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ブレードサーバー戦略を探れ -メーカーは何を目指すのか-

第一回・サン・マイクロシステムズ 将来を見据えた戦略を準備


 2002年あたりから、サーバーベンダー各社からブレードサーバーが発売されている。これまでにない小さなサイズと、グリッドコンピューティングでの利用といった新しいテクノロジーとして大きな注目を集めたが、2004年になってブレードサーバーを基幹システムで利用するといった新たな活用方法が提案されるようになった。特に注目すべきは、企業ごとに製品の特徴も異なり、ターゲットとする市場も違っている点である。サン・マイクロシステムズ(以下、サン)や日本IBMのように、RISCチップを搭載したものはともかく、同じx86系CPUを搭載した製品同士を比較しても、ほかのサーバー製品とは異なり、メーカー独自色が濃い。

 今回の連載では、各メーカーのブレードサーバー戦略を取材し、メーカーごとに特性が異なっている事情を追っていくと共に、ブレードサーバーが企業システムの中でどのように活用され、今後どう進展していくのかを明らかにしていきたい。

 連載の第1回では、自社CPUとOSを搭載することで、他社にはない製品特徴をもっているサンのブレードサーバー戦略について聞いた。


用途はフロントエンドサーバーに限定

プロダクト&ソリューション・マーケティング本部 ハードウェア製品 Edge&Volume System担当 野瀬 昭良 主幹部長
 「当社のブレードサーバー戦略は非常にシンプルなものとなっている。サーバーの3層構造の中で、ティアワンもしくはティアゼロと呼ばれるデータセンターのフロントエンド部分を担うのがブレードサーバーだ」

 サンのプロダクト&ソリューション・マーケティング本部 ハードウェア製品 Edge&Volume System担当・野瀬昭良・主幹部長は明確にこう答える。

 ブレードサーバーを3層構造のシステムのフロントエンドで利用するという方針は、2003年2月に最初のブレードサーバー「Sun Fire B100s」を発表した時点からまったく変わっていない。

 ただし、野瀬主幹部長の「データセンター」とは、いわゆるインターネットデータセンターだけを指しているのではない。企業内でサーバーを統括している場合もデータセンターであるとしている。企業内であってもサーバーをまとめて管理していく場合、「電源容量、管理性、運用性といったものに長けていることが必要になる。その際に最適なものを提供していくというのが当社の考え方」だという。

 ブレードサーバーはフロントエンド用として利用するのが最適というだけに、「メーカーによってはブレードサーバーを、グリッドコンピューティングのノードのひとつとしてアピールし、科学技術計算用に適しているとするところもあるが、当社ではそれは違うと考えている。なぜなら、ブレードサーバーで利用しているCPUは必ずしも最速のものではない。ブレードサーバーは、計算の速さが要求される科学技術計算に適した計算処理能力に優れたものではないので、科学技術計算用には適さないと考えている」とブレードの用途としてよくあげられた科学技術計算は最適ではないと指摘する。

 つまり、「サーバーは、適材適所に利用していくのが最適と考えているわけで、ブレードサーバーはフロントエンド用途が最適なのではないか」と主張しているのである。


ブレード用に開発された新CPUであるNiagara

 フロントエンドでの利用が最適というだけに、サンはフロントエンドサーバーの利用に大きな展望をもっている。

 まず、サンがかねてより主張しているネットワークコンピューティング「N1」において、フロントエンドサーバーが大きな役割を担うことになるという点がひとつ。

 そしてもうひとつ、将来展望として、「データ量が増大し、フロントエンドサーバーが処理するデータ量が膨大なものとなる時代となれば、フロントエンドサーバーの役割が劇的に変化する」という、将来のロードマップである。

 データ量の増大とは、「今後、劇的にデータ量が増大することになるのがRFIDタグが利用されるようになった時点。無線ICチップが活用されることになれば、データ量は現在とはけた違いに増えることになるだろう。そうなると、フロントエンドサーバーが処理しなければならないデータの量も爆発的に増大する」と野瀬主幹部長は指摘する。

 すでに米国では、流通大手ウォールマートがRFIDの利用を表明するなどRFIDへの注目度が高まっているが、日本でも多くの実証実験がスタートしており、数年後には実用レベルとなっていくことは間違いない。

 サンではそれを見越して、「Niagara(ナイアガラ)」の開発コードネームで新しいプロセッサの開発を進めている。現時点では2006年初頭に製品版が登場するという見通しとなっているこのプロセッサ、従来のプロセッサとは大きく異なる機能をもつ。

 「スループット」と「マルチスレッディング」に重きを置き、同時に4つのスレッドを扱えるチップコアを8つ使用。計算能力ではなく、同時に処理できるスレッド数を増やす設計となっている。

 「これは、まさにRFIDのように、データ量が膨大になる時代を想定して開発されているもの。ほかのCPUベンダーにはない発想の製品であり、この時点になればまさに敵なしという状況となる」とすでに将来に向けた布石を打っていることにサンでは大きな自信を見せている。


サーバー単品ではなく、「プラットフォーム」をアピール

Sun Fire B200x
 サンのブレードサーバーが他社と大きく異なるのは、用途を明確に区切り、CPU戦略に特徴をもっていることだけにはとどまらない。

 ブレードサーバー独自の製品特徴として、ブレードサーバーを単品のサーバーとしてではなく、「インテリジェントシェルフ」、プロキシ、ロードバランシングなど「スペシャリティ・ブレード」と呼ぶ製品群とセットにした、「ブレードプラットフォーム」としてアピールしている点をあげることができる。

 最初の製品を発表した時点でも、Sun Fire B100sだけでなく、サーバーブレードを装着するインテリジェントシェルフ「Sun Fire B1600」、ブレードサーバー用ストレージ「Sun StorEdge 3310 NAS」などトータルで、「ブレードプラットフォーム」としてアピール。その方針は現在に至るまで変わらない。今年発売になったデュアルプロセッサの「Sun Fire B200x」についても、「ブレードプラットフォームに新しい製品が加わった」と紹介しているのだ。

 さらに、OSとして64ビットSPARC/Solarisアーキテクチャと、LinuxまたはSolarisオペレーティングシステムが動作する32ビット/x86アーキテクチャを自由に組み合わせて利用することが可能だ。

 「CPUというよりは、OSを選択し、その結果、CPUの選択となるケースが多い。現在ではx86系CPUを選択したとしても、Solarisを動かすことができる。他社の製品は利用できるOSが限られてしまうが、当社の場合はSolarisも選択肢に加えることができる。利用したいミドルウェアがある場合など、他社に比べて大きなイニシアチブになる」と野瀬主幹部長は指摘する。


ビジネスの開花は少し先に

 現状のブレードサーバービジネスについては、「米国に比べて、日本での立ち上がりは遅いのではないか」という。ブレードサーバーの活用が増加していくのは、「まだ今年ではない。やはり、フロントエンドサーバーの役割が増加した時点ではないのか」というのがサンの分析である。

 そこで今年度については、「将来のビジネスを拡大するための、準備期間」と位置づける。明確な将来へのロードマップがあるだけに、「将来のビジネス拡大には自信がある」と話している。



URL
  サン・マイクロシステムズ株式会社
  http://jp.sun.com/


( 三浦 優子 )
2004/05/26 00:00

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