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ソニー、FeliCaを利用した電子お薬手帳を開発、川崎市で試験へ

 ソニーは19日、クラウド上で個人情報に配慮したデータ蓄積を可能とするシステムを開発。その第1弾アプリとして、非接触ICカード技術「FeliCa」を利用した電子お薬手帳の試験サービスを2013年秋より川崎市にて開始すると発表した。

 従来のクラウドを利用した一般的なサービスでは、利用者の個人情報とデータの両方がペアでサーバーに保存されるため、データとともに個人情報が漏えいするリスクが存在する。これに対して、今回のシステムでは個人情報とデータを分離し、データのみをクラウドに保存、個人情報はカード内に保存することで、万が一、サーバーが不正アクセスされても個人情報は守られる構造としている。

 この仕組みを利用して、FeliCaカードによる電子お薬手帳の試験サービスを開始。現在主に利用されている紙の手帳は、薬局から受け取る調剤情報シールを張り付けたり、自分でメモを書き込めたりする手軽さがある一方で、薬局への携行を忘れたり、紛失したりした場合、調剤履歴を継続的に蓄積・管理するのが難しい側面がある。

 新サービスでは、FeliCaカードを利用した電子お薬手帳と、スマートフォン用アプリを開発。利用者はFeliCaカードを薬局の端末にかざすだけの簡単な操作で、調剤履歴の閲覧と調剤情報の記録が行える。さらにスマートフォン用アプリによってモバイル端末からも情報を閲覧できるほか、診察を受けた際の症状や服薬後の副作用、アレルギーなどの記録も可能。また、薬局はソフトをインストールしたPC、タブレット、カードリーダーなどを用意することで容易にシステムを構築できるのも特長となる。

 これにより、調剤履歴に加えて、利用者がスマートフォンで入力した症状、副作用、アレルギーなどに関する各種情報も薬局側で一元的に把握でき、薬剤師は利用者の状況をより効率よく的確に把握できるため、「リスク・コミュニケーション」の促進も期待できる。また、スマートフォンを利用して子供の調剤情報を保護者が管理したり、離れて暮らす高齢者の状況を家族などが見守ったりと、家族間のコミュニケーションを深めて「セルフ・メディケーション」の促進も支援するという。

 ソニーはこのサービスを開発するまでに実証実験として、川崎市宮前区医師会および同市薬剤師会と協力して、五十嵐中特任教授(東京大学大学院薬学系研究科)監修の下、2011年11月より川崎市宮前区にある約200の薬局にシステムを提供。現在までに約1000名の利用者に実際に利用されている。この実証実験を通して得た要望や、それらを検討して蓄積した知見を生かし、2013年秋からは対象エリアを川崎市全域に拡大し、ソニー自ら試験サービスを展開するとしている。

 また、同サービスでは、氏名や生年月日などの個人情報を含まない形で調剤情報、副作用などの薬歴データをクラウドに蓄積できる。ソニーはこれら統計データを自治体に提供し、例えばインフルエンザなどの感染症流行情報の発信を支援したり、また統計データを製薬会社に提供し、例えば服薬で生じる可能性のある有害事象の早期発見を支援するなど、利用者に有用な情報を還元する、社会に役立つ新しい情報活用の枠組みを提案する考え。

川島 弘之