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電子カルテの次の一歩!? 済生会熊本病院が「治療目標」と「未達成」を見える化

 社会福祉法人恩賜財団 済生会熊本病院と日本電気株式会社(NEC)は9日、電子カルテに入力・蓄積した診療データを収集・分析・見える化して、治療プロセスの品質管理を支援する「新型電子クリニカルパス分析ビューワ」を業界で初めて開発したと発表した。2014年4月から済生会熊本病院で試行的に導入し、今回、本格導入となった。同院では今後、同機能を活用して収集・分析を効率よく行い、PDCAサイクル化することで、医療品質の一層の向上をめざすとしている。

治療の目標未達成を分析する「クリニカルパス」

 多くの病院では現在、入院患者に対して、どのような治療・検査を行うかなどの治療プロセスを疾病ごとに定めた「標準診療計画」を策定。この治療プロセス品質を維持するために、患者ごとに目標(アウトカム)を設定し、目標未達成時(バリアンス)の患者状況などの情報を収集して分析する「クリニカルパス」という手法が導入されている。これにより、治療プロセスの品質向上のほか、チーム医療の実現や患者へのインフォームドコンセントへの活用などが期待されているという。

 クリニカルパスにおいては、標準治療計画から患者の経過が逸脱していないかを把握するため、バリアンス情報を常に収集・分析することが重要となる。しかし、従来の電子カルテシステムでは、自由記述でのデータ入力がメインで、用語が標準化されていないことから、分析可能な形式にわざわざデータを加工する必要があったという。

分析のためのデータ加工を省略化する仕組み

 今回開発したのは、あらかじめデータ分析が可能な形式で、電子カルテから日々の診療データを収集する仕組み。日本クリニカルパス学会が監修する患者状態アウトカム用語集(Basic Outcome Master:BOM)を利用し、1日分の診療データを記録できる「日めくり記録」機能を搭載。同機能により、バリアンス発生(目標未達成)と判定するとすぐに、判定内容を決まった用語・形式で記録できるという。

日めくりパス画面。アウトカム(達成目標)、タスク、バリアンス(目標未達成)などが患者ごとに一覧できる。ここでは「バイタルサインが安定している」というアウトカムに対して、バリアンス発生が赤く表示されている

 また、アウトカム(達成目標)や、目標達成を判断する観察項目(例えば「循環動態が安定している」など、意識評価や拡張期血圧に関する項目が定義されている)、実測値(拡張期血圧の実測値「90mmHg」など)の根拠データをひもづけて記録できるため、従来は数カ月を要していた、より正確なデータとするための分析用データ収集作業を省略できるという。

バリアンス予測も可能なビューワ搭載

 また、済生会熊本病院の知見を基に専用ビューワ機能を搭載。患者別の入院日数、バリアンス内容や件数、医療資源の投入状況のばらつき・偏りの状況を自動でグラフ化し、一覧表示およびCSVでのデータ出力が可能となる。

 診療現場の医師・看護師らが電子カルテ端末からビューワを起動し、画面上で担当患者のバリアンス発生状況などを瞬時に把握。標準診療計画から外れた症例の治療内容や患者状態を確認することで、治療成績に影響を与えそうなバリアンスの予測も可能という。

バリアンス表示画面。情報を自動でグラフ化する

済生会熊本病院の試行効果

 済生会熊本病院の試行では、電子カルテに日々の記録を入力することで、在院日数、バリアンスの件数、その内容・費用の表示が可能となった。これにより、問題となる症例を瞬時に抽出し、入院日数が長引く患者には「疼痛(痛み)コントロールに問題がある」とわかるなど、早期に現場へのフィードバックが実現したという。

 NECは「新型電子クリニカルパス分析ビューワ」を同社電子カルテシステム「MegaOak HR」の追加機能として、9日から販売する。

川島 弘之