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SaaSはASP 2.0なのか?

第二回・きっとASP-ASPブームは終わるべくして終わった


 ASPブームが起こった際に、ずいぶんたくさんの会社がASPビジネスに参入した。そういった企業は、ASPが思うように普及していかなかった状況をどのように見ていたのだろうか。

 今回紹介する株式会社きっとエイエスピー(以下、きっとASP)は、社名にASPと入っていることからもわかる通り、ASPブームの最中に誕生した企業だ。ASPの可能性を信じ、この社名にしたのかと思いきや、「ASPブームの当時から、ASPは定着はしないだろうと考えていた」という。

 ASPビジネスを推進してきた立場にあった企業が感じていた、ASPが定着できない原因とはどんなものだったのか。そして今回のSaaSはその欠点をきちんとカバーしているのだろうか。連載二回目では、ASPブームの渦中に誕生した企業から見たASPの限界と、SaaSとの違いについて聞いた。


「ASPは終わる」とブームの最中にも考えていた

松田利夫社長

田中正利専務
 「ASPとSaaSは同じものと考えていいのではないか」-きっとASPの松田利夫社長はさらりとこう答えた。

 社名に「ASP」という名前が入る同社は、日本のASPブームのまっただなかの2000年に設立。松田社長は、ASPの日本での普及と発展を目的に誕生したASPインダストリ・コンソーシアム・ジャパンの設立時の副会長をつとめた。現在は、元シトリックス・システムズ・ジャパンの社長であった田中正利氏も在籍する。

 ASPに対する思い入れも相当強いのではないかと思いきや、「ASPやSaaSはメーカーが自社のサービスをうまく伝えるためのキーワードにすぎないのではないか」と、言葉そのものが意味をもっているわけではないとの見方を示す。

 「重要なのはキーワードよりも、根底にあったソフトビジネスを変えていこうとする考え方。ただ、同じキーワードを使ってしまってはテクノロジーの違いを明確にできない。テクノロジーの違いを示すために、ASPではなく、SaaSという新しいキーワードを使う必要があったのではないか」(松田社長)

 松田社長は、「ASPを主導したのはシトリックスであり、今回のSaaSを主導するのはセールスフォース・ドットコムだ」と見ている。そして、「SaaSというキーワードが出てきたことで、ASP時代に登場したものの消えていった企業の何社かが復活しようとしている。海外の状況を見ていると、『あ、この会社はあの時の…』と思う企業が何社もある。やっていることも当時と同じ」と話す。

 ではキーワードが異なり、テクノロジーにも違いがあるASPとSaaSが同じものといえる根拠はどこにあるのか。

 「両方とも、要するにサーバーセントリック。概念は同じ物と考えていいのではないか。ただし、それを実現する環境が違っていた」というのが松田社長の見解だ。

 ASPが普及し始めた当時、シトリックスでASPビジネスの最前線にいて、現在はきっとASPの専務である田中正利氏は、「ASPがスタートした当時はネットワークインフラが不十分だった」と振り返る。

 そのことばに松田社長も、「しかも、ソフトメーカーも賛同してこなかった」と続ける。技術、インフラ、ASPに対応するアプリケーションと何も揃っていなかったのが、ASPブーム当時の実情のようだ。


山田靖二監査役
 そのため、「ASPブームのまっただなかにいても、ASPというのは3年経つと終わるだろうと当時から話していた」と同社の山田靖二監査役は明らかにした。

 それではなぜ、社名に「ASP」と入った企業を立ち上げたのか。その疑問に対し、松田社長はこう答えた。

 「Web化が必要といわれていたものの、ASPブームの際にはスクラッチからアプリケーションを作り上げたベンダは存在していなかった。現在は、セールスフォース・ドットコムのようにスクラッチからアプリケーションを作ったベンダがいるが、当時はそれがなかった。しかも、すでに活用しているレガシーの資産がたくさんあり、それをどうするのか、という問題を多くのユーザーが抱えていた。それらの中にはWeb化できるものもあれば、できないものもある。できたとしても時間がかかるので、その間のすき間というものが絶対にできる。それを埋めていくためのツールやノウハウを提供すれば、ビジネスになると考えた」

 つまり、ASPブームの時点でも自らサービスとしてアプリケーションを提供する事業者になろうとは考えていなかった。ASPを構築していく際のすき間を埋めていくことで、ビジネスが成立すると考えていたのが「きっとASP」という企業だった。ASPブームのまっただなかにいながら、ふかん的な視点でASPやSaaSの行方を見つめているのである。


サーバーセントリックとはユーザーにとって不自由なものではない

 ASPとSaaSを見比べると、SaaSを実現するにあたってはASPには欠けていた環境の整備がずいぶん進んでいるという。

 「ASPという概念が出てきた当時は、何百MBもの大容量データを使う習慣はついていたのに、それを持ち歩くことを可能とするネットワーク環境が整っていなかった。利用者側がネットワーク環境を考えて、利用するデータを容量の少ないものに限定することはできなかった。それに比べるとネットワーク環境、テクノロジーが大きく変わってきている」(松田社長)

 ネットワーク環境やテクノロジーの進化は、サーバーセントリックなシステムに大きな変化をもたらした。

 「サーバーセントリックというのは、システムを管理する企業の情報システム部門の担当者にとっては、『管理がしやすくなる』というメリットがある。ところが、それを利用するエンドユーザーにとっては自由がきかなくなり、不自由なものになるという印象があった。ASPが出てきた当時、リッチクライアントもしくはスマートクライアントに注目が集まったが、これはサーバーセントリックによる不自由さを回避するという発想があったからこそ。しかし、今回のSaaSでは、クライアント側はそれまでと何も変わらず使い続けることができる」(松田社長)

 ASPの時代には、エンドユーザーに不自由を強いる部分があったものの、SaaSではエンドユーザーは不自由なく利用できる環境が整ったという。

 「現在ではCADでもストレスなく使えるような環境となった。サーバーセントリックな環境で利用するのには向かないのは、ストリーミングくらいのもの」と松田社長は分析する。

 さらに、SaaSにはASPにはなかった新しい要素も加わった。サービス同士の連携である。このサービス同士の連携という要素は、SaaSにとって重要なポイントとなりそうだ。

 「ひとつのポータルサイトが確立し、連携すべき企業が紹介されていくと、主要なSaaSベンダというのはそこで決まってしまう可能性がある。サービス同士の連携というと、いろいろなベンダにビジネスチャンスが訪れるという印象があるが、実は逆になるのではないか。利用者が特定企業に集約してしまう傾向が出てくる予感がする」

 松田社長はASPの問題点として、「Web用に新たに作られたアプリケーションがなかった」と説明していた。SaaSにはWeb用に新たに開発されたアプリケーションが存在している。しかし、その中で選ばれるのが特定企業に集約されるのではないかという見方は、インターネットの世界でも特定企業への集中が進んでいることを考えると、うなずける見方である。



URL
  株式会社きっとエイエスピー
  http://www.kitasp.com/

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  ・ 第一回・シトリックス-アプリケーションの仮想化こそが“本当のASP”(2006/09/13)


( 三浦 優子 )
2006/09/19 23:59

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