「iPad 2」生産のFoxconn工場で爆発 労働環境にもあらためて疑問


 「iPhone」を製造していることで知られる中国のFoxconn Technology(富士康)の工場で、爆発事故があった。昨年、従業員の自殺が相次いだ深センの工場ではなく、製造能力強化のために新設した四川省成都の工場である。この工場は先般、Appleが発表した「iPad 2」の生産拠点となっている。iPad 2供給への影響と、“魔法のような製品”の製造現場の実態が再びクローズアップされている。

 

iPad 2生産の重要拠点

 現地からの報道などによると、5月20日に起こった爆発事故で、少なくとも3人が死亡。15人以上のけが人を出したもようだ。成都工場は、iPadの製造を一手に引き受けているFoxconnが2010年に建てた新しい工場で、深セン工場では追いつかないiPad 2の生産能力を補うための拠点となっている。

 事件を調査していた警察は、爆発の原因が可燃性ダストとする初期結果を発表した。爆発があった現場は、iPad 2がまとう、つややかなアルミニウムケースの研磨作業を行っていたセクションで、アルミニウム粉末などが使われていたという。

 iPad 2は3月に米国で発売されて以来、とぶように売れている。この事故を受け、iPad 2生産への影響が懸念されたが、調査会社の見方は分かれている。

 

30万台~60万台のiPad 2品不足に?

 IHS iSuppliは、この事故が50万台の生産ロスにつながる可能性があるとしている。成都工場のキャパシティは月産50万台で、爆発事故によって6月末まで生産がストップする可能性があるというのが根拠だ。

 IHS iSuppliによると、深セン工場は第2四半期で750万台の生産キャパシティを持つが、iPad 2の同四半期の出荷予想は740万台であり、これをサポートするには780万台~810万台の生産が必要となる。したがって、事故の影響で、Foxconnの出荷台数は第2四半期に30万台~60万台の不足になると予想している。

 Hawkerが紹介するDisplayBankのアナリストの見方も同様だ。深センと成都はiPad 2のメイン製造拠点であり、成都は24の生産ラインで、32%を生産しているという。事故の結果、台数にして35万~40万台の生産ロスが出ると推定している。

 これに対し、GartnerのアナリストはNetworkWorldに「成都工場は生産を開始したばかりで、インパクトは非常に小さい」と述べている。また、Sterne Ageeのアナリストも、ほかの拠点でカバー可能で、「出荷に与える影響を心配するのは大げさだ」とBloombergにコメントしている。

 

成都工場新設の背景

 爆発事故は、iPad 2供給への懸念をもたらす一方で、Foxconn工場の労働環境や労働安全対策に再びスポットを当てた。Foxconnの深セン工場では昨年、従業員の自殺が相次ぎ、少なくとも10人以上が死亡。労働団体やメディアは職場環境に問題があると指摘して、改善を求めた。

 これに対し、Foxconnは賃上げ、自殺を防ぐネットの設置、カウンセラーの配置などの対策をとって、深セン工場での問題は沈静化したようだった。

 しかし、皮肉なことに、成都工場は賃金引き上げの結果、つくられた工場のようだ。

 中国製(Made In China)をテーマに中国事情を報じるブログのM.I.C. Gadgetによると、内陸の成都は深センと比べて賃金が安く、雇用創出を期待する自治体もFoxconnの工場設置を歓迎した。そこには、賃金の高い深センよりも成都で生産した方がコストを抑えられると計算したFoxconnの狙いが見え隠れするという。同社は成都工場の建築に計20億ドルを投じることになっており、建設はまだ完了していないようだ。

 

「過酷な労働環境は改善されてない」

 事故の後、燃焼熱が大きい可燃物であるアルミニウム粉末に覆われて仕事をしている成都工場の従業員の様子を伝える動画がYou Tubeにアップされた。香港をベースとする労働団体Students and Scholars Against Corporate Misbehavior(SACOM)が入手したもので、カメラは粉末にまみれた従業員の手や作業服を映し出している。

 SACOMは、学生や研究者が中心となって労働環境の改善活動を行っている非営利団体で、爆発事故が起きる2週間前の5月6日に、「FoxconnとAppleは約束を守れていない」と題した調査書報告を発表していた。

 調査書報告は2010年の従業員連続自殺の後のFoxconnの労働環境をレポートしたもので、SACOMは成都工場の労働安全についても「ある従業員は、いつもアルミニウム粉末を吸い込んでいると苦情を述べている」「手袋をつけてはいるが、手、顔、服は粉じんに覆われている。換気を改善すべきだという声も出ている」などと警告していた。

 また、従業員は化学品の安全性についての知識が乏しく、健康状態をチェックする担当者も常駐していなかった。こうしたことを受け、SACOMは事故後の5月25日にプレスリリースを出し、爆発は偶然の事故ではないと指摘。「FoxconnとAppleが労働安全関連法を厳格に順守し、是正措置をとっていれば、悲劇は避けられた」と記している。

 こうした中、中国政府は5月25日、Foxconnに対し、労働安全性の改善を求めた。当局も黙ってはいられなくなったのだ。だがその翌26日、成都工場で20歳の男性従業員の飛び降り自殺があったと報じられた。FoxconnやAppleの対応は、急務となっているようだ。

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(岡田陽子=Infostand)
2011/5/30 09:53