SaaS型無料グループウェア「GRIDY」を基盤に加速-ブランドダイアログのクラウド戦略
企業のITシステムを変革させる技術として、「クラウドコンピューティング」への注目が集まっている。その中で、ブランドダイアログ株式会社では、独自のグリッド技術を活用し、中小企業向けに、グループウェアを中心としたクラウドソリューション「GRIDY(グリッディ)」を無料で提供している。今回、「GRIDY」を基盤とした従量課金制のSaaS型業務アプリケーション「Knowledge Suite(ナレッジスイート)」の新機能として「CRM」と「CENTER」を公開。また、有料版の「GRIDYグループウェア」向けに、「GRIDY Office powered by KINGSOFT」を無料提供する計画も発表された。「GRIDY」を基盤として、意欲的に事業拡大を進める同社のクラウド戦略を紹介する。
■グループウェアを無料で提供できるビジネスモデルとは?
常務取締役 コンサルティング本部 本部長の柳沢貴志氏 |
最初の製品となる「GRIDYグループウェア」は、導入無料、月額無料、ユーザー無制限で利用できるSaaS型アプリケーションとして、2009年2月に正式リリースされた。“無料”と聞くと、機能制限があったり、期間限定で提供されたりするイメージが強いが、「GRIDY」では、そうした制限は一切ない。社内の業務効率化、情報共有の徹底、スケジュール管理など、グループウェアに求められる要素をすべてカバーする23の機能を搭載している。
では、これだけ充実した機能を備えたグループウェアを完全無料で提供できるのは、なぜなのだろうか。また、同社にとってのメリットはどこにあるのだろうか。
「当社では、以前から独自のグリッド技術として『Promotional GRID』の開発を進めています。この技術は、企業が保有しているクライアントPCの、使われていないCPU能力や余剰HDD、いわゆる“遊休資源”を、インターネットを通じて集約し、仮想スーパーコンピュータを構築するもの。これまでグリッド技術は、科学技術にかかわる大規模演算処理など社会的な用途に使われていましたが、この技術をビジネスに応用できないかと考えて生まれたのが『GRIDY』のビジネスモデルです」と説明するのは、同社 常務取締役 コンサルティング本部 本部長の柳沢貴志氏。
具体的には、中小企業にSaaS型クラウド・グループウェア「GRIDYグループウェア」を無料で提供する代わりに、各クライアントPCに「GRIDYクライアント」をインストールしてもらう。そして、「グリッド技術でインターネット越しに“遊休資源”を集約して仮想スーパーコンピュータを構築し、その能力を企業や研究所に有償で貸し出す」というのが、同社の目指す最終的なビジネスモデルだ。
グリッドコンピューティングとは? | GRIDYを支える仕組み |
柳沢氏は、「このビジネスモデルを実現するためには、安定的に“遊休資源”を集めなくてはいけない。そこで着目したのがグループウェアです。さまざまなビジネスアプリケーションがある中で、グループウェアは業務の基盤となるため、電源の入っているPCから確実に“遊休資源”を得ることができます。また、日本企業の97%が中小企業で占められることから、ここに眠る膨大な“遊休資源”を短期間で集約するために、中小企業をターゲットに高機能グループウェアを無料提供することを決断しました」と、その狙いを説明している。
「GRIDY」の正式リリースから1年半弱が経過した現在、導入実績は6500社を突破し、仮想スーパーコンピュータとして集約された“遊休資源”は、ストレージ領域としては100TB以上に達しているという。しかし、「現段階では、まだ有償として貸し出せるだけの安定的な“遊休資源”は確保できていません。年内には、仮想スーパーコンピュータのAPIを公開する予定で、アプリケーションベンダーと協業して、BIソリューションやテレビ会議システムなど、仮想スーパーコンピュータの能力を活用したアプリケーションを開発し、2011年中には、有償貸し出しビジネスを立ち上げたいのですが」と、柳沢氏は話す。
■従量課金制のSaaS型業務アプリケーションを順次公開
有償貸し出しビジネスの本格展開に先立ち、同社では、「GRIDY」で集約した“遊休資源”を活用したSaaS型業務アプリケーション「Knowledge Suite(ナレッジスイート)」を、1レコード10円という安価な従量課金制で提供している。
「Knowledge Suite」の構成要素 |
「Knowledge Suite」は、営業支援「SFA」、顧客管理「CRM」、コンタクトセンター「CENTER」、代理店管理「AGENCY」、Web販促支援「AFFILIATE」の6つのアプリケーション群で構成され、すべて「GRIDY」のプラットフォーム上で利用できる。まず第1弾として、今年1月に営業支援「SFA」を公開している。「SFA」では、企業情報および営業日報の登録を1レコードとし、見込み顧客管理、営業進ちょく管理、売り上げ管理、売り上げ予測を一元化することで、営業プロセスのナレッジベース化を支援する。
そして、5月12日には、第2弾として、顧客管理「CRM」とコンタクトセンター「CENTER」をリリース。顧客管理「CRM」は、既存顧客へのWebキャンペーンやアンケートの作成・分析・管理機能を提供し、戦略的なマーケティング活動を支援する。アンケートへの回答件数が1レコードとして課金される。コンタクトセンター「CENTER」は、Webサイトや電話、メールでの問い合わせへの対応履歴管理、エスカレーション管理機能などを提供。顧客サポート業務の効率化を実現する。問い合わせ登録数が1レコードとなる。さらに、「SFA」、「CRM」、「CENTER」は、完全連携しているため、合わせて活用することで、企業内の顧客情報を一元化し、ナレッジベース化の促進を図ることもできる。
■「GRIDY」を支える万全のセキュリティ対策
セキュリティの仕組み |
このように、「GRIDYグループウェア」と「Knowledge Suite」の組み合わせは、コスト削減および業務効率化が急務の課題となっている中小企業にとって、大きな導入メリットがあるといえよう。その一方で、導入にあたって気になるのが、「GRIDYクライアント」をインストールすることでのクライアントPCへの影響だ。この点について柳沢氏は、「GRIDYクライアントは、PC内のCPUが遊休状態かどうかを測定していまして、PCの動作に負荷をかけることはありません。借り受けるHDD容量も、全体容量の1%から最大20%の間で、ユーザーの利用環境に最適な使用率を設定できます」と説明する。
また、セキュリティ問題に関しては、管理者によるログインセキュリティの段階設定によってグループウェアへの不正アクセスを防止するほか、クライアントPCとグリッドサーバー間はVPNを介して接続し、128ビットのTLSで暗号化された通信を行う。これに加えて、独自のグリッド技術により、暗号化したデータを細切れにして分散保管するため、万が一、データが漏えいしたとしても、データの意味を解読することは不可能だ。
データの安全性についても、「国内大手IDCによる東京都23区内のデータセンターを利用し、堅牢な設備と24時間態勢での監視を行っていますので、安定稼働を実現できます。停電や災害などでクライアントPCがシャットダウンした場合も、個々の断片ファイルは複数個所に分散保存されているため、データ自体が消失する心配はありません」(柳沢氏)としている。
■有料版「GRIDY」向けにSaaS型オフィスを無料提供
このほか、同社では、「企業のセキュリティポリシー問題」や「複数のOS環境での運用」、「GRIDYクライアントのインストールが不可能」、「資源提供が困難」といった理由によって、「GRIDYグループウェア」を無料で利用できない企業に向けて、1GBにつき月額2000円で利用できる有料版も用意している。
今後は、有料版の展開にも力を注いでいく方針で、その重点施策として5月11日、今夏をめどに、有料版「GRIDY」向けにSaaS型オフィス「GRIDY Office powered by KINGSOFT」を無料提供することが発表された。
「GRIDY Office powered by KINGSOFT」は、キングソフトとの協業によって実現したもので、Microsoft Officeとの高い互換性を持つ総合オフィスソフト「KINGSOFT Office」をカスタマイズし、「GRIDY」にインテグレートした機能だ。「KINGSOFT Office」と同等の機能を利用することができ、「GRIDY」が集約した“遊休資源”を活用してデータ保存を行うことが特徴となっている。
代表取締役社長兼CEOの稲葉雄一氏 |
ブランドダイアログ代表取締役社長兼CEOの稲葉雄一氏は、「この機能によって、有料版GRIDYグループウェアのユーザーは、クライアントPCにMicrosoft Officeがインストールされていない状態でも、GRIDYのプラットフォーム上から、WordやExcel、PowerPointのファイルを閲覧、編集、保存することが可能となる。例えば、ネットカフェや出張先のホテルなどでも、GRIDYを通じて、オフィスソフトを使った業務を進めることができる」と、ユーザーのメリットを説明する。
「これまでも、オフィスソフトのSaaS化は話題になっていたが、ビジネスモデルの変革が必要であるため、まだどのベンダーも実現できていない。当社は、GRIDYという完全クラウド型のビジネスモデルを基盤とし、キングソフトと協力することで、“使いたい時に使った分だけの対価を支払う”という、真のSaaS型オフィスアプリケーションを初めて実現した。従来型のASPベンダーは、簡単にはSaaS型のビジネスモデルに移行できないだろう」(稲葉氏)と、独自のグリッド技術によってクラウドビジネスに先行して取り組んできた同社だからこそ実現した機能であることを強調した。
■「第15回 データウェアハウス&CRM EXPO」で「GRIDY」の新機能を披露
ブランドダイアログでは、5月12日から東京ビッグサイトで開催されている「第15回 データウェアハウス&CRM EXPO」に出展し、「GRIDY」および「Knowledge Suite」を体験できるデモPCをブースに設置して、来場者にその特徴を紹介している。
特に注目を集めていたのが、12日から公開された「Knowledge Suite」の新機能、顧客管理「CRM」とコンタクトセンター「CENTER」だ。「CRM」は、直感的で使いやすいインターフェイスによって、Webアンケートや問い合わせフォームを誰でも簡単に作成できるのが特徴。「CENTER」は、問い合わせを受けた際、その内容を登録できるだけでなく、誰がいつ、どのような手段でどう応対したのか、そして結果までの全過程を記録し、問い合わせ履歴を一元管理することができる。
ブースのデモPCでは、「GRIDY」のグループウェア機能をベースに「SFA」、「CRM」、「CENTER」のデータが共有化され、完全に連携して動作する様子を実際に体験することができた。また、あわせて、現在開発中の代理店管理「AGENCY」、Web販促支援「AFFILIATE」のデモ版も公開されており、「Knowledge Suite」の6つの機能がすべてそろった姿が披露されている。
さらに、11日に発表されたばかりの「GRIDY Office powered by KINGSOFT」についてもデモPCの「GRIDY」環境で先行公開していた。画面上に設置されたアイコンをワンクリックするだけで、素早く「KINGSOFT Office」が起動し、文書作成や表計算、プレゼンテーションの各ツールを便利に使えることが体験できた。
なお、ブースでは、来場者向けのプレゼンテーションを30分おきに実施。「Knowledge Suite」、「グリッドテクノロジー」、「GRIDY Office powered by KINGSOFT」の3つのテーマで3日間に全28回のプレゼンテーションが行われ、多くの来場者に「GRIDY」が実現する真のSaaS型アプリケーションのメリットをアピールしていた。
このイベントは、14日まで開催されており、今日、明日はまだ体験が可能だ。興味を持たれた方は、会場に足を運んで体験してみてはいかがだろうか。
ブランドダイアログの出展しているブースの様子。キングソフトによる「GRIDY Office powered by KINGSOFT」のプレゼンテーションも行われており、注目を集めていた | |
ブース内には、多数のデモ機が用意されており、新たに提供開始されたばかりの「CRM」「CENTER」の体験や、今後提供予定の「AGENCY」「AFFILIATE」「GRIDY Office powered by KINGSOFT」のコンセプトデモなどを見ることができる |
「GRIDY Office powered by KINGSOFT」のデモ画面。ソフトウェアのストリーミング技術を用いて、配信が行われる予定という | 本日より提供を開始した「CRM」「CENTER」も体験可能。こちらは「CRM」のデモ画面だ |
「AGENCY」「AFFILIATE」のデモコーナー | 「AGENCY」のデモ画面。これらの機能はまだ一般提供が行われていないため、会場でのみ見ることができる |
2010/5/13/ 00:00