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中小企業市場を開拓せよ!―“ITの原野”に挑むベンダーたち―

第一回・なぜ、ベンダーは中小企業を目指すのか


 2004年のITベンダーの日本市場での動向をキーワードで紹介するとすれば、「中小企業戦略の強化」をあげることができるのではないか。それくらい、「中小企業」と名前のついた戦略を発表するベンダーの数が多かったのだ。


中小企業向け施策を発表する、マイクロソフト株式会社 執行役常務 OEM営業本部 ゼネラルビジネス統括本部 東日本・西日本営業本部担当 眞柄泰利氏(11月に開催された同社の記者発表会より)
 10月から12月の期間、Enterprise Watchのニュースに掲載された、「中小企業向け」と銘打っている主なものだけを取り上げてみても・・・

10月1日 レッドハット、中小規模サーバー向けLinuxの64ビット対応版などを追加
10月22日 中小製造業のIT化を支援する「情報セキュリティ診断サービス」(NCネットワーク)
10月25日 三菱電機、中小規模向けの個人情報保護対策用アプライアンス
11月17日 日本IBM、中堅企業を支援する「シニアプロコミュニティー」を立ち上げ
11月29日 日本オラクル、SMB市場拡大に向けISV支援強化
11月29日 デル、「1けた違う価格の」中小企業向け新パッケージ

とこれだけある。

 このほかにも、米国などでは製品を出していたSAPが、日本で初めてとなる中小企業向け製品「SAP Business One」を販売開始。マイクロソフトも、ここ数年続けてきた全国IT推進計画を強化するなど、対中小企業向けの発表が相次いだのであった。


残った市場だから!各社が飛びつく

2000年~2008年国内IT投資規模と成長率(2004年~2008年は予測値)【出典:IDC Japan】

企業規模別国内IT投資シェア:2004年と2008年の比較【出典:IDC Japan】
 なぜ、2004年はこれほど中小企業市場に力を入れるメーカーが多かったのか。

 オフコン時代から中小企業向けビジネスを行ってきたNECのパートナービジネス営業事業本部長、細谷豊造氏は次のように分析する。

 「ひとつは大企業のIT導入が一巡し、中小企業市場しか成長市場はないと考えるメーカーが多かったこと。そして、国のIT向け施策が中小企業にフォーカスしたものが多かったことの2点をあげることができるのではないか」

 IDC Japanが発表した企業規模別国内IT投資動向の、2008年までの予測でも、大企業のIT投資は鈍化し、中小企業のIT投資が増加してくるとの予測が出されている。

 特に2005年以降は、不況で先延ばしされていたITによる中大規模企業の業務効率化が進んでいくとの見方が出されている。中小規模企業はハードウェアの高性能化と低価格化、政府や自治体の中小企業育成策の充実が追い風になるという。

 2008年には、従業員規模別IT投資シェアで、小規模企業11.7%、中規模企業が14.2%、中大規模企業が8.1%、大規模企業が45.5%、営利企業以外が20.5%としている。

 IDCの指摘通り、もはや日本の大企業でまったくITを未導入という企業はないといっていいだろう。財務会計、給与計算といった勘定系の業務システムはもちろんのこと、電子メールでのコミュニケーション、グループウェアによる情報共有など情報系といわれる分野まで、多くの大企業はすでに導入を済ませている。

 ところが中小企業となると状況はまったく異なる。いまだIT未導入の企業も存在するといわれている。すでに何らかのシステムを導入してはいるものの、「利用しているシステムを効果的に活用し、経営効率向上に貢献させている」という企業は案外少ない。

 ある企業では、一応、IT担当者は存在しているものの、「経理部門に入っているコンピュータと、営業部門が導入しているシステムは別々の業者によって導入されたもの。それぞれ異なるメーカーのシステムとなるため、相互の連携は出来ていない」という。

 また別な企業では、営業部門が各自のパソコンからMicrosoft Excelを使って見積書を作成するスタイルをとっている。そのため、どの営業マンがどれくらいの数の見積もりを出し、そのうちどれくらい成約しているのかは会社側では一切把握していないという。「もっと営業効率を向上させるべきではないかという意見が会社内であがってはくるものの、具体的にどう対策をとっていくべきかの答えはない」とIT担当者は苦笑いする。

 こうした実態を耳にすると、中小企業のIT活用にはまだまだ改善できる部分が多いことがわかる。

 国が中小企業のIT活用を支援策を多く打ち出しているのも、ITを導入することによって中小企業の経営状況は改善される余地があると考えているからだろう。


IT導入効果をはっきりと示すことが可能に

 さらに、ベンダーがはっきりとしたIT導入のメリットを示せるようになったことが、2004年、ITベンダーが相次いで中小企業戦略を強化した要因のひとつとなっているのではないだろうか?

 あるITベンダーのトップがこんな逸話を披露してくれた。

 「中小企業の経営者に、ITを導入すれば経営成績向上につながりますよ、リースだったら月々数万円のコストで済むんだからとセールスしたら、思いもかけない答えが返ってきた。『情報システムを導入する金があったら、得意先とゴルフに行った方がいい。ITを導入したら売り上げがどれだけあがるんだ?ゴルフだったら、一回行けば商談がひとつまとまる』というんだ。正直なところ、数年前には返すことばがなかったね。だが、今は違う。こんなことができると効果を示せる。ようやく、本格的に中小企業向け商談を行う素地が整った」

 この逸話は、多くのベンダーが中小企業向け戦略に強化した要因のひとつを示しているように思う。「接待ゴルフをするよりも、経営にプラスになるソリューションを、ITを導入することによって実現できます」胸を張って、こうアピールできる環境が整ったからこそ、各社が中小企業向け戦略をアピールしはじめたのではないか。


ベンダーごとに大きく異なるターゲット、そして戦略

日本IBM 常務執行役員 ゼネラル・ビジネス事業担当、堀田一芙氏(11月に開催された同社記者発表会より)
 ただし一口に同じ中小企業向け戦略といっても、ベンダーごとにその戦略も違えば、ターゲットも異なる。

 例えば日本IBMでは、直販部隊がカバーしていない顧客は堀田一芙常務が管轄するゼネラル・ビジネスが担当し、「中堅企業」として、パートナー経由でユーザーに製品が提供されている。

 一方、マイクロソフトが進めている全国IT推進計画では、従業員規模が数十人の小規模企業もターゲットとしている。

 販売についても、ほとんどのベンダーがシステムインテグレーターやディーラーなどを通じたチャネル販売を行っているものの、デルのように「中小企業でも直販が基本」と明言するベンダーもある。

 このように、同じ中小企業向け戦略といっても、同列には紹介しきれない、各社各様の戦略をとっていることが、中小企業向け戦略の大きな特徴といえるだろう。

 Catch The Trendでは今回から数回にわたり、主要メーカーの中小企業向け戦略について、事業を管轄するキーパーソンに取材。企業ごとにどう中小企業市場を開拓していこうとしているのかを紹介していく。これによって、日本の中小企業市場の現状が浮き彫りとなるはずである。


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  ・ 国内IT投資は中小企業を中心に増加へ-IDC調査(2004/12/01)


( 三浦 優子 )
2005/01/05 10:40

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