富士通研究所、仮想マシン移動時に複数のスイッチの設定を自動変更する技術

大規模クラウド環境などに適用へ


 株式会社富士通研究所は8日、仮想サーバーの移動時に必要となるネットワーク機器の設定変更について、複数のスイッチをまたがっても自動化できる技術を開発した。これにより、大規模クラウド環境における設定および管理工数の削減と、人為ミスの危険性を排除した、信頼性の高い設定変更を実現できるという。なお同技術のデモが、6月8日から幕張メッセ(千葉県)で開催される展示会、「Interop Tokyo 2011」の富士通ブースに展示される。

ライブマイグレーション時におけるスイッチの設定変更の課題
富士通研究所 ITシステム研究所 主管研究員の清水剛氏

 クラウド環境では、利用者の要求やサービスの拡大に伴って、CPUやメモリなどの計算リソースを割り当てるため、物理サーバー上で実行中の仮想マシンを、別の物理サーバー上に移動するライブマイグレーションが行われ、このときにネットワーク機器の設定変更が必要とされる。

 仮想マシンの移動に伴って必要となるネットワーク機器の設定変更は、サーバーとそれが接続されたスイッチとの間では、「エッジ仮想スイッチ技術」として標準化が進められているが、クラウド環境で想定されるような、複数のスイッチを多段接続した環境においては、特に標準化が行われておらず、システム管理者がいちいち手動で行うか、ベンダーが提供する方法・ツールを活用して固有の方法で変更する、いわばベンダーロックイン型の仕組みしかなかった。

 富士通研究所 ITシステム研究所 主管研究員の清水剛氏は、「ネットワーク処理が複雑化するとともに、仮想スイッチの負荷が増大しており、仮想スイッチ、アダプタ内蔵スイッチ、外部スイッチを一貫して管理することが重要となっており、仮想スイッチオフロード技術と、仮想マシン移動時の自動設定技術が重視されている。だが、サーバーに隣接するスイッチを自動設定ができても、上位スイッチはネットワーク管理者が設定する必要があり、作業上の設定ミスが発生しやすいという問題もあった。また、高速な10Gigabit Ethernetが普及したことにより、仮想サーバーの移動にかかる時間が短縮。ネットワーク管理者は仮想サーバーの移動に同期して上位スイッチの設定変更が困難となってきた」と、この状況を説明する。


今回開発された新技術

 今回、富士通研究所が開発した技術は、ライブマイグレーションにあわせ、上位のスイッチの設定変更を、標準規格に準拠して自動化できる技術で、大規模なクラウド環境における設定変更の自動化と、運用コストの低減、設定ミスの排除などを図ることができ、ベンダー固有の方法・ツールを使わなくても、この課題を解決できる点が特徴だ。

 「大規模なクラウド環境においては、サーバーが接続された複数のスイッチを、さらに上位のスイッチで接続する多段式の接続が利用されるが、エッジ仮想スイッチ技術は上位スイッチの設定変更には対応していなかった。今回の技術は、標準化が進んでいるエッジ仮想スイッチ技術をさらに拡張し、仮想マシンの移動にあわせて上位のスイッチを自動設定する技術であり、世界で初めてのものになる」という。

 具体的には、仮想マシンの移動にあわせて、スイッチにVLAN、帯域制御、フィルタリングなどのポートプロファイルを自動設定。IEEE802.1Qbgで定められた制御メッセージを使用し、動的に構成した構成情報に基づき、選択的に中継する機能によって、多段構成のスイッチの自動設定に対応する。

 データセンターブリッジ技術の標準化を進めているIEEE802.1 DCBタスクグループにおいては、エッジ仮想ブリッジの規格として「IEEE 802.1Qbg」の標準化に取り組んでおり、仮想マシンの発見、設定、更新のために必要な通信プロトコルを規定。ここで定められた設定変更のための通信メッセージを必要に応じて上位のスイッチに中継する機能を開発したことで、多段構成のスイッチの自動設定にも対応した。

 メーカーが異なるスイッチを多段接続している場合にも、標準規格に準拠したものであれば、自動設定が可能になるという。

 さらに、中間段のスイッチでサーバー間通信を実現していることから、上位スイッチの通信負荷を削減することができる。

 富士通のブレードサーバーのBX900とToRスイッチの構成を例にあげると、同技術を採用していない場合には同ブレードサーバーに搭載される最大18サーバーまで自動設定できるが、同技術を採用することで、18サーバーと8本のアップリンクの組み合わせによって最大144サーバーまで、スイッチの3段構成の場合には、1728サーバーまでの自動設定が可能になる。


新技術による効果Interop Tokyo 2011でのデモ内容

 今後、富士通研究所では、ネットワーク設定処理の高速化、自動化を進めるとともに、同技術の標準化に対する活動を積極化する考えであり、2012年6月までに実用化を目指すという。

 なお富士通では、2003年に10Gigabit Ethernetスイッチにおいて、世界初のワンチップ化を行うなど、ネットワーク分野では数多くの実績を持つ。2010年6月には、仮想スイッチのオフロード技術を発表したほか、仮想マシンのライブマイグレーション時における、ネットワーク設定情報の自動設定を、サーバーと隣接するスイッチの間で行う技術については実現していた。

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