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攻めに出たDropbox アプリスイート戦略は成功するか?

企業ユーザーのハートを射止めよ

 Dropbox for BusinessとProject Harmonyで狙う法人分野は、広告というビジネスモデルをとらないDropboxにとって重要な市場となる。Dropbox for ProjectにあたってDropboxはこれまでの基盤を再構築したという。Dropboxでエンタープライズ戦略担当バイスプレジデントを務めるRoss Piper氏は「IT管理者とCIO向けの機能が必要だと認識し、1年がかりでサービス全体を再設計した」とWall Street Journalにコメントしている。なお、Piper氏はエンタープライズへの取り組みを率いるため、salesforce.comからDropboxに移籍した人物だ。

 Dropboxによると、現在の利用者数は個人ユーザーが2億7500万人、企業は400万社に達しているという。これは2013年の1億7500万人、200万人から増加にあたる。ReadWriteは「これらの既存の個人ユーザーをテコにする」とDropboxの戦略を分析する。

 Dropboxはこれまで口コミベースでユーザーがユーザーを呼んで広がってきたという経緯を持つ。「人は職場でも使い慣れたツールを使いたいと思うもの。契約社員、提携企業、その他の外部の人と共有する必要があるときに、相手もDropboxのアカウントを持っていることが多い。ユーザーがあちこちにいることが、当初法人分野に拡大できた理由になっている」とReadWriteは指摘する。これは「ITのコンシューマー化(コンシューマリゼーション)」トレンドとも合致する。

 Salesforce.comの創業者兼CEO、Marc Benioff氏はProject Harmonyを評価し、「Dropboxの製品を再定義するもので、これまでわれわれの業界にはないような競争優位性をもたらす」とWall Street Journalにコメントしている。

 一方で、業務ソフトウェア界の著名アナリストR "Ray" Wang氏(Constellation Research)は「評価できる最初の一歩」としながらも、大企業がDropboxを受け入れるようになるまでの道のりは長い、とTechCrunchにコメントしている。

 Wang氏はリモートワイプ、アカウント移管、監査ログ共有などのエンタープライズ機能を評価しながらも、セキュリティ、エンタープライズ級の統合機能、コンテンツの暗号化などの機能が不足していると指摘する。オンラインコラボレーション分野のアナリストLawrence Hawes氏(Dow Brook Advisory Services)は、「Boxはこの2年をかけて、大企業が情報セキュリティを確実にするために管理機能を必要としていることを理解した。DropboxはBoxよりはるかに後発で、最初から企業向けに設計して展開しているファイル同期と共有サービスを提供するプロバイダよりも遅れている」と手厳しい。

 Hawes氏は「イメージ」も課題に挙げる。エンタープライズに照準をあてた新機能を用意したところで、企業のIT担当者らがDropboxに抱くイメージは「エンタープライズ向けではない」であり、これを変えるの容易ではないというのだ。「多くの企業IT部門は、オンラインストレージ分野で引き続きほかの代案を探すだろう」(Hawes氏)という。

(岡田陽子=Infostand)