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キヤノンMJ、2016年度に8000億円目指す中期経営計画を発表

西東京データセンターの受注好調で追加投資へ

 キヤノンマーケティングジャパン株式会社(以下、キヤノンMJ)は28日、2013年度(2013年1月~12月)の連結業績を発表するとともに、2016年度を最終年度とする中期経営計画を発表。2016年度には、売上高で8000億円、営業利益で360億円、営業利益率4.5%、経常利益370億円、当期純利益で230億円を目標とする。

 また、2014年度(2014年1月~12月)の業績見通しを発表し、売上高が前年比2.4%増の6732億円、営業利益が同10.5%増の188億円、経常利益は同9.3%増の199億円、当期純利益は同18.0%増の120億円とした。

会見は、東京・品川のキヤノンMJ本社で行われた

 キヤノンMJの川崎正己社長は、「単なる商社機能だけでなく、付加価値を創造する商社へと進化を図る。成長が見込める領域への積極投資を図っていく」と中期経営計画の基本姿勢を示した上で、2016年度のあるべき姿として、「独自の新たな付加価値を提供し続ける『サービス創造企業グループ』」とする。

 また、その構成要素として「価値創造型商社へと進化し、優れたソリューションを提供している」、「成長戦略をリードし、事業をけん引する人材の強化・育成が進んでいる」、「収益構造改革の継続により、利益体質がさらに強化されている」という3点を挙げるとともに、この実現に向けて、「キヤノン事業の国内市場圧倒的No.1の確立」、「グループシナジーの最大化による既存事業領域における生産性と付加価値の向上」、「既存事業における成長分野の強化・拡大」、「グループの総力を結集したスピード感のある事業創造・新規商材調達」、「全事業領域におけるBeyond JAPANの推進」の5つの全体戦略を掲げた。

 成熟製品が多いキヤノン既存領域事業では2016年までの年平均成長率(CAGR)は3%とするが、キヤノン新規注力領域事業では18%、キヤノンMJの独自事業領域事業では13%とする。

 川崎社長は、「1人あたり売上高は、2013年度比で20%増とする。それに向けて、マーケティング改革、営業改革を促進するIT投資を加速する」とした。業績目標のための投資として、今後3年間で約500億円の投資を計画。そのうち、社内ITシステム開発に約70億円を計画している。また、このほかに戦略的投資として、M&A関連資金として約400億円を準備しているという。

 なお、昨年発表した2015年度までの中期経営計画に比べると、ビジネスソリューションや産業機器で下振れする計画となっているが、2016年度の最終利益目標は過去最大規模となる。

 「まずは今年度、成長路線への復活を遂げることで、当社グループが目指す『サービス創造企業グループ』への道筋を作りたい」(川崎社長)とした。

ITソリューション事業は年平均成長率 9%を見込む

 2016年度に向けたセグメント別の目標についても公表した。

 中でも、ITソリューションでは、2016年度までの年平均成長率で9%を計画。2016年度の売上高は1850億円、営業利益で75億円を見込んでいる。

 そのなかで、独自事業と位置づける事業のうち、SIサービスは年平均成長率で12%、ITインフラ・サービスは13%、エンベデッドで16%を計画。だがプロダクトは、2014年にWindows XPサポート終了後の駆け込み需要の反動がみられることから、2016年の年平均成長率はマイナス2%と、マイナス成長を見込んでいる。また、キヤノン新規注力領域では、複合現実感を映し出す技術であるMR(Mixed Reality)において63%と高い成長を見込んでいる。

 「すべての事業のベースになっているのはITである。上流工程要員や高度な技術力を持つ人材育成を行い、また、不採算案件の撲滅にも取り組む。Windows XPのサポート終了にあわせた拡大した事業規模を維持すべく、プロダクト事業領域以外での事業拡大に取り組んでいく必要がある」(川崎社長)などとした。

 ITソリューションにおける成長戦略としては、「SIサービスの顧客基盤強化と開発生産性の向上」、「テータセンター事業の拡大」、「新ソリューション事業の立ち上げ・保有技術の事業化促進」、「グローバル事業の地域別展開」、「他セグメントも含めたグループITソリューション力強化」をあげる。

 特にデータセンタービジネスの拡大戦略については、2012年10月に稼働した西東京データセンターが、高度なセキュリティ、沿岸から離れた立地、構築から運用までのトータルサポートという点で高い評価を得ており、「これまでの受注は、順調である」(川崎社長)という。今後は、ホスティング・コロケーションなど多彩な提案による規模の拡大、システム運用の受託スキーム強化、BCP(事業継続計画)関連事業の展開に取り組むとした。西東京データセンターに向けて、今後3年で約50億円の追加投資を行う計画も明らかにした。

 さらに、アジア地域でのITソリューションビジネスの拡大に取り組む方針を打ち出し、昨年子会社化したITソリューション会社であるMaterial Automation(Thailand) Co., ltd.(MAT)を通じて、タイのほか、フィリピン、ベトナムをはじめとする東南アジア圏でのビジネス拡大に乗り出す。

 「MATは、20年以上に渡る実績とともに、500社以上の日系企業への導入実績を持ち、これはタイに進出する日系企業の3分の1を占める。今後も事業展開領域を含め、東南アジアにおけるITソリューションを拡大し、現在、20億円のMATの売上高を、早い段階で50億円にまで拡大したい」(川崎社長)とした。

 キヤノンMJグループ全体としてのITソリューションの売上高を2013年度実績の1678億円を、2016年度には2300億円に拡大。「全セグメントが活用できるクラウド基盤の拡充」、「業種別ソリューション開発の連携」に取り組むという。

プロダクションプリンティングをもっとも注力する領域に

 一方、ビジネスソリューションの売上高は3750億円、営業利益が123億円。ITソリューションやドキュメントソリューション、サポートなどの独自事業では年平均成長率10%、プロダクションプリンティングやネットワークカメラのキヤノン新規注力領域事業では13%、MFPやLBPのキヤノン既存領域事業では2%とした。

 ここでは、ドキュメントビジネスの生産性および収益性向上、特定業務プリンティング、業種別ソリューションの拡大、中小企業向けソリューションの本格展開、新会社を核としたプロダクションプリンティング事業の成長エンジンとしての基盤確立、ネットワークカメラ事業の本格展開をあげた。

 特に、「最も注力する領域」(川崎社長)と位置づけるプロダクションプリンティングでは、デジタル印刷市場が現在の4000億円から1兆円に拡大することをとらえ、キヤノンプロダクションプリンティングを2014年4月に設立することでの体制強化と、高速印刷、帳票印刷、データプリントサービスにおける新製品投入により、2016年度には同事業で460億円の売上高を見込む。

 また、中小企業向けITソリューションの拡大に取り組む姿勢を明らかにし、キヤノンシステムアンドサポートが提供するドキュメントソリューション、情報共有ソリューション、クラウドソリューションなどの各種ソリューションを中核にして取り組んでいくとした。

 イメージングシステムでは、2016年度の売上高は2150億円、営業利益は123億円を計画する。額装写真レンタルやフォト関連オンラインサービス、ITプロダクトによる独自事業では年平均成長率で34%、業務用映像機器、業務用フォトプリンタといったキヤノン新規注力領域では29%、レンズ交換式カメラ、コンパクトデジカメ、デジタルビデオカメラ、インクジェットプリンタなどのキヤノン既存領域では3%と、いずれも成長を見込む。

 具体的な成長戦略としては、「ホーム・プロ・ビジネスの市場ごとのインクジェット商品・サービス強化」、「継続したステップアップ戦略によるレンズ交換式・ミラーレスカメラ全クラスNo.1」、「プレミアムモデルの強化によるコンパクトカメラ事業の収益強化」、「業務用映像機器のラインアップ拡充とソリューション強化」、「CRMの拡充・デジタルマーケティングの推進」、「写真関連コンテンツの新規事業拡大」に取り組む。

 「インクジェットプリンタでは、クラウド、モバイルとの連携強化によって利用機会を広げ、消耗品の販売拡大につなげる」(川崎社長)と述べた。また、「3年後には、一眼レフとミラーレスが半々ぐらいになるだろうとみている。当社としてもミラーレスを強化していく」(キヤノンMJ・佐々木統取締役専務執行役員)と見込んでいる。

 産業機器では、検査・計測、プロセス装置などの独自事業で年平均成長率64%、コンポーネントビジネスによるキヤノン既存領域では3%の成長率を計画。新規商材によるキヤノン新規注力領域にも取り組んでいくという。また、医療分野においては、外部調達モダリティ、眼科製品などの独自事業で14%の成長率、CXDIや無散瞳眼底カメラなどのキヤノン既存事業で25%の年平均成長率を見込んでいる。

第1四半期でつまずくも下期は好調

 一方、2013年度の売上高は、前年比0.3%減の6572億円、営業利益は同1.3%増の170億円、経常利益は同0.6%増の182億円、当期純利益は同3.9%減の101億円となった。

 川崎社長は、「“サービス創造企業グループ”への成長を図るべく、スタートダッシュをかけたが、これに反して、第1四半期のつまずきが大きく響いた。だが、下期は104.5%増の増収、40億円近い増益となった。構造改革の効果が収益基盤を高めたという成果がある。今年以降の成長に向けた種はまかれている」と総括した。

 セグメント別では、ビジネスソリューションの売上高は前年比1.1%減の3272億円、営業利益は前年から8億円減の55億円。MFP(複合機)の国内市場は、出荷台数は前期に比べ増加したものと思われる。オフィスMFPでは出荷台数が業界を上回る伸びを達成。だが、レーザープリンタは前年同期に大型案件があった反動で前年割れ。大判インクジェットプリンタは、レンタル業や流通業向けを中心に順調に売り上げが伸長。グループ会社のキヤノンシステムアンドサポートは、新規顧客の積極的な開拓やソリューション提案の強化、Windows XPのサポート終了を契機としたシステム改修や増設ソリューションが順調に推移し、売上高は前年同期を上回った。

 また、ITソリューションは金融機関向けのSI(システムインテグレーション)サービス事業やプロダクト事業が順調に推移。売上高は前年比8.6%増の1422億9900万円、営業利益は2億円増の4億円となった。

 そのうち、SIサービス事業は、金融機関向けを中心に個別システム開発案件が増加。ITインフラ・サービス事業はクラウドサービスやデータセンターサービスなどが増加したという。また、エンベデッド事業は、製造業の主要顧客向けの製品組み込みソフト案件が減少。プロダクト事業では、Windows XPのサポート終了に伴う入れ替え需要の発生などにより、ビジネスPCが好調に推移。メモリー関連製品の販売が堅調に推移したという。

 イメージングシステムは、売上高は前年比0.1%減の1917億円、営業利益は16億円増の125億円。デジタルカメラにおいて、レンズ交換式デジタルカメラ、交換レンズがいずれも過去最高の出荷台数を記録。4月発売の世界最小・最軽量一眼レフカメラ「EOS Kiss X7」などのエントリーモデルや、12月に発売したミラーレスカメラ「EOS M2」、8月発売のミドルクラスの「EOS 70D」が円滑な立ち上げと勢いの維持に成功。消費税増税前の駆け込み需要を見越したディーラーの先行仕入れが影響したという。これにより、「実需以上に出荷台数を伸ばしているのが実態」(キヤノンMJの柴崎洋 取締役専務執行役員)という。「市場全体では10万台強の前倒し需要があり、その多くがキヤノンと試算している。当社の出荷台数において、約10%近い台数が前倒しになっている」(キヤノンMJの佐々木統 取締役専務執行役員)と試算した。

 コンパクトデジタルカメラは、売り上げは前年実績を下回ったものの、シェアNo.1を獲得。インクジェットプリンタも前年実績を下回った。「インクジェットプリンタは、1枚あたりのコストなどの戦える部分は伸ばしていく。筐体の大きさの問題は無視しているわけではない。今後の商品では検討して、勝負をかけていくことになる」(佐々木取締役専務執行役員)として、小型化で先行したエプソンへの対抗姿勢をのぞかせた。業務用映像機器は、監視用途の情報カメラが順調に推移。映像制作用のカメラやレンズで構成される「CINEMA EOS SYSTEM」が4K対応製品を含め好調に推移した。また、6月発売のHDハンディビデオカメラ「XA20/25」も好調に推移したという。

 産業機器は、売上高は前年比14.9%減の261億円、営業損失は、6億円減のマイナス18億円の赤字。産業用3Dプリンタの導入効果があったものの前半に国内半導体関連の投資が低迷した影響により、売り上げは前年同期を下回った。一方で、医療機器は、ヘルスケア分野で全自動分包機や滅菌機が好調に推移し増収になった。

大河原 克行