米当局とオープンソース・コミュニティが協力、特許制度改革



 米特許商標庁(USPTO)がオープンソース・コミュニティと協力して特許審査プロセスの改善に乗り出す。米国では、審査の遅れと、“特許の質”が問題となっており、その対策のひとつとなるものだ。コミュニティにとっても画期的な取り組みだが、背景には米国の特許制度が直面している課題がある。


 USPTOは1月10日(米国時間)、ソフトウェア関連特許でオープンソース・コミュニティと協力していくと発表した。コミュニティの支援を得ながら、特許審査官がソフトウェアコードに関連するあらゆる先行技術にアクセスできるようにするという。審査官が初期審査の段階で参照することを想定したものだ。

 この取り組みには、米IBMやOSDL(Open Source Development Labs)が参加する。USPTOは「オープンソース・コミュニティがソフトウェアの審査でカギとなるリソースをUSPTOに提供する。これは重要なことだ」(Jon Dudas長官)としている。

 これにあわせてIBMは、共同で推進する3つのイニシアティブを発表した。内容は次のようなものだ。


1)Open Patent Review(オープンな特許レビュー)
 特定の分野についてUSPTOのWebサイトに登録すれば、当該分野の特許出願について、電子メールで定期的に通知を受けられる。また出願中の案件で、出願者や審査官の見落としている先行技術についてのフィードバックを受け付ける。

2)Open Source Software as Prior Art(先行技術としてのオープンソース・ソフト)
 オープンソース・ソフトを特許出願の潜在的な先行技術として確立する。先行技術の要件を満たすソースコードを蓄積し、検索可能なシステムを、IBM、米Novell、米Red HatやOSDLの協力で開発する。

3)Patent Quality Index(特許品質のインデックス)
 特許の質を表す統一的な数値インデックスの作成。手続きを進める際のツールとして、出願者や特許事務所などに幅広く活用されることを期待している。


 関連するシステムの開発にはコミュニティが協力するが、もちろん、コミュニティにとっての最大のメリットは、オープンソース・ソフトが特許の先行技術として確立されることだ。オープンソース・ソフト開発者やユーザー企業を特許訴訟の脅威から守ることにつながる。

 USPTOは2月に、これらのイニシアティブを推進するための公開会議を開く予定だ。米The New York Times紙によると、米Googleもすでに議論に参加しており、さらにUSPTOはバイオ、ナノテク、半導体など、他の産業分野でも同様の話し合いを行っているという。

 この“特許の質”の問題は、ここ数年で、急速に浮上してきた。

 全米科学アカデミー(The National Academy of Sciences)は、2004年に発表したレポート「A Patent System for 21st Century」で、「USPTOへの莫大な件数の出願(年間30万件以上)のため、特許審査部は崩壊の危機にさらされており、特許の質の低下、膨大な滞貨の発生、またはその両方の発生が生じている」と指摘している。

 審査を行うUSPTOでは、人員、予算不足が深刻という。特許が下りるまでにかかる時間は通常1年半だが、ものによっては4年を超え、今のままではさらに長引くようになるという。また、認可された特許自体も質が低下、すなわち、有効性に疑問が残るもの、が増えているという。

 オープンソース・コミュニティとの協力は、これを打開するためのものだ。また、こうした取り組みが必要になることは、USPTOが自ら管理している特許情報さえ活用できていないという皮肉な現状も表している。

 米議会では昨年、特許法改正案が提案され、議論が続いている。内容の柱は「特許付与後の無効申し立て導入」「損害賠償額の適正化」「先願主義への移行」の3つで、米国が200年以上採用してきた「先発明主義」から、世界で主流の「先願主義」に移行する歴史的な方向転換となる。

 この動きは大企業からの強い要請を受けたもので、改正案には米Microsoftが2005年3月に発表した特許制度への提言が大きく影響したとも言われている。訴訟対策費用の増大など、企業の特許関連コストが膨れあがっていることが背景にある。

 特許制度改革は大企業にとっても、オープンソース・コミュニティにとっても重要な問題だ。法案への賛否は、なお分かれており、最終的な行方は不透明だが、知財関連で今年最大の動きとして要注目だ。

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(行宮翔太=Infostand)
2006/1/16 08:59