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SaaSはASP 2.0なのか?
第五回・ネットスイート-“オンライン特化型企業”だけが生き残った
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米NetSuiteは、米salesforce.com同様、SaaSの専業企業である。そのNetSuiteで社長兼CEOを務めるザック・ネルソン氏は、米国でオンデマンド型のサービスがASPからSaaSへと変ぼうしていくのを目の当たりにしていた人物。ネルソン氏はASPとSaaSの違いを、「シングルテナントとマルチテナントの違い」と指摘する。そして、「単にマルチテナントかどうかというだけでなく、ユーザーの声を受けて進化を遂げることができた企業だけが、現在でも残っているのだ」と説明する。
■ ASP企業は株式市場崩壊で消えていった
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米NetSuiteのザック・ネルソンCEO
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ASPとSaaSはどこに違いがあるのか?-こちらの質問を聞くと、ネルソンCEOはにっこり笑ってこう答えた。
「ASPはSaaSのもともとのアイデアの源だった」
NetSuiteは1998年に設立。当時はSaaSということばはなく、当然、ASPサービスを行うための企業として誕生した。
「当社を設立した当時、ASPビジネスを開始しようとする会社が次々に出てきた。ただ、同じ『ASP事業を開始した企業』にも2通りあった。1つは、既存のアプリケーション、OracleやSAP、PeopleSoftといった企業向けのアプリケーションをネット経由でエンドユーザーにホスティングサービスする事業を始めた企業。もう1つは、インターネット上で提供するアプリケーションを新たに開発した企業だった」(ネルソンCEO)
ちなみに、当時の社名は「ネットレジャー」。同社の設立の2週間後に設立したのがsalesforce.comで、両社にはOracleのラリー・エリソンCEOが出資した企業であるという共通点を持っていた。
ネルソンCEOは、同じASPサービスを開始した2通りの企業について、次のように説明する。
「今から考えると、既存アプリケーションをネット経由で提供するというやり方は、間違ったものだったといえる。クライアント/サーバー用のシステムとて開発された既存アプリケーションは、ネット経由で提供するために設計されていない。ASPによって、アプリケーション管理に関するコストが削減できるとユーザー側は期待したものの、実際にはクライアント/サーバーシステム以上のコストがかかるようになってしまったからだ」
しかも追い打ちをかけるように、ASP事業を展開する企業に、株式市場の悪化という荒波が襲う。
「ASP事業を展開していた企業の多くがこのタイミングでつぶれていった。株を公開していなかった場合でも、資金繰りが一斉に苦しくなっていったためだ。結局、残ったのは当社とsalesforce.comくらいのものだった」
こうして現在、SaaS企業の代表企業はsalesforce.com、NetSuiteとなった。
しかし、最近では一時期、看板をおろしていた企業が、投資家から新たな投資を得て事業を復活させているという。
■ カスタマイズ対応でのマルチテナントシステムの開発には多くの時間が必要
つまり、2000年から2002年の市況の悪化に伴い、ASP企業の多くがつぶれていって、SaaSという新しいことばに生まれ変わった。
この生まれ変わりと共に、「構築しているアプリケーションの中身も大きく変わった」とネルソンCEOは分析する。
「つきつめて考えると、シングルテナントとマルチテナントの違い。マルチテナントは複数の企業が1つのアプリケーションを共有するモデルで、これを実現したアプリケーションこそネット経由で提供するのに適したものとなっている。なぜなら、アプリケーション利用コストの削減を実現できるのが、マルチテナントならではのメリットだからだ」
マルチテナントに対応したアプリケーションであることのメリットについては、前回のsalesforce.comでも紹介した。
ネルソンCEOは、ASPからSaaSへと変化していく過程の中で、マルチテナントに対応したアプリケーションもユーザーのニーズを受けて進化していったと説明する。その象徴といえるのがカスタマイズへの対応だ。
「初期のSaaS、マルチテナントシステムに対しては、『カスタマイズが十分にできない』という否定的な見方もあった。しかし、現在のシステムは、かなりの部分をカスタマイズできる。いろいろなユーザーを獲得していくためには、いろいろなカスタマイズに対応できることが不可欠となる」
しかも、同じ企業であってもスタッフごとにソフトの見え方を変える必要もある。社長が目にする企業システムのデータと、新入社員が見るデータでは違いがあって当然だ。営業部門と経理部門など、部門ごとに中身を変える必要も出てくる。
これだけ多様な要望に応えるためには、SaaS用に新たに作られたソフトでなければ不可能だろう。
このマルチテナントに対応すれば、現在の情報システムが抱える「バージョンアップへの対応」という問題も解決する。クライアント/サーバー型のシステムの場合、バージョンアップに対応することは容易ではない。特にカスタマイズを行っている場合には、バージョンアップをしたくともできない企業も出てくる場合もある。
だが、現在のマルチテナント対応のシステムは、かなり自由度が高く、ユーザーがサービスを利用している状態でもバージョンアップを行うことが可能だ。バージョンアップによって、カスタマイズした機能が消えてしまうといったことは起こらない仕組みとなっている。
マルチテナントでありながら、ネットスイートのアプリケーションは、ひんぱんにソフトのバージョンアップを行い、年間300回程度の機能改善を実現しているという。ほぼ毎日、なんらかの機能改善を続けていることになる。
もちろん、それだけのアプリケーションを作るのは容易ではない。ネルソンCEOも、「マルチテナントでカスタマイズ可能なものを作ることに、最も時間がかかった」と振り返る。
■ マッシュアップには可能性と限界がある
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日本法人の東貴彦社長
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マルチテナントとともに、SaaSの特徴といわれる「マッシュアップ」について、ネルソンCEOにたずねると、「マッシュアップは非常に重要な機能だ。ただ、マッシュアップで実現できることと、実現できないことは、はっきりと分けて考える必要がある」とその重要性とともに限界もきちんと認識すべきと話す。
「Google Mapとの連動といったことはマッシュアップならではの代表的な機能。サービス同士の連携ができるようになったことは大きなことだ。が、マッシュアップで複雑なトランザクション処理ができると考えるのは間違いだ。在庫、受注、出荷といったトランザクション処理が必要なシステム間の連携については、マッシュアップではなく、『スイート』と呼ばれる、同じアプリケーションファミリーを使ってのシステム連携を行っていく方が正解だ」
加えてネルソンCEOは、「Googleのようにコンシューマ向けビジネスを展開している企業が、当社のような企業向けシステムの領域に進出してくるとは考えていない。もちろん、Googleが提供するサービスのいくつかは企業でも利用している。だが、会計や顧客管理といった分野についてまではGoogleが進出できるとは思えない。同じオンデマンド型のサービスといっても、企業向けのサービスを提供する企業と、コンシューマ向けサービスを提供する企業とでは、はっきりとしたすみ分けされている」ことも強調する。
NetSuiteはすでに日本にも上陸しており、この3月に日本法人をお披露目。すでにCRMについては日本語で提供されていて、2007年夏までにはERPの日本語化を完了する予定だ。
日本法人であるネットスイート株式会社の東貴彦社長は、「日本市場特有の機能がまだ実現できていないので、エンドユーザーからの反響はまだない。特に当社がターゲットとする中小企業ユーザーについては、これから開拓していく」と説明する。
ただし、当初は予測していなかったシステムインテグレーターやディーラーからの問い合わせが多数届いたそうだ。
「自社で抱えているユーザーに対して、要求する機能を実現するのがネットスイートの製品なのではないかという期待を寄せてくれたリセラーもあった。また、中小企業向けのビジネスの効率をあげていくために、当社のシステムを活用したいというディーラーからの問い合わせも受けている。自社で持っているサービスをマッシュアップで利用していきたいという事業者もあり、予想以上の反響だ」(東社長)
予想していなかったシステムインテグレーターやディーラーからの反響が、ネットスイートという企業とSaaSへの注目度の高さを如実に示している。日本においても、SaaSを利用する企業が増えてくるのは確実のようだ。
■ URL
米NetSuite
http://www.netsuite.com/
ネットスイート株式会社
http://www.netsuite.jp/
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( 三浦 優子 )
2006/10/11 00:00
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