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上意下達の仕組みを国民主体に変える電子政府

~電子政府・電子自治体戦略会議 基調講演

 8月2・3日の2日間、日本経済新聞社の主催で行われている「電子政府・電子自治体戦略会議」において、「電子政府・電子自治体が創造する日本の未来」と題して総務大臣政務官の世耕弘成氏が基調講演を行った。


総務大臣 麻生太郎氏
 講演に先立って挨拶を行った総務大臣の麻生太郎氏は、日本の情報化の現状を「工業化では優等生だった日本だが、脱工業化では1周遅れた」とした。「第1次産業革命でトップを走ったイギリスは、蒸気機関から内燃機関への転換期にアメリカとドイツに遅れた」との例とともにオラクル、マイクロソフト、IBMなどの米国企業の名を挙げ、「日本がIT化に遅れたことは確か」と述べた。

 しかしいま、モバイルやユビキタスといった新しい技術により、「世の中はITからInformation&Communication Technology(ITC)に変わってきて、日本は今、もう一度チャンスを得た」とした。そして「内閣では第二次産業革命に乗れるか乗れないかの瀬戸際と認識している」と語った。

 2001年の政調会長当時のe-Japan戦略立ち上げ当時は「既得権益などの問題を含めて、なかなか前に進まなかった」との事実を認めながら、「昨年の行政手続きオンライン化法の制定を通じて、2005年までに世界でもっとも進んだ政府を目指すとの目標を確認し、進み始めてから明らかに進展した」と述べた。そして「日本には、結果として世界で一番早く安いブロードバンドのインフラが確立されている。電子政府でもこれをいかに活用できるかがこれからの課題になる」とした。

 電子政府での取り組みの現状については、「3月末までに行政手続きの96%でオンライン手続きが可能になり、電子政府基盤の整備はある程度完了したと考えている」と述べ、今後の重要政策として登記、国税、社会保険など手続き数の多いものの簡素化とワンストップサービス化を挙げた、また政府全体の業務・システムについても最適化を推進したいと述べた。

 電子自治体では2003年8月からの住基ネット本格稼働、今年1月からの公的個人認証、3月からの地方公共ネットワークの整備などにより「基盤の構築もハード面では終わり、今後はこれを利用するコンテンツが大事になってくる」とした。

 情報化への取り組みについて、地方では遅れているとの声もあるが、麻生大臣はアウトソースにより人件費を36億円削減している大阪の例を挙げ、「こうしたことをしている中央省庁はひとつもなく、小さくやりやすいために明らかに進んでいるところも多くある」とした。

 そして「ITCの進展で、長期的にはすべての所に情報技術が偏在するユビキタスネットワークが整備される。そのときには高齢者、障害者も健常者と同様の社会生活を営める社会にしていきたい」とした。麻生大臣は「将来の高齢化は避けて通れない。少なくともITCの技術の進歩の下で、活力ある高齢化社会の創造を目標にしたい」とした。


住民基本台帳カードを手にする総務大臣政務官 世耕弘成氏

e-Japan戦略のこれまでの流れ
 総務大臣政務官の世耕弘成氏は「電子政府の取り組みは計画的に進んでいる」とし、「ブロードバンドの1500万世帯以上への普及や、携帯電話からのインターネット利用など、日本では環境整備が進んでいる。問題は利用してもらえる電子政府をどう実現していくか」とした。同氏は「電子政府・電子自治体は多くの国民が触れる行政サービスなため、公平に展開される必要がある。そのためデジタルデバイドの解消も必要になる」とした。

 また電子政府・電子自治体の実現は「行政改革に寄与し、さらにこれまでの上意下達の行政サービスが住民指向に変わるきっかけになる」との期待を示した。

 e-Japan戦略は、2005年のゴールまでに“世界最先端のIT国家に”を目標として重点年次計画を決める形で2001年から開始された。最終的にはASDL3000万世帯、FTTH1000万世帯への普及が目標とされ、この面では「特にこの2年間は実りが多かった」という。

 そして開始から2年半後となる2003年7月には、e-Japan戦略IIとして見直しが加えられ、先行7分野での利活用に焦点が当てられた。電子政府・電子自治体と直接に関係する行政サービスは、この7分野に含まれている重点項目だ。現在の電子政府化への動きはここから具体化し、同時に別冊としてまとめられた「電子政府構築計画」では“国民の利便性とサービス向上”、“IT化に対応した業務改革”を2つの柱に、利用者本位のITサービスと、予算効率の高い簡素な政府が目標とされた。

 具体的には24時間365日のサービス提供、そして基本方針推進のベースとして外部の専門的知見を持った人材を前提とした情報化推進CIO補佐官の配置などの方策が行われた。そしてこれまでの1年間に、96%の手続きのオンライン化、電子政府の総合窓口となるポータル「g-Gov」の開設、中央省庁の業務システム最適化計画の策定などが行われるなど、一定の成果を挙げている。

 g-Govでは、各省庁が情報内容別に整理されているほか、法律の全文検索が行える「法令データベース」なども備えられている。また将来的にはg-Govで電子申請受付を統合するワンストップサービスの提供が視野に入れられており、自動車のワンストップサービス提供に伴う法令の改正などもすでに行われているという。

 また今後は13,000種類の申請手続きのうち、年間10万件以上申請のある230種類について、重点的に手続き簡素化・合理化が図られる。この改善の対象となるのは「年間10億5000万の申請件数の98%」となる。また申請に際してのヘルプデスク業務を行う利用支援センターも開設する予定だという。


電子政府の総合窓口ポータル「g-Gov」 e-Govで提供されるワンストップサービスのイメージ 年間申請件数10万件以上の登記、国税、社会保険のサービス手続きが簡素化される

 中央省庁のシステム改革については、「2006年3月までに最適化計画実施を各省庁に通達している」という。基本的にはレガシーシステムでなければならないもの以外はオープン化する。また給与・旅費・人事など、ばらばらに作られている各省庁システムのそれぞれに担当幹事の役所を決め、共通化して経費や業務処理時間を削減する計画となる。


中央省庁で共通機能を統合するシステム最適化のイメージ 電子政府構築へのスケジュール

 続いて同氏は、電子自治体の推進状況に触れ、3月までに整備された地方公共ネットワーク(LGWAN)について「実際の現場では、端末が接続されているだけ」でうまく利用されていない場合が多いという。また住基ネット稼動後も、個人情報漏えいへの不安感から住民基本台帳カードが普及せず、「公的個人認証インフラもうまく活用されていない」という点を問題視した。

 そして自治体のITインフラのセキュリティ対策について、「市町村がばらばらにシステムを持つとき、セキュリティを確保できるかは心配もある。またばらばらに投資するのは無駄もある」とし、「都道府県に1~2カ所のデータセンターを設置し、経理・人事などは1つのシステムに、共同アウトソースすることで、安くて安全な行政サービスを実現していく」とした。

 同氏は公的個人認証について「光ファイバーに次ぐインフラ」と語った。そしてこれを中心とした行政サービスの利用について「国と自治体をシームレスに統合し、使ってみたいと思わせるキラーコンテンツを用意したい」とした。そして「具体的には年金、社会保険のネット利用を考えている」とした。また将来的には「保険証や免許証をカードに乗り入れることも検討している」という。このほか地域通貨での活用例なども挙げた。

 同氏は最後に「上意下達の仕組みを国民主体に変えるのが電子政府の本質」とし講演を終えた


都道府県ごとに1~2カ所のデータセンターを設置する共同アウトソースの概要 地方自治体での公的個人認証サービスの概要 住基カードを活用した地域通貨のモデル図


URL
  電子政府・電子自治体戦略会議
  http://www.nikkei.co.jp/events/egov4/
  総務省
  http://www.soumu.go.jp/
  行政の情報化
  http://www.soumu.go.jp/gyoukan/kanri/
  電子政府の総合窓口「g-Gov」
  http://www.e-gov.go.jp/


( 岩崎 宰守 )
2004/08/03 00:00

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