特別企画

開発者がAzureを使わない理由はない――日本データセンターの重み

日本マイクロソフト幹部に聞く

 既報の通り、日本マイクロソフトは2月26日より、東京と大阪の2カ所のデータセンターからの「Windows Azure(現Microsoft Azure)」の提供を開始した。

 ユーザー企業も、そして日本マイクロソフト自身も待ち続けていた念願の国内データセンターによるパブリッククラウドの提供である。そしてこの国内データセンター開設に合わせるかのように、Microsoftでは激震に近い大きな変化が続けて起こっている。

 新CEOのサティア・ナデラ(Satya Nadella)氏の就任に始まり、Windows AzureからMicrosoft Azureへの名称変更、MS-DOSなどの旧ソフトウェアリソースの公開、さらにはMicrosoft Azureの大幅値下げ、モバイルデバイスベンダーに向けたWindowsの無償提供など、これまでのMicrosoftとは一線を画すスピードで大胆な新施策が次々と実行されているのだ。新CEOによる怒涛のスタートダッシュともいえる。

 1992年にMicrosoftに入社して以来、同社のさまざまな部門で強いリーダーシップを発揮してきたナデラ氏だが、ここ数年はAzureを含むクラウド&エンタープライズ部門をエグゼクティブバイスプレジデントとして指揮/統括してきた。クラウドやモバイル、ビッグデータといったトレンドがITの世界を支配している現在、テクノロジーとビジネスの両方に精通した新CEOがMicrosoftに誕生したことは、市場でもおおむね高い評価でもって受け入れられている。

Microsoftの新CEOとなったサティア・ナデラ氏。開発者イベントやスタートアップのネットワークにもよく顔を出すことで知られている

 こうした劇的な変革のさなかにあって、Azureの日本データセンター開設はどれほどの重みをもつのか。クラウドへとシフトが世界的に進むIT一方で、いまだレガシーが支配的な国内企業のIT環境をトップベンダとしてどう支援していく方針なのか。

 今回、日本法人でAzureの推進活動を指揮する2人のエグゼクティブ、日本マイクロソフト 執行役 デベロッパー&プラットフォーム統括本部長の伊藤かつら氏、同 デベロッパー&プラットフォーム統括本部 パートナービジネス推進部 業務執行役員の平野和順氏に、日本データセンターの存在意義、さらには開発者から見たAzureの優位点について伺う機会を得たので、これをお伝えしたい。

執行役 デベロッパー&プラットフォーム統括本部長の伊藤かつら氏
デベロッパー&プラットフォーム統括本部 パートナービジネス推進部 業務執行役員の平野和順氏

日本企業としての日本データセンター開設

日本データセンターの特徴

 Microsoft Azureの前身であるWindows Azureが、プレビュー版として最初に登場したのは2008年。その2年後の2010年には商用パブリッククラウドサービスとしてグローバルでの運用が開始された。当時、Microsoftの主席アーキテクトだったレイ・オジー(Ray Ozzie)氏は、米国ロサンゼルスで行われた「PDC 2010」において「AzureはクラウドOSである」と宣言、この時点からMicrosoftはクラウド市場に本格的に参戦する。

 「レイ・オジーの発表当時から日本国内にデータセンターを開設することはわれわれの夢だった」と平野氏は当時を振り返る。国内のユーザー企業も同様で、特にソーシャルゲームやアドテク、スマートフォンアプリを開発する企業からの引き合いが強かったという。これらの企業にとっては、ピーク時におけるレイテンシは事業を大きく左右する要因となる。1/100秒、1/1000秒の遅れがユーザー数の増減に直結するからだ。「シンガポールや香港のデータセンターでは、やはり、体感できるほどの遅れが生じていたことは否めない。日本データセンター開設はこうした企業の不満をほぼ解消したといえる」(平野氏)。

 もっとも、日本データセンター開設を待っていたのはソーシャルゲームやアドテクといった企業ばかりではない。むしろ今回のニュースを最も歓迎したのは、クラウドへの移行が叫ばれつつもそのペースが遅い、エンタープライズ企業だろう。そして、こうした企業にとっては、1/1000秒単位のレイテンシよりも、“国内にデータセンターがある”という事実がもたらす安心感がより重要となる。

 「クラウドに対するニーズの高まりを意識しながらも、コンプライアンスや法的な問題、それから、大事なデータがどこにあるかわからないのは嫌だという感覚的な問題から、クラウドへの移行を拒むユーザーは少なくなかった。日本データセンターの開設はこうした顧客のマインドを変えていくきっかけとなるはず」と平野氏は言う。

 さらに、エンタープライズにクラウドへの移行を急がせたもうひとつの要因として、リアルタイム分析へのニーズが挙げられると平野氏は指摘する。「現在、地球上に存在するデータのうち、約90%がここ1、2年で生成されたフローデータといわれている。そしてこれらのデータを迅速に分析することはエンタープライズにおいてもビジネスの勝敗を大きく左右する。バッチ処理による日をまたいだ分析も重要だが、今インターネット上を流れているデータをいますぐ分析したいというニーズに応えるには、クラウドの活用なくして考えることは難しい」(平野氏)。

 では日本マイクロソフトにとって、Azureの日本データセンター開設はどのような意義をもつのか。伊藤氏は「新しいCEOの登場とほとんど時期を同じくして日本データセンターを開設できたことを本当にうれしく思う。そして国内にデータセンターをもつことは2008年に社長に就任した樋口(注:日本マイクロソフトの樋口泰行社長)にとっての念願でもあった。日本企業として地に足をつけて活動してきた成果だと思っている」と強調する。

 伊藤氏のコメントの通り、樋口社長の日本法人社長就任以来、日本マイクロソフトがとりわけエンタープライズ企業に注力して顧客層を広げてきたのは事実である。それでもAzureがスタートした2010年時点では、クラウドとエンタープライズという組み合わせは、同社にとってもユーザー企業にとっても、それほど魅力あるものではなかった。当時からエンタープライズへのクラウド普及に努めていたAWSと温度差があったことも事実だろう。

 だが「今はもう違う。日本データセンターはマイクロソフトがエンタープライズソリューション企業として内外から認められた証であり、レイテンシの低減よりもずっと意義のあること」と伊藤氏。さらに「われわれ日本マイクロソフトは日本の会社であり、日本に税金を払っている。もちろんこの4月からの消費税もきちんと納税している。仮にユーザー企業との間で訴訟などが発生した場合も管轄の裁判所は国内にある。日本の企業として、日本の企業のITを支援し、ビジネスを支援していく。その姿勢と覚悟はどの競合よりも明確で強い」と、日本という土地に根付いたビジネスであることを強調する。

(五味 明子)