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「IT創薬」でがん新薬候補の創出に成功、東大・富士通・興和

 東京大学 先端科学技術研究センター(以下、東大先端研)、富士通株式会社、興和株式会社の3社は7日、コンピュータ上で仮想的に設計・評価するIT創薬により、がんの原因となるタンパク質(以下、標的タンパク質)の働きを抑える医薬品の候補となりうる「新規活性化合物」の創出に成功したと発表した。

 2011年6月に東大先端研と富士通、7月に興和を加えた3社で、IT創薬の共同研究を開始。東大先端研が研究している「疾患を引き起こす原因と考えられるタンパク質の情報」を基に、「IT創薬」と「従来の低分子創薬技術とコンピュータを用いた低分子化合物探索の併用」という2つの方法で、がんを標的疾患とする創薬研究を進めてきた。

 従来の低分子創薬技術では、試薬会社が販売する、既存の低分子化合物が蓄積された化合物ライブラリから、標的タンパク質に対して、ある設定基準以上の「阻害活性」を示す低分子化合物を探索する。阻害活性とは「疾患を引き起こす原因と考えられるタンパク質に化合物が結合し、タンパク質の機能を抑制する度合い」のことで、これが新薬の効果の基となる。その後、ヒットした低分子化合物を医薬候補化合物とするために、その構造を改変する必要があるのだが、改変に適した低分子化合物が必ずしも得られるとは限らないという点が課題となっていた。

 共同研究では、タンパク質の働きを抑える低分子化合物を設計する「医薬候補化合物設計技術」によりコンピュータ上で多様な化合物構造を設計し、「高精度活性予測技術」でそれらの阻害活性を予測して絞り込む。その後、合成と実験による阻害活性測定を行う「IT創薬」を実施。これにより、化合物の構造改変による従来の創薬では得がたい新規の化合物構造であり、かつ阻害活性の高い医薬候補化合物を、高い確率で創出することを目指してきた。

 その成果として今回、コンピュータ上で設計した多様な化合物構造の中から、めぼしい22の化合物構造を選択し、そのうち8化合物構造を合成、実験による阻害活性測定を行った結果、1低分子化合物が目標とする阻害活性を示し、新規活性化合物の創出に成功したという。これは12.5%という従来の低分子創薬技術と比べると非常に高い確率での“創出”となる。

 また、IT創薬による新規活性化合物のほかにも、今後の創薬研究の推進において重要な情報を与える複数の低分子化合物も得たとのこと。

 3者は今後、協力体制を継続しつつ、早期に前臨床評価のスタートを目指して、これら複数の化合物を改良していく予定。

川島 弘之