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農業ICTもここまできた! 富士通の「Akisai」導入事例を多数紹介

 富士通株式会社は22日、食・農クラウド「Akisai」に関する説明会を開催。事業戦略、実績のほか、実例としてイオンアグリ創造株式会社の事例などを紹介した。農業ICTはどこまで進んでいるのか――。

 Akisaiは、2012年10月に提供が開始された農業ICTのクラウドサービス。「豊かな食の未来へICTで貢献」をコンセプトに、生産現場でICTを活用。流通・地域・消費者をバリューチェーンで結び、露地栽培・施設栽培・畜産における“企業的農業経営”を支援する。

 具体的には、モバイル端末やセンサーからのデータを収集・分析・利活用することで、これまで農業熟練者の経験と勘に支えられてきた作業を見える化し、組織マネジメントを実現する。サービス体系としては、ビッグデータを基に「経営」「生産」「販売」を効率化する各種メニューが用意される。

Akisai商品体系
コンセプトは「豊かな食の未来へICTで貢献」

 対象は、1)大規模化、生産の工業化、6次産業化など事業規模の拡大を目指し、企業的経営を目指す農業生産者、2)食のさらなる価値向上を目指し、農業への進出、多数の契約生産者との連携強化を目指す食品加工・卸・小売・外食など食関連企業。

 2012年の提供開始以来、1000社を超える問い合わせ・引き合いがあり、160社の顧客で利用中(有償利用92社、トライアル・実証利用68社)という。そのうち、いくつかの事例が紹介された。

160社の顧客で利用中

農業ICTはここまで進んでいる

 宮崎県の新福青果では、定植日からの積算温度により収穫時期を予測し、収量向上、安定供給、リソース最適化を目指した栽培計画を立案するためにAkisaiを活用。適期作業を徹底することで、キャベツの収量・売り上げともに前年比3割増を達成した。

 滋賀県のフクハラファームでは、稲作の田植え作業の工程別分析にAkisaiを活用。作業プロセスを改善することで総作業時間を削減した。具体的に、補植(田植機で植えそこなったところを人手で植える作業)の多さに着目し、前工程(代かき)の改善、補植判断ルールの明確化によって、補植時間を2278時間(2011年実績)から1772時間(2013年実績)まで短縮した。「特に従業員の考え方が変わったのが進歩」(フクハラファーム)という言葉が印象的だ。

宮崎県の新福青果事例。キャベツ収量・売り上げを30%アップ
滋賀県のフクハラファーム事例。田植えの補植時間を大幅短縮

 糖度12度以上の「味一みかん」をブランド展開する和歌山県の早和果樹園では、「味一みかん」の収穫を増やすためにAkisaiを活用。樹木一本ごとにIDを付与し、センサーやスマホで情報を収集、そのデータから各種アドバイスを行うシステムを構築した。これを基に適地適作業を実施することで、収穫される全みかんにおける「味一みかん」の比率を24%から53%に向上。3年間で3倍化することを目標に今も取り組み中という。

 福岡県の幸寿園では、花卉栽培における遠隔地からの指導にAkisaiを活用。跡を継いだばかりで特定品種の栽培ノウハウがない女性経営者に対して、温室環境情報を共有する日高農園の指導者が「施設園芸SaaS」を通じて遠隔指導を行っている。農業の課題ともいえる後継者育成に一定の効果が得られているという。

和歌山県の早和果樹園事例。「味一みかん」の収穫量を3倍に
福岡県の幸寿園事例。遠隔地からノウハウ指導

 大分県の衛藤産業はこの日に発表された事例で、従来Excelで行い、従業員間で共有や有効活用ができていなかったコスト集計業務をシステム化することで、原価の根拠を明確にし、コスト把握による価格交渉力向上を図っている。原価の不明瞭さは農業の共通課題。これを明瞭にすることは、そのまま経営に直結する効果が期待できるという。

 静岡県で枝豆、レタス、ミニ白菜を栽培する鈴生では、これまでExcelで行ってきた作業履歴管理を「農業生産管理SaaS」に移行。作業履歴照会、簡易分析、写真検索機能を利用している。鈴生は独立農家5軒、外部協力農家6軒から成る農業法人で、情報共有のための対面ミーティングが業務効率上のネックとなっていた。Akisaiでは主にクラウド上に生育写真をアップすることで瞬時の情報共有を可能にしたほか、データを活用し、数十分かかっていた産地報告書作成を数クリックに短縮できたという。鈴生の鈴木貴博社長は「こうしたデータが次世代の宝になる」と効果をかみしめる。

大分県の衛藤産業事例。キャベツの栽培原価把握で価格交渉力を向上
静岡県の鈴生事例。作業履歴管理をSaaSで

 イオンアグリ創造は、「経営分析」「会計管理」「農作業管理」にAkisaiを活用。同社はイオングループ店舗に新鮮な野菜を提供するため、2009年7月に設立。全国12カ所の直営農場(合計約140ヘクタール)「AEON農場」を運営しており、その情報を結ぶためにICTを導入した。

イオンアグリ創造 代表取締役社長の福永康明氏
全国12カ所の直営農場を運営

 「経営・生産・品質の3つの見える化」を目指し、直営農場でAkisaiのトライアルを開始したのが2010年7月。2012年10月に直営8農場で正式運用を開始し、2013年度からは経営分析機能の本番運用や委託先への展開を開始(将来的に3000農家へ)。今後はイオングループのバリューチェーンへの展開や、中国・ASEANを中心としたグローバル展開も見据える。

 「災害などのリスクヘッジや流通コストの削減のため、直営農場を全国に展開した。その情報を共有するためには、どうしてもICTが必要となる。直営農場を拡大にするにつれ、ITによる個々の農場単位の管理に加え、本社機能としての一元管理を実現し、経営の見える化による収益管理にAkisaiを役立てている。また、直営農場の生産データ(農法・従業員数・作業データ・天候・病虫害など)と店舗情報(POSデータ・消費需要・店舗周辺気候情報など)、および会計データを使って最適化分析を実施し、将来の見える化にも着手している」(イオンアグリ創造 代表取締役社長の福永康明氏)という。

 この事例でも「作物別個別原価計算」の仕組みを独自に開発し、作物別の10aあたりの製造原価を明確化し、作物生産コストの削減や価格競争力の強化を図っている。現状ではまだグループへの供給力は微々たるものというが、こうした取り組みを通じ、「新鮮な野菜をイオングループ店舗などへ安定供給し、AEON農場のブランド化を達成させる」(福永氏)考えだ。

イオンアグリ創造での導入の流れ
「経営分析」「会計管理」「農作業管理」の三位一体により、経営の見える化を図る

富士通の広がる農業への取り組み

 広がりを見せる農業ICT。富士通もAkisaiの機能を順次強化するなどして、さらなるニーズに対応する。

 2013年12月には、Akisaiの新ラインアップとして「農業生産管理SaaS/栽培歴の最適化」「同/生産マネジメントライト」「農産加工販売SaaS」「農業会計SaaS powered by GLOVIA smart きらら」を発表した。

 農業生産管理SaaSは、1)農業の実態を見える化するため、日々の活動から生まれるデータを収集し、2)経営・生産・品質などの軸でさまざまなデータ分析を行い農業経営に活用するもので、「儲かる農業の実現」をコンセプトとする。

 その新機能となる「栽培歴の最適化」では、地域・作型などの実態に合った栽培歴の作成を支援する。生産技術の向上と人材育成の支援を目的としたものだ。具体的に、栽培のPCDAサイクルを「栽培歴」「生育調査・比較」「生育・収穫予測」の各機能で支援し、適期作業の実現と安定収穫を実現する。

 栽培歴とは、農場における各作業を行う最適なスケジュールを規定したもので、各県からも地域ごとに最適な栽培歴が公表・提供されているが、Akisaiでは、さらにユーザー自らの実情を踏まえ、自農場に最適な生産計画を作成できるようになっている。既存の作業日誌や栽培指針などから栽培歴としてルール化し、フィードバック・改善を重ねることで品質の確保、収量の安定化を図れる。

 また、記録した生育情報(茎長や葉の枚数、実の大きさなど)を集計・表示し、関係者間で共有する。その栽培基本データと気温データから収穫時期を予測し、年間を通じた安定した収穫が可能になるというわけだ。

栽培歴の最適化機能の特徴
生育情報を集計。収穫の安定化につなげる
気温データと栽培基本データから収穫時期を予測。年間を通じた安定した収穫を実現

 従来は熟練者の頭の中にのみ存在した経験知である。事例の中でもコメントがあったが、こうした情報を見える化し、将来の後継者に託すことは今の農業にとって非常に重要なことなのだという。

 富士通はこうした機能を、全国の農業法人や農家と実証実験を行った上で、製品化している。また、Akisai活用の場、および顧客へのプレゼンの場として、2013年7月より沼津に自社農場「沼津Akisai農場」を開設。実践から得るデータをもとにサービス開発を加速させている。

 さらにAkisaiの提供以外の事業化として、「会津若松Akisaiやさい工場」を開設。こちらは半導体工場のクリーンルーム(2000平方メートル)を活用した完全閉鎖型植物工場にて、機能性植物である「低カリウムレタス」を生産するという、テクノロジー企業の富士通にとっては珍しい取り組みである。2013年7月に実証実験を開始する旨が発表されたが、2014年2月からいよいよ本格量産を開始する予定という。

 こうした取り組みを通じて、Akisaiについて2015年度までに2万事業者への導入、累計150億円の売り上げを目指している。

(川島 弘之)