特別企画

開発者がAzureを使わない理由はない――日本データセンターの重み

日本マイクロソフト幹部に聞く

クラウドへの移行はどんな企業にも必須

 いまさら言うまでもなく、Microsoftは世界でトップを争うIT企業であるが、その地位は決して安泰ではない。Apple、Amazon、Facebook、Googleといった強力なライバルたちと伍(ご)していくには、Microsoft自身が市場のニーズをアジャイルに反映できる、ダイナミックな体制でなければならない。

 ナデラ氏のCEO就任も、Azureを中心とするクラウドへのフォーカスも、そしてWindows Phoneなどモバイル戦略の仕切り直しも、すべては現状のトレンドを強意識した上での施策である。余談だが、Microsoftの製品開発は現在、すべてアジャイルで行われている。「Microsoft自身、クラウドやアジャイルから取り残されれば勝ち抜いていけないという、強い覚悟のもとで開発を行っている」(伊藤氏)。

 だが、ユーザー企業、とりわけ変化のスピードがゆっくり目なエンタープライズ企業やレガシーを数多く抱える中堅企業がMicrosoftと同じ速度で変化し続けることは難しい。それでもやはり「クラウドへのシフトは世界中のどの企業も避けられない宿命」だと平野氏は言う。

 「これまで、大企業から見たクラウド導入のメリットといえばコスト削減の側面から語られることが多かった。彼らにとって大事なデータは、インターネットではなくイントラネットにあった。でも今は違う。モバイルやソーシャルなど、エンタープライズのずっと先を行くコンシューマのトレンドがエンタープライズにも入り込み、インターネットからデータが攻めてくる時代になった。管理すべきデータが社内にしかなかった時代はとっくに終わっている。放っておけば、つまりクラウドへの移行を進めなければ、社内ITは陳腐化の一途をたどるだろう」(平野氏)。

 では、加速する時代の流れに追い付くことができずにいる企業はどうしたらよいのだろうか。伊藤氏は「そういう企業にこそAzureを選んでほしい」と訴える。「当面、国内企業のクラウドはオンプレミスとの共存を前提としたハイブリッド環境が主流となる。オンプレミスのお客さまを数多く見てきたMicrosoftだからこそできる、ゆるやかなクラウドへの移行をハイブリッドで実現していく。up-to-dateなベンチャーやスタートアップに最新の環境を提供する一方で、急激な変化を望まない企業には、彼らに寄り添うようにガイドしていきたい」という伊藤氏の言葉には、顧客企業とともに変化を乗り切っていきたいとするMicrosoft自身の姿勢が見て取れる。

 「クラウドへの移行にちゅうちょするお客さまには“大丈夫、一緒にやっていきましょう”というメッセージを投げかけていきたい。既存の開発者に対しても、“あなたの技術はクラウドでもそのまま使えます”と訴えていく」(伊藤氏)。

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 ときどき、大手ITベンダの中には「お客さまに選択肢を」というフレーズを掲げ、オンプレミスでもクラウドでも“お客さまの要望に応じて”対応できるITソリューションをうたっているところがある。だが自ら望むITを選択できるほどの強い意志と深い知識をもったユーザー企業はそれほど多くない。ベンダーやSIerに丸投げを続け、彼らの言う“良いお客さま”でいた結果、気づけば仮想化やクラウドという大きな流れに乗り遅れてしまった企業は少なくないはずだ。

 “選択肢”などというぬるい言葉ではなく、クラウドこそがいまや受け入れるべきトレンドである。Microsoftはその移行のための支援を日本データセンターの設立でもって強化していく――。これはつまり、Microsoftから国内企業や開発者に対してAzureというボールが投げかけられたような形だ。そのボールをどう打ち返すのか、あるいは打ち返さないのか、それとも違うピッチャー(競合企業)からのボールに反応するのか。クラウドへの移行は、ユーザー企業自身の決断と責任がより重みをもつ時代に入ったことを示している。

五味 明子