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Windows vs Linux -マイクロソフトのキャンペーンは成功するか?-

第一回・マイクロソフト -「事実に基づいた比較を」と訴えるマイクロソフト


 マイクロソフトでは、2月から、WindowsとLinuxという2つのサーバーOSを企業システムとして利用する場合、「Facts(事実)」に基づいた客観的な判断基準を提供する「Get the Facts(事実を語る)」理解促進キャンペーンを展開している。ワールドワイドで展開されているこのキャンペーンでは、マイクロソフトが一方的にLinuxを糾弾することが狙いではなく、「雰囲気や思いこみで両プラットフォームを比較検討するのではなく、事実に基づいた比較を行うことを訴えるのが狙い」だと、マイクロソフト側では説明する。

 果たして、WindowsとLinuxを事実に基づき、比較、検討することで見えてくるものとは何か。本連載では、マイクロソフト、Linuxソリューションを提供する日本IBM、レッドハットに取材し、両プラットフォームが目指す「現在」を浮き彫りにしたいと考えている。

 連載第1回目では、マイクロソフトにGet the Factsキャンペーンの狙いについて聞いた。なぜ、マイクロソフトではこの時期にこのキャンペーンを開始したのか。


全世界29カ国で同時にキャンペーンを展開

マイクロソフト市場戦略グループ・グループシニアマネージャー・北川 裕泰氏
 「Get the Facts」は、具体的な製品をアピールすることが狙いではなく、正確に事実をとらえることをユーザーに訴えるキャンペーンである。マイクロソフトが、WindowsとLinuxの比較を訴えるというと、一方的にLinuxを攻撃することを思い浮かべがちだが、「決して、そういうスタンスでキャンペーンをやっているわけではない」とマイクロソフト市場戦略グループ・北川裕泰・グループシニアマネージャーは説明する。

 「このキャンペーンは、ワールドワイド29カ国で実施している。Linuxの普及状況は国によって異なり、日本は比較的Linuxの浸透度は低い方だと認識している。そういう国別の状況はあるものの、我々が訴えたいのは、きちんとしたデータに基づいた比較をした上でどのプラットフォームを選択するのか決定して欲しいということ。『Linuxは無料で手に入れることができるのでトータルコストも安価ですむだろう』といった思いこみで、システム導入するべきではないということを訴えるのがキャンペーンの目的」

 ユーザーが冷静な比較の結果、Linuxの方にメリットがあると判断しているのであれば、「まだ、あきらめがつく。ところが、比較せず、雰囲気でLinuxの方が安く、セキュリティも高く、信頼性もあると思いこんでいるユーザーが多い」と、実際は比較をせずにLinuxを選択するユーザーが多い状況にくさびを打ち込むのが、今回のキャンペーンの狙いだという。

 裏を返せば、WindowsはLinuxに比べコストも割高で、信頼性、セキュリティも低いと思いこんでいるユーザーも多く、「思いこみではなく、事実を認識して欲しい」とマイクロソフトはアピールしているわけだ。


比較ポイントは、「初期コスト」「信頼性」「セキュリティ」の3点

 そして、比較して欲しい事実として、(1)初期コスト、(2)信頼性、(3)セキュリティの3点をあげる。

 (1)の初期コストについては、「Linuxは無料ということで、初期コストが安いからという点を選択理由としてあげているユーザーが多い。だが、初期コストだけでなく、運用、アプリケーション開発といった点まで含めたコストを比較しなければ、本当の意味でのコスト比較はできない。調査会社のIDCの発表資料によれば、5つのワークロードでWindowsとLinuxを比較したところ、4点までWindowsに軍配があがった。さらに、そこでは示されていない複雑なアプリケーション開発における人件費、開発費まで含めて比較しなければ、真のコスト優位性を計ることはできない」と、説明する。

 ただし、こうした比較は、マイクロソフト自身の口からアピールしても説得力に欠ける面がある。また、ケーススタディによって、結果は大きく異なってくるため、「調査会社が発表した、いくつものパターンのケーススタディによる比較を出していく」計画だ。

 (2)の信頼性だが、「Linuxはオープンソースだから、信頼性が高いという言い方をする人がいるが、これも事実による比較ではない」というのがマイクロソフトの主張だ。

 「Linuxも、バージョンがあがるごとにソースコードの数も増え、複雑さを増している。オープンでみんなが見ているから、きれいなソースコードで出来上がっているわけではなく、プロがきちんと評価すれば、いいコードと悪いコードの両方が含まれているのが真実ではないか」(北川シニアマネージャ)

 また、Windows自身の信頼性についても、「Windowsは信頼性が低いので、ハイエンドエンタープライズシステムには採用できないという指摘がある。しかし、導入事例を見ると、例えばエンタープライズアプリケーションメーカーの代表であるSAPでは、すでにWindowsの利用割合がUNIXを上回っている。実際の導入事例を見てもらえば、信頼性が低いというのは、過去のものだということが理解してもらえるはず」

 Windowsのソースコードは複雑で、メンテナンスが難しいという指摘に対しては、「データでそれも事実とは異なるということを訴えていきたい」という。

 (3)のセキュリティについてだが、「専門機関が出している警告の数を見ると、WindowsよりもUNIX、Linuxの方が実際には多い。だが、Windowsは1回あたりのセキュリティ被害が大きいため、その印象が強いのだろう。だが、もちろん、こういう主張をすることは誤ったことだと考えている。セキュリティに対しては、技術面、マーケティング的な施策などトータルに対応していくのが当社としての姿勢。ただ、事実で比較すれば、Windowsだけが一方的にセキュリティが低いという認識だけ、あらためてもらいたい」と自らの弱点を認めながらも、この点についても冷静な比較はなされていないと主張する。


パートナービジネス支援もキャンペーンの目的

 実はマイクロソフトでは、「Get the Facts」キャンペーン以外にも、セキュリティ、Windowsの管理のしやすさをアピールするキャンペーンを実施。あらためて、Windowsの強みを訴えている。

 北川シニアマネージャは、その狙いを次のように説明する。

 「マイクロソフトにとって最大の強みは、長年培ってきた、システムインテグレーター、ディーラー、ソフトメーカー、ハードメーカーなどパートナーと連動し、ビジネスを展開できる点にあると考えている。それに対し、Linuxはパートナービジネスはまだまだ活性化していない。この点では、当社に強みがあると考えているが、強みがあるがゆえに、しいてアピールをしてこなかったため、パートナー側のビジネス支援が手薄になってしまった面があるのではないか。今回、改めて強みをアピールすることで、パートナービジネスを支援したい」

 マイクロソフトがWindowsの強みとしてあげるのが、TCOの低さや、対応アプリケーション、エンジニアの多さである。

 「今回のキャンペーンでは、こうしたITプロフェッショナル向けにWindowsの強みをアピールしていくと共に、新聞やビジネス紙でも広告展開を行い、経営層に対してもWindowsの良さを理解してもらいたい」という。


Windows対Linuxの新たな戦いは始まるのか

 このキャンペーンを展開した結果、「ベンチマークを徹底して行ったユーザーが、結果としてLinuxを選択するのであれば、それはそれでかまわない」と北川シニアマネージャは話す。

 「もし、比較検討した結果、Windowsの方に弱点があるとユーザーから指摘されれば、それを今後の改善ポイントとしていくことができる。だが、雰囲気だけで選択されてしまったら、改善することすらできない。それでは、よい意味での競争は生まれない。こうした状況を打開するために、『事実を認識してください』と訴えるのが、今回のキャンペーンの狙い」

 マイクロソフトとしては、「事実」という新しい土俵で、Linuxとの競争を始めようとしているわけである。



URL
  マイクロソフト株式会社
  http://www.microsoft.com/japan/
  Get the Facts
  http://www.microsoft.com/japan/mscorp/facts/default.asp


( 三浦 優子 )
2004/03/17 10:16

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