日本IBMは、インテルのCPUを搭載したxSeriesを販売し、Itaniumファミリーを搭載したサーバー製品も販売しているが、AMDの64ビットプロセッサOpteronを搭載した「IBM eServer 325」も販売している。日本ではOpteronを搭載したサーバーを発売するベンダーの数はまだ少ないが、「Opteronは戦略商品」だと日本IBMのIAサーバー&PWS事業部 製品企画・北原祐司担当は話す。Opteronが戦略商品となるのはどんな場面なのか。北原担当に日本IBMのOpteron販売戦略について聞いた。
■ 「他のサーバーでは当たり前」と互換性を高く評価
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IAサーバー&PWS事業部 製品企画・北原祐司担当
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「64ビットというと、『ついに、64ビットが登場したのか』と思う人も多いかもしれないが、IBMがもっているzSeries、iSeries、pSeriesのいずれもとっくに64ビット化されており、x86アーキテクチャのサーバーが64ビット化されたのは、むしろ遅いくらい。サーバー全般と比較すれば、『ついに』ではなく、『やっと64ビット化された』ということになるのでは」と日本IBMのIAサーバー&PWS事業部 製品企画・北原祐司担当は指摘する。
そしてIBMのサーバーラインアップにおいては、「互換性のないマイグレーションはこれまでのIBM製品にはなかったこと。インテルのCPUが載ったxSeriesで初めてコンパチマイグレーションができないものが出てきたことになる」とも指摘する。
IBMではインテルのCPU、AMDのCPUの両方を採用しているわけだが、インテルのCPUにコンパチビリティがないのに対し、AMDのOpteronにはコンパチビリティがあることを比較し、「IBMとしてはOpteronが32ビットとの互換性をもっていることを高く評価しており、戦略的な商品と位置づけている」ことを明らかにする。
コンパチビリティをもっていることが、大きなイニシアチブとなるというのは、エンタープライズ領域では、ソフトは企業ごとにオリジナルのものが使われているケースが少なくないためだという。
「ハードに比べ、ソフトの方が長期間使われる場合が多い。ハードとソフトを同時に置き換えるというケースは少なく、ハードは新しいものに切り替えても、ソフトは従来のまま同じものを使い続けることが一般的だ。その実情を考えると、サーバーを入れ替えるから従来使っていたソフトは使うことができませんよといってもお客さんには通用しない。理論上は、32ビット用アプリケーションのソースコードすべてを、64ビット用にコンパイルすればいいのではないかということになるが、長年使っているうちにさまざまな修正が入っていることもあって、ソースコードすべてをコンパイルしても同じプログラムは生まれてこない。それを考えると、互換性がないハードウェアを導入してもらうことができるのは、ソフトとハードのリプレースを同時にやる特別なケースのみということになる」
北原担当のこの発言を聞くと、64ビットのx86アーキテクチャのサーバー製品が登場して時間は経っているのに、実際の導入が思うように増えていかない理由のひとつが理解できる。
余談ではあるが、ソフトとハードの同時リプレースが難しいという現状から、Itaniumを販売する際にはあらかじめ、利用するソフトを限定してしまう場合が多いという。
「データベースを動かすサーバーであれば、リプレースをするといってもそう大きなトラブルが起こりにくい。具体的な例をあげれば、利用するソフトがオラクルのデータベース、ベリタスのバックアップソフトとクラスターソフトといった組み合わせであれば、ソフトとハードを同時にリプレースし、動くOSをSolarisからLinuxに変えるといった場合でも問題は起こりにくい」
■ あえて用途を絞り最初はHPCから売り込み開始
戦略商品というOpteron搭載サーバー「eServer 325」だが、7月31日の製品発表時点では、「グリッドや大規模な科学技術計算向けに販売」とハイパフォーマンスコンピューティング(HPC)領域に用途を絞り込んでアピールしていた。これは、独立行政法人産業技術総合研究所のクラスターシステムとして、eServer 325が1058台、プロセッサ数で2116個を中核とする、世界最大のLinuxによるスーパーコンピュータの導入を決定するといったトピックがあったこともひとつの要因だろうが、「なんでもできるというメッセージを打ち出すと、逆に受け入れられにくくなる」という判断が働いたためだという。
さらに、Opteronの特徴を生かす意味でも、HPCが適している。「処理速度で比較すれば、ItaniumよりOpteronの方が速い。eServer 325は、HPC領域で大きな強みを発揮する」
一方、HPC以外のマーケットについては、「一般的なビジネス用途においても、eServer 325の需要は十分にある」と言いながら、用途を限定しなければならない場合がある。
それは、「最近増加しているのが、従来もx86アーキテクチャを利用しているユーザーが、データの増大等にともなってシステムのスケールアップを行う案件。現在のところ、Opteronには1Way、2Way、4から8Wayの3シリーズがあるが、主流は2Way。一方、Itaniumには16Wayもある。2Way対2Wayで比較すればAMDに軍配があがると考えるが、2Way対16Wayとなると、当然のことながら16Wayに軍配があがる。分散していたERPシステムを統合するといった場合には、パフォーマンスから考えてItaniumを選択するということになる」ためだ。
Itaniumは32ビットと64ビットで互換性がないために、利用するソフトを限定して動くという制限があり、Opteronはデータ容量が大きいERPのようなものを利用する場合には勧めにくいという制限があるわけだが、今後Opteronに16Way対応のものが登場するようになれば、この問題は解決されることになる。その意味で、Opteronが互換性の強みをフルに発揮していくのは、16Wayのものが登場してからといのが正解かもしれない。
■ 「サンとAMDの提携はIBMにプラス」と指摘
ビジネス用途でいえば、「今、最も活気づいている」と北原担当が話すのが、UNIXサーバーをx86アーキテクチャのサーバーに置き換えるビジネスだ。ハードウェアコストの削減という目に見える効果を生むだけに、市場が活気づいているわけだが、先頃発表になったAMDとサン・マイクロシステムズとの提携は、UNIXサーバーの置き換えビジネスにどんな影響を及ぼすのだろう。
これに対し北原担当は、「IBMのハードウェア事業にとっては、ビジネスチャンスが拡大したと考えている」と答える。そして、「極端にいえば、客先でどんなOSが搭載されたとしてもハードウェアがIBM製のものであればかまわない。つまり、サンのユーザーをIBM製ハードでリプレースしていく大きなチャンスができたのだと考えている」と続ける。
Solarisが動くIBM製ハードをユーザーが動かしてもかまわないというのは、かなり思い切った発想だが、真剣にサンのハードウェアをリプレースするというつもりであれば、これほど効果的な組み合わせはないともいえる。
しかも、「IBMとサンの日本でのビジネスを見てもらえばわかるが、IBMの方が圧倒的に一緒にビジネスをするシステムインテグレーター、ISVといったパートナーの数が多い。サンと当社が競合する場面では、パートナーの数が多い当社が優位になると考えている」と今後の実ビジネスまですでにイメージされている。
「Opteron搭載機は戦略商品」ということばが、対サンという場面にも当てはまってくる。
■ URL
日本アイ・ビー・エム株式会社
http://www.ibm.com/jp/
( 三浦 優子 )
2003/12/17 00:00
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