IDC Japan、2011年国内IT市場の主要10項目を発表

鍵となるテクノロジーはブロードバンド、モバイル、クラウド


IDC Japan リサーチバイスプレジデントの中村智明氏

 IDC Japanは12月9日、2011年国内IT市場でキーとなる技術や市場トレンド、ベンダーの動きなど主要10項目を発表した。

 リーマンショックをきっかけとする世界経済危機の影響により2009年の国内IT市場は対前年比11%減という大幅な落ち込みを経験。2010年の国内IT市場は、景気回復を受けてプラス成長に回復。今後はゆるやかな成長が見込まれるが、2011年は、PC買い換えの反動もあり一時的に減速。2011年からほぼ横這いと予測している。

 IDC Japan リサーチバイスプレジデントの中村智明氏は、「2011年は市場規模としては横這いが予想されるが、非常に大きな変化が起きる年になる」、「これまでITテクノロジーの進化は、「速く」「安く」「大量に」といった軸での進展だったのに対して、2011年以後は、モバイル、ブロードバンド、クラウドという3つのテクノロジーが絡み合って形成するインテリジェント社会になる」と指摘。

 「2011年以後、キープレーヤーであり続けるには、ブロードバンド、モバイル、クラウドを組み合わせて提供できるベンダーである必要がある。これら3つのテクノロジーを組み合わせたシステムやサービスを提供するものが次の時代を担うITリーダーとなる」とした。

2011年以後は、モバイル、ブロードバンド、クラウドという3つのテクノロジーが絡み合って形成するインテリジェント社会に2011年国内IT市場の主要10項目

2011年成長率はほぼ横ばい~PC買い換え需要の反動で一時的に減速

国内IT市場は2010年以降、ゆるやかな拡大基調にあるが、2011年は一時的に減速

 2011年のITサービスおよびソフトウェア市場は、クラウド構築、IFRS対応、BA/BI(ビジネスアナリティクス/ビジネスインテリジェンス)需要により対前年比2~3%のプラス成長となる見込み。一方でハードウェアは2011年はマイナス成長が見込まれる。2010年買い換え需要でPC出荷は1500万台を超えるなど大きく伸びたが、2011年はこの買い換え需要の反動により12%のマイナス成長となることが主因だ。

 ただし、ハードウェア分野でも、LTE関連投資を背景に、iPhoneやAndroid携帯電話などのスマートフォン、ネットワーク機器は対前年6~8%プラスの成長が見込まれている。

 また、今後日本経済は人口減少で内需拡大が期待できないことから、多くの企業が海外への展開を目指しており、企業のIT投資も海外向けに軸足を移し、国内向けは抑制傾向になると予測。今後は企業活動のグローバル化にともない、企業のITシステムも国内と海外拠点をシームレスに連携させることが求められる。こうした需要と、円高の追い風を受けて、NTTによるDimension Dataの買収のように、海外ベンダーを買収するケースが増えると見ている。

 

2011年前半にAndroidがiPhoneを逆転する

2011年はNTTドコモ、auの参入により市場環境が一変する

 IDC Japanでは、2011年はドコモ、auの参入により市場環境が一変し、スマートフォンの国内台数シェアは2010年前半の8%から、30%まで一気に跳ね上がると予測。また、販売チャネルの数において圧倒的に勝るAndroidが、2011年前半にiPhoneを逆転すると見ている。

 モバイルアプリ市場も大きく成長すると予測している。2010年のモバイルアプリはiPhoneアプリが37万本、Androidアプリが15万本となる見込みだが、2011年にはiPhoneアプリが75万本、Androidアプリは55万本になると予測。

 ワールドワイド市場における有料アプリのダウンロード数は、2010年は100億ダウンロードと予測しているが、2011年には2.5倍の250億ダウンロードに達すると見ている。有料アプリのダウンロード販売の売り上げは、2010年はワールドワイドで5000億ほどだが、2011年は1兆2000億円と倍以上の成長を見込んでいる。

 また中村氏は、App Storeというビジネスモデルは、利用するユーザー視点ではアプリケーション導入が簡単なことから、今後PCやクラウドなどIT全体に波及するだろうと指摘した。すでにVMwareは「Project Horizon」として、デスクトップにあるSaaSのアイコンをクリックするだけで各SaaSサービスが利用できるようになる技術を開発していることを発表しているが、今後マイクロソフトがマイクロソフト版のApp Storeを始めることも十分考えられると述べた。

 「モバイルから始まったApp Storeという考えが、IT全体に波及する。」(中村氏)

 

“ガラパゴス携帯”から“ガラパゴススマートフォン”となるおそれ

 スマートフォン開発について中村氏は、「日本製スマートフォンの開発においては、オサイフケータイなど、従来の資産をどれだけ取り込めるかという競走になっている。このため、ガラパゴス携帯ならぬ、“ガラパゴススマートフォン”になるリスクがある」と指摘。「おサイフケータイなどの機能の実現のためにハードウェアなどをいじったことで、スマートフォンなのにOSのアップデートができないといったことが起こり得る。そうなると、日本独自のものに対応するために標準から遅れてしまう。」

 同時に、HTCの例を上げ、「HTCはAndroid端末を開発するために、はるか前からGoogleと一緒に開発をしてきている。このため、新しいAndroidについてはHTCはGoogleと共同で開発・テストなどを行う体制になっており、ガラパゴス化は起こりようがない」と述べた。HTCのように、Androidのベースとなる部分の開発にどうしたら関わることができるか。それには、「日本には優秀な技術者がたくさんいるのだから、Googleに20~30人常駐させて、貢献が認められれば共同開発者としていち早く対応することも可能になるだろう」と述べた。

 なお、日本企業では、今年4月にルネサスエレクトロニクス、NTTドコモ、富士通、NEC、パナソニックモバイルコミュニケーションズ、シャープの6社が携帯電話向けアプリケーションプラットフォームの共同開発に合意したと発表している。このアプリケーションプラットフォームは日本国内のみならず、全世界の携帯電話市場に提供することを前提に開発。Androidにも対応を検討すると表明しており、世界市場に向けた動きもあると述べた。

メディアタブレットとモバイルルーターの普及で、デバイスと通信キャリアのアンバンドル化が進む

端末が牽引するモバイルソリューション市場では、固定系のソリューション提供力を持つ事業者が市場機会を得る

 2010年は無線ブロードバンド市場の立ち上がり期となり、イーモバイルの「DC-HSDPA」、auのEVDOマルチキャリア「WIN HIGH SPEED」、NTTドコモが12月24日にサービス開始するLTE「Xi(クロッシィ)」などより高速なサービスが次々に開始される年となった。UQコミュニケーションズについても、2009年末の6万3000加入から2010年10月末時点で37万3000加入と、加入数が約6倍に大きく伸びた。

 一方、2010年はメディアタブレット市場が生まれた年でもある。2010年の市場規模はメディアタブレット51万台、ミニノート100万台だが、IDC Japanでは、2011年はメディアタブレット142万台、ミニノート107万台とメディアタブレットがミニノートを凌駕すると予測している。

 メディアタブレットのプラットフォームについては、2011年は引き続きiPadが主流となるが、2012年には販売力の差により、非iPadのメディアタブレットの市場規模がiPad市場を超える可能性が高いとしている。

 また中村氏は、「メディアタブレットでは3G回線を内蔵したモデルよりもWiFiモデルが売れている。メディアタブレット+モバイルルーターの組み合わせで利用する形が一般化しつつある」と指摘。モバイルルーターとWiFi対応デバイスの普及により、モバイル環境においてデバイス側はWiFiにさえ対応していれば、デバイス個々で回線契約をする必要はなくなる。「これにより、モバイルデバイスと通信キャリアとのアンバンドル化の方向性が明確化した」(中村氏)。

 「アンバンドル化が進むと、固定と携帯回線のシームレスなサービスが求められるようになる。そうなると、KDDIやソフトバンクなど、モバイル回線と固定回線の両方を持っているキャリアが双方のサービスを融合させやすいため有利になる。」(中村氏)

 さらに中村氏は、デバイスのアンバンドル化により端末が牽引する市場となると、法人向けモバイル市場においても、IIJやNTTコムなど、MVNO事業を手がけ、かつ固定系のソリューション提供力を持つ事業者にはチャンスになるだろうと指摘した。

 

クライアント端末の仮想化が進み、ITユーザー企業は二極化

ビジネス変化の対応スピードによりITユーザー企業は二極化、ベンダーは戦略の再構築を迫られる

 国内でIT投資を検討する基準がコスト削減一辺倒だった時代が終わり、グローバル化などビジネス環境の変化にいかに早く対応できるかを重視する企業が増えている。これにより、IT部門のテーマはコスト削減から「Dyanamic IT」の実現へとシフトしつつあり、そのためのステップとして、ITインフラの仮想化の導入が進んでいる。

 x86サーバーの仮想化は2009年の13.3%から2011年には17.1%と3.8ポイント増加し、2014年には25.7%に達するとIDCでは予測する。

 また、クライアントの仮想化市場については、2010年の13.8%から2011年に17.5%まで上昇すると予測。VMwareやCitrixでは、ソフトの要らないゼロクライアント端末も出てきており、IDCでは、この動きは加速すると見ている。

 中村氏は、「仮想化により、ハード投資をがんばらなくてもソフト導入だけでなんとかなるということになる。しかし、この変化を受け入れやすい企業とそうでないところがある。コモディティ化されたハードウェアを積極的に活用しようとするサービスプロバイダーのような先進ユーザーとのビジネスは、IT企業にとって収益率は良くない。一方、変化の遅い一般企業の方が受注額が大きく収益率は良いが、それだけをやっていては市場の成長率が厳しい。この2つの異なるユーザーに対して、いかにサービスを提供していくかの舵取りがITベンダーにとって重要なテーマになるだろう」と述べた。

 

クラウドの光と影

クラウドの発展がICTベンダーにさらなる試練を与える

 中村氏は、国内IT市場が低迷する中、クラウド事業はICTベンダーにとって成長分野であることは間違いないが、クラウドには光と影の部分があると指摘。

 クラウドの光としては、「2010年は、パブリッククラウドがソーシャルアプリケーション市場発展を促進した」「中小企業のIT推進を後押し」「インダストリクラウド:資源産業クラウド、医療/ヘルスケアクラウドなどが登場」を上げ、クラウド化は着実に進行しているとした。

 一方、クラウドの影としては、クラウドはITリソースの有効活用を促進し、IT効率化を推し進めてムダを省くため、クラウドの発展がICT市場の縮小を引き起こしていると説明。また、パブリッククラウドはベンダーにとって莫大な投資が必要となることから、ベンダーの投資回収が長期化する点を上げた。

 「とはいえ、クラウドはITベンダーにとって“MUST HAVE”であり、2012年以後の競争力に影響する。なんらかの形でクラウドのバリューがないベンダーは淘汰される。」(中村氏)

 また中村氏は、「2011年には、クラウドの覇者がだれになるのかはっきりする」と言明。クラウドへの取り組みではGoogleやAmazonに比べて後発となったマイクロソフトが本腰を入れてさまざまな形でサービスを提供してくることが予想され、「PaaS市場では2011年が大事な年になる」と述べた。

 

「規模の経済、範囲の経済へ」~国内企業でもM&Aが加速

 中村氏は、国内ITサービス市場におけるM&Aはさほど活発ではなかったが、パブリッククラウドやクラウドを支えるデータセンターなど、ベンダー側は大きな投資を迫られるが、規模を大きくすることでこうした投資の回収時期を短くできる可能性があり、それにより価格競争力も高まると説明。

 「規模の経済、範囲の経済」の時代になると述べた。

 M&Aの組み合わせは、国内ITサービスベンダー同士や、国内ITサービスベンダーによる海外ベンダーの買収、オフショアベンダーによる国内ITサービスベンダーの買収、プロダクトベンダーによる国内ITベンダーの買収などさまざまなパターンが考えられるとした。

 「たとえば、オラクルはコンバージド・インフラストラクチャを提唱しているが、ネットワークソリューション強化のために、JuniperややBrocadeが買収ターゲットになっても不思議はないし、米マイクロソフトがネットワークベンダーを買収しても不思議はない。」(中村氏)

 一方で、単に生き残りのために企業規模を大きくするという目的でのM&Aは失敗する可能性が高いと指摘。M&A後に、どういったビジョンでどういった売り上げ拡大および利益向上を図るのかをすべてのステークホルダーに説明できることが、成功するM&Aの必要条件であるとしている。

複合化・多様化、および国内市場の競争激化に対応するため、M&Aが加速IDCの提言

 

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