【Interop Tokyo 2010基調講演】
「クラウドの信頼性をネットワークが高める」-NTT Com海野副社長
幕張メッセで開催されているInterop Tokyo 2010で9日、NTTコミュニケーションズ株式会社(NTT Com) 代表取締役副社長の海野忍氏が「キャリアから見たクラウドの意義」と題して基調講演を行った。さまざまなデータをまじえ、クラウドにおける信頼性と、そこでのキャリアの取り組みが語られた。
■クラウドの利点
NTT Comの代表取締役副社長、海野忍氏 |
海野氏はまず、クラウドの概要について解説した。コンピュータシステムの構成は、ホストコンピュータとダム端末による「中央集権的モデル」から、PCと分担する「クライアントサーバーモデル」を経て、再び「クラウド」や「シンクライアント」に変遷してきている。クラウドやシンクライアントが注目を浴びている背景として海野氏は、通信回線が安くなったこと、個人情報保護法によって手元にデータを置くことが危険と認識されるようになったこと、大量のPCにアップデートを適用するなどの管理の大変さなどを挙げた。
そのうえで、クラウドの利点として、「すぐに利用できて事前の準備が不用なこと」「資源の増減が簡単で需要予測が不要なこと」「環境構築が簡便で環境のコピーなどでできること」「保守・運用が不要なこと」の4つを挙げた。これらを生かした実例として、山梨県甲府市の定額給付金支給管理システムや、エコポイントの受付システムといった比較的知られた事例に加え、「ビリーズブートキャンプ」のビデオがヒットした、通販会社のオークローンマーケティング社の事例が紹介された。これらの事例では、短期間にスタートし、それほど長くない期間で終了するという特徴があり、クラウドであればこのような急激なデマンドの増減に対応できる。
なお、クラウド導入によるスケールアップメリットとして、ハウジングサービスを利用した自社構築システムの場合の運用費と、NTT ComのクラウドサービスであるBizホスティング ベーシックでスタートした場合の運用費、さらにそこからスケールアップした場合の金額が比較され、コストメリットが強調された。
システム構成の変遷 | サーバー仮想化によるリソースプール |
■守りのITはアウトソースで、攻めのITは自社で
クラウドサービスを利用してシステムをアウトソースした場合、企業内IT担当の役割も変わってくる。これについて海野氏は「企業におけるITの活用は二極化する」という視点から今後の姿を語った。
海野氏は、仕事を、コモディティ化した「ルーチンワーク」と自社にしかできない「ブレーンワーク」に分類。IT分野についてそれぞれを「守りのIT」と「攻めのIT」と名付け、「守りのITをアウトソースして、削減された予算を自社で攻めのITに」という姿勢が必要だと説いた。CIOが保身的であるとルーチンワークを増やすことで仕事を守ろうとするが、「攻めにシフトすることで、IT部門の仕事はなくならない」という意見だ。そのうえで、日米の企業での、IT投資への期待に関する2007年の調査結果を引きながら、日本企業は「攻めのIT投資」への期待を寄せていないことを指摘し、「これでは大きな飛躍が望めない」と警鐘を鳴らした。
守りのITと攻めのIT | 日米でのIT投資への期待 |
■キャリアの考える「クラウドの信頼性」
NTT Comのサービスをふまえて重点的に語られたのが、「クラウドの信頼性」だ。
まずユーザー企業の心理として、PCの盗難や紛失など「データが手元にある不安」とクラウド置いていることによる「データが手元にない不安」というジレンマがあることを説明。そのうえで、「現金は家に置いておくより銀行に預けるほうが安心」という例えでクラウドが有利であると論じた。
とはいえ、それにはクラウドの信頼性の確保が前提となる。海野氏は、サーバー、ネットワーク、オペレーションの3つのポイントを挙げ、キャリアとしてのNTT Comの信頼性向上への取り組みを紹介した。
まず紹介されたのが国内広域分散。NTT ComのVPNサービスを例に、サーバーがダウンしてもデータセンター内の別のサーバーに自動的につなぎかえたり、災害時などには遠隔拠点間(東日本と西日本など)でつなぎかえたりできるということが説明された。
さらに、欧州、香港、シンガポール、アメリカ、日本の間の広域分散についても提供予定として紹介された。将来的には、米国に出張したビジネスマンが米国データセンターのデータにつなぎかえて作業、ということもできるようになるだろう、というビジョンも示された。
これらの基盤として、13の国や地域の、33拠点に渡るグローバルデータセンターや、Tier-1のグローバルなIPバックボーン、海底ケーブルを含む国際専用通信回線などが紹介された。また、これからのVPN技術として、サーバー部分ではなくネットワーク部分で接続を制限する「仮想ネットワークジェネレータ」も紹介された。仮想ネットワークジェネレータでは、クライアントが接続手順をダウンロードすることにより、利用環境に合わせた接続手順が適用されるという。
また、自社だけではなく事業者間での相互接続を目指す業界団体「グローバルクラウド基盤連携技術フォーラム」(GICTF)の取り組みも紹介された。
国内広域分散 | グローバル広域分散 |
グローバルデータセンター | グローバルIPネットワーク |
国際専用通信 | 仮想ネットワークジェネレータ |
■ネットワークの信頼性がますます重要に
最後に海野氏は、通販市場がコンビニや百貨店を抜くという報道を引きながら、ネットワークがますます重要になってきており、信頼性のあるクラウドが必要であることをあらためて強調した。そして、これからのITは、人にまかせられることは人にまかせ、「ITを使って初めてできること」にチャレンジしていくものだと語って、話を終えた。