対抗にあたってユーザビリティがネックになる、と記している。

 これらのレビューで言及されたように、多くのメディアはBlekkoが、対Googleでどう戦えるのかについて分析している。

 New York Times紙は、Blekkoのアプローチを認めながらも、「課題はユーザーの多くがGoogleに満足していることだ」と記し、今年閉鎖したCuilや、Microsoftに買収されたPowersetなど、これまでGoogleの前に敗れたベンチャーを列挙。検索エンジンの専門家、Danny Sullivann氏の「興味深いし、成長するかもしれないが、一部のユーザーにアピールする程度になるだろう。Googleキラーではない」とのコメントで締めくくっている。

「打倒Googleを狙っているのではない」

 一方、当のBlekkoは、Googleに対抗する気はないと明言している。HuffingtonPostは「Googleを殺すつもりはない。ただ、われわれはよりよい検索、これまでとは違う検索結果を提供したいのだ」というCEOのSkrenta氏のコメントを紹介。また、パブリックベータ公開後のTechCrunchの記事でも、Skrenta氏は「打倒Googleを狙っているのではない」と述べ、倒すとすれば現在シェア4%程度のAsk.comを抜いて3番になれれば“御の字”と続けた。

当面はユーザー参加型による発展を目指す

 ではBlekkoは何を目指しているのか――。当面はユーザー参加型による発展だという。スラッシュタグのアプローチには人の力が不可欠だ。Skrenta氏はFinancial Times紙で、スラッシュタグの作成と編集によってユーザーが精度を上げていくという自社のアプローチを「Wikipediaを検索に応用した」と説明している。

 また、IDG Now! Brazilのインタビューでは、「Webは深くなっており、沈むことなく良い結果を返すことができるかが課題」であり、ここに人の手が必要になると述べている。

 Blekkoの成功は、ユーザーに参加してもらえるか否かにかかっているが、この点はどうだろう? Blekkoによると、8000人が参加した限定ベータ中に作成されたスラッシュタグは3000以上にのぼる。週単位の訪問率は11.5%で、24時間365日体制でBlekkoで検索していたユーザーもいたという。

 それでも、HuffingtonPostは、「普通のユーザーがスラッシュタグを使いそうにない」こと、そして高速検索「Google Instant」やカメラを使った検索「Google Goggles」など、できるだけ少ない入力で検索できるようにするのが現在の検索トレンドだと指摘して、その成功に疑問を投げかける。また楽観する見方もある。CNET Newsは「Googleに代わる選択肢になる」として、「研究者や図書館司書、ジャーナリストなど一部のユーザーには大きな潜在性をもたらす」と述べている。

関連情報
(岡田陽子=Infostand)
2010/11/8 09:06