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タブレットビジネス最前線の販売会社が教える、業務活用のポイント~大塚商会

ビジネスでのモバイル活用をアピールするセミナーを開催

 大塚商会は、注目が高まっているタブレットやスマートフォンを利用することで、ビジネス力を強化することにつながることをアピールするセミナー「モバイルパワー2014」を開催した。

 サイボウズ株式会社の青野慶久社長、ソフトバンクモバイル株式会社 首席エヴァンジェリストの中山五輪男氏、日本マイクロソフト株式会社 エバンジェリストの西脇資哲氏など有名スピーカーの講演とともに、大塚商会の社員が、自社で扱う商品や事例をもとにした、実践的なモバイル活用方法を紹介している。

 今回はこのセミナーの中から、大塚商会自身のタブレット導入経験と、顧客への導入事例を踏まえた内容のセッションを紹介する。

 ガジェットとしての面白さを中心に紹介されることが多いタブレットだが、“業務活用に至るにはどういう経緯が必要なのか”“業務に合わせたOS選択など”、まさにタブレット販売ビジネス最前線にいる、販売会社ならではの内容となった。

OS選択は業務との相性、既存システムとの互換性も考慮すべし!

大塚商会 共通基盤プロモーション部 井川雄二氏

 「仕事効率が上がる!業績アップに繋がる! タブレットの上手な使い方」のタイトルで行われたセッションは、大塚商会 マーケティング部共通基盤プロモーション部フロントラインプロモーション課の井川雄二氏が行った。

 業務でのタブレット利用は、大塚商会自身が実践している。3年前、営業部の一部に試験的にiPadを導入。その後、試験期間を経て、現在はiPad、Windowsタブレットを業務で利用している。また自社導入以外にも、さまざまな業種への導入事例があり、それを踏まえて機器の選択、導入に至るまでのステップ、タブレット利用に適したアプリケーションなどが紹介された。

 機器選択の第一歩となる、OSの比較だが、大塚商会の商談ベースではiOSが約80%、Androidが約5%、Windowsが15%という割合となっている。

 これについて井川氏は、「OSの好き嫌いといったことではなく、業務に利用するのであれば、既存システムとの互換性、業務との相性といったことを優先に考えるべき」とアドバイスする。

 大塚商会の商談シェアは、市場シェア(iOS 70%、Android 25%、Windows 5%)とは異なるが、これは「モバイル系ウイルスの96%がAndroid用といわれている。セキュリティ面から懸念材料が多い」という観点から、iOS、Windowsの2つのOSを優先しているためだ。

 その上で機器選択は、それぞれのOSおよび機器の特性を踏まえて選択することを勧めた。「iPadとWindows 8タブレットはそれぞれ使い方に違いがある。そのため、性能の善しあしで比較するのではなく、導入目的、業務に合ったものを選択することが必要」としている。

 iPadに関しては、タブレットではWindowsに比べて先行していることもあって、企業への導入事例が多数存在する。ただし、社内システムとの連携についてはWebブラウザやデータ互換などの確認が必要で、現状ではPCの代わりに利用することは難しい。従って、「社内PCに続く2台目として導入することが適している」のだ。

 一方、Windows 8タブレットは、日本マイクロソフト自身をはじめ、さまざまなメーカーから搭載モデルが発売され、社内システムとの連携もPCと同様に実現できるといったメリットがある。1台でPCとタブレットの2役に利用し、既存PCの置き換えとして導入する例もあり、大塚商会の一部の部門でもPCの置き換えとして導入しているという。ただし、企業での導入実績がまだ少ない点は、ネックになるだろう。

タブレット用OS比較
iPadとWindowsタブレット

動画でしか伝わらないことを撮影しデモすることで効果

ステップ別 タブレット活用ソリューション

 次に活用については、活用に至る導入におけるポイント、必要なステップを踏まえて活用していくことが必要だとする。

 まず、導入のポイントは、(1)利用する目的・用途・人の明確化、(2)限定的にトライアル導入、(3)課題を整理し、運用・管理ルールを策定、(4)目的・用途・ルールに応じた、簡単・安価な仕組み、(5)社内へ周知し、リテラシーを向上の5つ。

 ステップとしては、(1)Apple Storeなどの個人用アプリを活用する、(2)メール&スケジュールの連携、(3)ドキュメント管理・共有・閲覧、(4)外出先から社内環境に接続する、(5)独自アプリケーションを開発する、といった5つを挙げている。

 大塚商会自身も、このポイント、ステップを踏まえてiPad、Windowsタブレットを活用している。大塚商会がタブレットを導入したのは3年前。通常企業に比べればITリテラシーが高く、技術支援を行う社員もそろっている同社だが、最初から全社導入せず、まずは東京営業部の一部の部門にiPadを配布した。

 「最初は利用するアプリを指定することはなく、営業活動に使ってくださいという緩い縛りがあっただけだった。その結果、タブレットを利用する人と全く使わない人に大きく分かれた」。

 ITリテラシーが高い企業であっても、縛りが特にない状態では、社員全員がiPad活用を始めたわけではないという点が興味深い。

 タブレットを積極的に使い始めた人は、当初はApple Storeから個人用アプリケーションをダウンロードし、タブレットをいろいろな場面に利用することが定着。その後、パンフレットをデジタル化し利用する人が現れた。

 「紙のパンフレットを手で持っているのに比べ、デジタル化したパンフレットであれば重量的にはタブレットの重さだけで済む。例えば当社の通販『たのめーる』のカタログの重さは2キログラムだが、データ化してタブレットに入れれば、だいぶ、かばんを軽量化できる」。

 カタログやパンフレットのデジタル化の次に行われたのは、動画の活用だ。口頭や文章での説明、静止画による説明では伝わりにくい場合、タブレットについているカメラを使って動画を撮影し、それを見せることで、伝わりにくかったメリットを顧客に伝える社員が登場した。

 「最近の複合機は操作画面がタッチパネル式で、従来よりも使いやすくなっているのだが、その良さは口頭ではなかなか伝わらない。動画を撮って見せることで、顧客は理解しやすくなる」。

 タブレット活用で営業成績が向上した社員が登場してきたことで、当初はタブレットを利用せず、従来型営業スタイルに固執してきた社員にも変化が生まれた。当初はタブレットを使っていなかった社員も、タブレットを活用しようという機運が生まれたのだ。

 タブレットでなくても新しいデバイスやソフトを企業に導入した場合、利用する頻度が高い社員と、使わない社員に分かれることはよくある。その壁を破るきっかけになったのが、動画やアニメーションとそれを使ったプレゼンテーション、というのがiPadならではといえるだろう。iPadに標準搭載されたカメラと、客先でデモンストレーションしやすい形状が、営業成績向上につながったのだ。

要望が多い使い方実現するサービスを用意

 調査会社の「iPad/タブレットPCの利用に関する実態調査」では、タブレット端末を仕事に利用する場合、もっとも多かったのが「メールチェック」で73.8ポイントとなっている。

 「確かにメールを外出先で見ることができるだけでも、その後の処理にかかる時間はだいぶ違う。ただし、やり取りをしていると、メールの容量が問題になるケースが結構ある」。

 そんな問題を回避する手段として、マイクロソフトのクラウドサービス「Office 365」と、大塚商会が提供するサービス/サポートがセットになった「たよれーる Office365」の導入を勧めている。

 Office365によってクラウド上でメール、スケジュール管理を行い、どのデバイスから、社内、社外、自宅などからアクセスすることが可能となる。

 メール以外に利用希望が多くなっているのが「ビジネス資料の保持・活用」、「プレゼンテーションデータの保持・活用」、「ビジネス系画像・動画の保持・活用」、「マニュアルの保持・活用」で、ドキュメントや画像の利用・管理のニーズが高まっている。

 このニーズに対しては、企業向けオンラインサービス「たよれーる どこでもキャビネット」というサービスが用意されている。カタログ、ドキュメントといったデータの共有はもちろん、スキャンした名刺を自働でOCR処理し、保存、閲覧する機能や、受信したFAXを紙に出力せず、保存することで、外出先からでも受信したFAXを閲覧する機能も設けられている。

 「カタログをデジタルデータ化することで、持ち運びが楽になるだけでなく、誰が、いつそのデータを閲覧したのかログを取ることができる。積極的にカタログを活用している社員とそうでない社員との違いを営業成績で比較するといった活用も可能となる。また、デジタル化したカタログの中に動画を入れ込むことで、紙のカタログでは出せない訴求効果を生み出すこともできる」。

 タブレットを実際に導入した事例として、建設業の株式会社三洋工業東北システム、不動産業のグローバルベイス株式会社の2社が紹介された。

 三洋工業東北システムは、“紙で行ってきたプレゼンテーションでは先進技術が顧客には伝わりにくい”という悩みを抱えていた。しかし、タブレット導入によって動きのあるデータを使ったプレゼンテーションを実現したほか、現場で撮影した写真を即登録し情報共有することや、外出先でも必要になったデータをタブレットから閲覧可能とすることで、若手社員の顧客対応力向上にもつながったという。

iPad導入事例 三洋工業東北システム

 グローバルベイスは、業務に不可欠な図面、仕様書、現場写真などかさばる紙媒体が多く、扱いに苦慮していた。また、ITによる業務効率の向上、他社に先駆けてiPadを導入することで先進的な営業活動を行うことがiPad導入の狙いであった。

 そこでオンラインストレージの利用を開始し、物件の図面、写真、関連情報の一括管理と閲覧ができるようにするとともに、顧客は要望があれば、その場でPDFデータをメールで送信するようにしている。データのデジタル化については複合機を活用し、受信したFAX、スキャンした紙文書をPDF化してサーバーに保存する仕組みとした。その結果、不要な出力が減り、印刷コスト30%削減というコストダウンにつながったという。

 セキュリティに関しては閲覧権、編集権の管理を行うのとあわせ、顧客の個人情報といった機密情報についてはオンラインストレージではなく、社内サーバーに置いて、リモートアクセスで閲覧するスタイルとした。

iPad導入事例 グローバルベイス

オリジナルアプリ作成はFileMakerで容易に低コストで

 ステップ4にあたる、タブレットを導入した際に必要となるセキュリティについては、外出先から社内アクセスを安全に、そして安価に行うためのマネージド型サービスが用意されている。外出先から社内環境に、安全、安価でアクセスする仕組みとしては「たよれーる どこでもコネクト」、タブレット端末の運用・管理機能をクラウドで提供する仕組みとしては「たよれーる デバイスマネジメントサービス」といったサービスが提供されている。

 後者のサービスでは、あらかじめ設定した利用ポリシーの管理、各種端末情報の収集、利用できる機能の制限などの機能を提供可能だ。

 中小企業の場合、家庭で無線LANを導入する感覚でルータやセキュリティ対策を済ませてしまうケースも多いようだ。そこで、こうした安全を保つサービスを使いながら仕事にモバイル端末や、外部からのアクセスを行うことを勧めている。

 ステップ5となる、企業独自のアプリケーション開発については、「できるだけ手軽に開発できる独自アプリケーションとして、FileMaker Proが脚光を浴びている」と、データベースソフトFileMaker Proの活用を勧めている。

 FileMaker Proは、アップルの100%子会社であるファイルメーカーが開発しており、iPadと親和性が高い。言語を使ってアプリケーション開発を行う場合に比べ、かなり低価格に開発することができる。実際にFileMaker Proで作られたアプリも多数存在し、さまざまな業種で活用された実績を持っている。

WindowsタブレットはPCの置き換え導入例も

 Windows 8タブレットの導入事例はiPadに比べ、件数が少ない。そこで大塚商会自身でも一部の部門にWindows 8タブレットを導入した。

 「マイクロソフト製品の販売を担当する部門で、自分たちも使ってみることにした。Windows 8タブレットの特徴は、PCの代替えとして利用できる点にある。そこでWindows 8タブレットを導入したLA事業部では、従来はWindow 7搭載PC、iPadという2台体制だったものを、Windows 8タブレット1台に統合した」。

 大塚商会全体では、Windows 8ではなく、Windows 7搭載機が標準PCとなっている。しかし、該当部門はあえてWindows 8搭載のタブレットPC1台の環境とした。その中で顧客から要望があがる、Windows 8の業務アプリケーション開発を支援する場合にも、自分たちの利用経験がプラスに働くと考えたからだ。

 iPadに比べれば数は少ないが、すでに導入事例も生まれている。自動車販売・整備業の東京オート株式会社にWindows 8を一斉導入した。

 東京オートのWindows 8導入は、Windows XPのサポート終了が導入のきっかけとなった。新しいOSへの入れ替えを検討した結果、営業店ではOS更新だけにとどまらず、タブレットPCとノートPCへの入れ替えを決定。その選択の結果、OSはタブレットと親和性の高いWindows 8を選択することとなった。

 システム入れ替えにより、接客サービスの向上、コスト削減、業務のペーパーレス化推進を目的としていた。接客サービス向上のために、全営業店舗に無線LANを導入。従来はバックヤードに戻って行っていた在庫確認、見積もり業務が対面で行えるようになったことで、来店者の待ち時間を減らすことに成功した。

 コスト削減については、160台のデスクトップPCの大半をタブレットやノートPCに切り替え、約30%減の115台に圧縮。保守費用、ソフトライセンスコスト削減なども実現した。業務のペーパーレス化についても、資料をプリントアウトせずに社員がタブレットを持ち寄って会議に参加することが当たり前になる、といった変化も起こっているという。

 大塚商会では事例を踏まえ、「タブレットがすべてというわけではない。しかし、PCを毛嫌いしていた人でもタブレットなら使うことができた。営業にもプラスになる効果が具体的に出てきている」とタブレット導入のプラス効果が確かにあったと締めくくっている。

Windowsタブレット導入事例 東京オート

 今回のセミナーで紹介された事例を見ると、タブレットを業務に使うメリットが出てきていることがわかる。その顕著な例が、動画を使ったプレゼンテーションだろう。「最新の複合機の操作画面が使いやすくなっていることが、動画で説明することでよく伝わった」という点は、大変興味深い。

 また、ステップを踏んで導入するというのも、タブレットを使う上でのポイントといえそうだ。タブレットに慣れていない社員が多い場合は、操作に慣れる意味で、本格的に仕事で使う前のお試し期間を設ける。そこでの経験から、「こんな使い方ができないか?」とアイデアが生まれることもある。

 ただし、本格的な業務で利用する段階になったら、使い方は制限する。セキュリティを保つために、試用期間と本格活用期では使い方を変えることも、トラブルなくタブレットを使い続けるコツとなるようだ。

 そして、タブレット利用を検討する企業は、このセミナーのような事例紹介を聞くことも、タブレットの業務活用の大きなプラスとなるのではないだろうか。

三浦 優子