「サーバーの出荷台数は、ほぼ毎年、対前年比120%のペースで、業界平均を大きく上回る伸びを見せている。この要因となっているのが、中小企業市場の順調な伸張だ」―好調を続けている日本電気株式会社(以下、NEC)の中小企業施策は明確だ。ユーザーの近くにいるパートナー企業(販売店)が、中小企業市場開拓にとって最も重要であると位置づけているのだ。
この戦略に基づき、他社が販売を行う企業の支援にコストをかけなくなっていった時期でも、熱心に販売店への支援策を強化していった。その支援内容は、販売店のSE教育を代行したり、経営体質強化を行っていくなど詳細をきわめ、他社にはない大きな特徴となっている。
■ 他社が施策を強化したのは景気が回復したから
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NECのパートナービジネス営業事業本部長、細谷豊造氏
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新たに中小企業市場に参入するメーカーも多いが、オフコン時代から中小企業とのビジネスを進めていたNECでは、「中小企業市場が手つかずで残っているとは思わない」(細谷豊造パートナービジネス営業事業本部長)と指摘する。
にも関わらず、中小企業向け施策を強化するメーカーが多い理由について、「景気が上向きになったからではないか。景気が悪い時期には、市場が活気づくことがないのが中小企業市場。これまではリースが通らなかった企業でもリースが通るようになった。また、IT投資減税に代表されるように、国の施策も中小企業にフォーカスが当たっている」と分析する。
NECがこれまでも中小企業市場には力を入れてきたのは、かつてオフコンを販売し、現在に至るまで多くの中小企業ユーザーをもっている、という実績があるからである。
そして、それらの中小企業ユーザーを獲得できたのは、「販売店の存在があったからこそ」と、細谷本部長は販売を担当した会社の存在の大きさを強調する。
NECと販売店の結びつきは深い。細谷本部長のいう販売店とは、店舗を構える量販店ではなく、大塚商会のような、全国に拠点を持って訪問販売を行う事業者や、各地方に根を下ろして訪問販売を行う事業者のことを指す。最近は、「販売店」ではなく、「パートナー」と称するベンダーも多いが、「当社でも“パートナー”という呼称を使おうと思ったものの、逆に“パートナーというより、販売店と呼んで欲しい”という声があったため、以前のとおり、販売店という呼称を使っている」のだという。そのため、あえてここでも販売店という呼称を使っている。
「中小企業は数が多いので、案件の開拓やアフターフォロー、サポートをNEC自身でカバーするのは難しい。そういった業務を担当してくれる販売店の存在なしには、中小企業市場開拓は進んでいかない」(細谷本部長)
販売店を通してユーザーに商品を届けていくことで、サービスやサポートといった部分までユーザーに提供していくことができる。そのためNECでは、「販売店は当社にとっては、チャネルのひとつではあるものの、その役割は当社の社員と同じであるという認識を持っている」という。
だが、まったく資本関係もない販売店まで含めて、「社員と同じ」という感覚でビジネスを進めていくためには、販売店にもNECと同等以上の実力が必要ということになる。
そのためにNECでは、販売店のSEなどに対する技術面での人材育成、さらには販売店の幹部向けのコンサルティングなどを行い、販売店のスキルアップを支援している。
例えば販売店教育のために実施しているeラーニングは、1500講座に及ぶ。
「ITSS(ITスキル・スタンダード)がもっと定着していけば、『ユーザーが販売店に対してお宅のレベルはどれくらいなのか?』と質問をしてくるようになるだろう。そういう時代になっても対応できるよう、販売店のさらなるレベルアップが必要となる。それをNECとしても支援していく。ここまで踏み込んでいかなければ、販売店と協力して中小企業市場を開拓していくことが実現できるはずがない。販売店には、ユーザーのビジネスがどうしたらうまくいくのか、といったことまで提案できる能力を持っててもらうよう、ベンダーとしても支援をしていかなければならない」(細谷本部長)
■ Webでの製品販売でも販売店との連携にこだわり
ITによって経営効率を上げていくために、ユーザーを支援する一環として、全国各地のITコーディネーターとの連動も積極的に進めている。
ITコーディネーターやIT経営応援隊は、「ITによって中小企業の経営強化をはかる」ために国が進めている資格制度だが、細谷本部長は「国の施策には重要なポイントがひとつ欠けている」と指摘する。
そのポイントとは、「経営者をうまく攻略するという視点」だという。
中小企業がサーバーを導入し、経営効率向上のためにITを活用していこうとすれば、経営者の理解が不可欠であり、「そういった際に相談に乗り、ユーザーの手足となってサポートできるのはユーザーに密着した販売店だ」というのが細谷本部長の考えだ。
とはいえ、最近ではデルをはじめとする直販メーカーが価格を前面に出したパソコン、サーバーを提供するなど、中小企業市場といえども従来のチャネル販売にはおさまらない形態も増えてきている。これに対し細谷本部長は、「プラットフォームビジネスという切り口でもマーケティングを行っていく」という対策をとる。
細谷本部長のいうプラットフォームビジネスとは、サービス、サポートまで含めたソリューションではなく、ハードウェア中心に市場を見たもので、「お客さんがこのハードが欲しいという時にすぐに購入できるような商品」を指す。具体的には、サーバーでは「Gシリーズ」、パソコンでは「Jシリーズ」という型番がついた製品。
これらの製品はWebで購入できるが、NECが直販という形態で販売するだけでなく、販売店のWebを通して購入することができる仕組みも用意した。「GCB(グッド・カスタマー・ベース)」の名称でNECが作成したWebは、内部はNECが構築しているものの、表面にはNECが現れず、地域の販売店の名称で販売できる仕組み。NECにとっても外資系メーカーなどに対抗できるメリットがあるうえ、販売店にとっても自分のエリアにいる新規顧客と出会うことができる接点になる。
あくまで、販売店との連携にこだわるのがNECのやり方だ。
■ ネットワーク系販売店とコンピュータ系販売店のアライアンスも
またNECでは、IP電話に代表されるネットワークとコンピュータの融合型ソリューションが増えていることから、ネットワーク製品を販売していた販売店と、コンピュータを販売していた販売店とのアライアンスの推進を進めている。
これは、「複合型ソリューションは、1社だけでは提供できない時代となった」ことから進めているもの。ただし、自発的に販売店同士のアライアンスが生まれるケースが少ないため、大阪地区では製造業のユーザーをピックアップし、4社の販売店がそこに対して共同提案をするという取り組みを実施。販売店同士がアライアンスを進めるためのノウハウを構築し、それを全国的に広めていこうとしている。
「NECとしては、ただ販売店に頑張れと支援するだけでなく、実際にビジネスが派生していくようなインフラをどれだけ構築するのかが大きな鍵となる」(細谷本部長)という。
こうした施策についてNECでは、「思いつきで中小企業市場を攻めるのではなく、ずっと地道に進めてきた。他社が中小企業市場には力を入れなくなったという時代が来ても、ずっとやり続けていくことがNECとしての主張だ」と今後も継続的に中小企業向け施策を進めていく。
■ URL
日本電気株式会社
http://www.nec.co.jp/
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( 三浦 優子 )
2005/01/26 00:00
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