「Azure」正式スタート、Microsoftのクラウド戦略をみる


 Microsoftのクラウドコンピューティングプラットフォーム「Windows Azure」とクラウドデータベースの「SQL Azure」が2月1日から課金を開始、正式にスタートした。OSとともにオフィスアプリケーションを事業の柱としてきたMicrosoftにとって、クラウドは既存ビジネスを脅かす存在でもある。いったいどう挑むのだろう――。

 PaaS(プラットフォーム・アズ・ア・サービス)と称されるWindows Azureは、2008年の「Professional Developers Conference(PDC)」で発表。まずCTP(コミュニティーテクノロジープレビュー)として提供された。2009年7月の「Worldwide Partner Conference」で料金体系を、同11月のPDCで提供時期などの詳細が明らかになり、今年1月に内部動作コードを正式版へと移行し、今回の正式スタートとなった。

 料金は、仮想CPUが1時間0.12ドル、ストレージは1GBあたり0.15ドル、ストレージトランザクション処理は1万件あたり0.01ドル、SQL Azureは最大1GBのWeb Editionが毎月9.99ドルなど。課金開始とともに、サービス品質保証契約も導入された。

 課金開始までの道のりは長く、ゆっくりしたものだったが、ここにきて加速しそうだ。Microsoftは2月2日にはAzureのストレージオプション「Windows Azure Drive」ベータ版を公開。4月にはアプリケーションプラットフォーム技術「Windows Server AppFabric」と「Windows Azure Platform AppFabric」などのコンポーネントを追加する計画だ。

 PaaSは現在、Amazon、Google、salesforce.comなどが先行している市場で、Microsoftは遅ればせながらの参入となる。この戦いでのMicrosoftの強みは、オンプレミスで築いた地位とシェアだ。「顧客はアプリケーションの運用や開発で、これまで使い慣れた技術を使いたいと思っている」というのがその主張である。

 だが、Microsoftの強みは同時に、クラウド戦略を進めるうえでの弱みにもなる。Microsoftはソフトウェアライセンスを主な収益とするビジネスモデルで成り立っているが、データセンター事業では、このビジネスモデルの変更を迫られるのだ。後発となったAzureの価格体系は必然的に、先行するGoogleやAmazonと同等、もしくは少し低めに設定されることになった。クラウドとオンプレミスを比較すると、収益の高さではオンプレミスに軍配があがるはずだ。

 Technology Business ResearchのアナリストAllan Krans氏は「クラウドは成長を加速するビジネスになるかもしれないが、Microsoftがコア事業で生んでいる営業利益率50%以上というレベルには到底達しない」とTheStreet.comに話している。Azureへのテコ入れが、既存事業に悪影響を与えかねないという指摘である。

 相いれないビジネスモデルを並行して進めねばならないジレンマは、GoogleやAmazon、salesforce.comにはない要素だ。たとえば、Googleはオンライン広告という太い収益源を別に持っており、PaaS事業と食い合うおそれはない。こうした点は、PaaSでの各社の戦いのなかで、Microsoftの弱点になりうる。

 迎え撃つライバルも対抗策をとりやすく、実際、Azureが課金を開始した2月1日、Amazonは一部サービスの料金を値下げしている。こうした事情を考えれば、「Microsoftは今後も、顧客の需要に合わせつつできるだけゆっくりとクラウド戦略を進める」だろうとKrans氏は予想している。

 もちろん、Microsoftもこの事業の難しさを分かって対策をとっている。同社は2009年12月、Azure事業部とサーバー/ツール事業部とを統合し「サーバー&クラウド部門」を立ち上げた。サーバーや開発ツールとクラウドが相乗効果を出すための対策で、オンプレミスからクラウドまで総合的に事業を展開する狙いだ。gigaOMは、クラウドが売り上げを伸ばすためには、プロバイダーは最もシンプルかつ迅速な方法で企業を移行させねばならず、「Microsoft、Azure、そしてWindowsのエコシステムは、その触媒になりうる」とこの事業再編を評価した。

 一方、技術面でMicrosoftのクラウド戦略でカギを握りそうなのは、11月に発表されたAppFabricだ。AppFabricはREST/HTTPまたはSOAPをベースとしたミドルウェア層に相当するもので、企業は自分たちのデータセンター内でクラウドを構築し、パブリックのAzureクラウドと連携させることができる。

 Microsoftはまた、クラウドプラットフォームでの相互運用性にも取り組んでいる。.NET以外にPHP、Java、Eclipseなどオープンソースの開発技術を利用できるようにすることで、開発者にアピールする狙いだ。これは、Googleの「App Engine」が現時点でPythonとJavaにしか対応していない点と比較すると、差別化になりそうだ。たとえば、PHP企業のZend Technologiesは、Azureの課金開始に合わせ、Azureと連携する「Zend Framework」最新版を発表している。

 クラウドは、Microsoftにビジネスモデルのシフトを迫る。Azure/プラットフォームだけではない。Microsoftは今年前半、ドル箱「Office」でもWeb版を含む「Office 2010」を提供する予定だ。

 ライバルはWeb企業だけではない。同じようにビジネスモデルをシフトさせるIBM、ビジネス領域を拡大するCisco SystemsやVMwareなどとも戦うことになる。Microsoftが自社のビジネスモデルの変革にどれだけ本気で取り組むのかは、少しずつ明らかになってゆくだろう。



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(岡田陽子=Infostand)
2010/2/8 09:10