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日本マイクロソフト、Dynamics 365とPower Platformのビジョンを解説

武蔵精密工業や神戸市など、4つの活用事例も説明

 日本マイクロソフト株式会社は8日、デジタルトランスフォーメーション(DX)に向けたビジネスアプリケーション事業戦略について、記者説明会を開催した。

 クラウドERP&CRMのDynamics 365と、データ分析やローコード開発のPower Platformについて、そのビジョンや事例が語られた。さらに、Dynamic 365とPower Platformの無償講座を2021年1月に開始することも紹介された。

日本マイクロソフト株式会社の大谷健氏(ビジネスアプリケーション事業本部 本部長、右)と綱島朝子氏(業務執行役員 ビジネスアプリケーション統括本部長、左)

データから価値を生み出していけない企業は衰退していく

 日本マイクロソフトの大谷健氏(ビジネスアプリケーション事業本部 本部長)がDXの中心とするのは、データだ。「人間がデータを入力する世界から、モノからデータが生まれる世界になってきた。そうしたビッグデータを活用し、消費者に新しい価値を提供していくのが大事なことだ。データから価値を生み出していけない企業は衰退していく」(大谷氏)。

Dynamics 365とPower Platform
データが新しい価値を生む時代に

 そのデータは、アプリケーションにひもづいてサイロ化してしまっていると大谷氏。「横断的にデータを使えないという壁があり、これを1つにしていくことが重要になっていくと考えている」(大谷氏)という。

データがアプリケーションにひもづいてサイロ化している
横断的にデータを使うことで新たな価値を生み出す

 それに対するMicrosoftの考えが、同社が近年しばしば掲げる「デジタルフィードバックループ」だ。中央に主役としてデータとインテリジェンスがあり、そのまわりに「お客様とつながる」「社員にパワーを」「業務の最適化」「製品の変革」の4つの領域のアプリケーションがある。これによって現場のアクションにつなげ、その結果がフィードバックされる。

 「これをベストオブブリードでやろうとするとうまくいかない。一方、ワンストップソリューションでは少し足りない。そこでDynamics 365とPower Platformだ」と大谷氏。Power Platformが共通データモデルとなり、Azureのアプリケーションがあり、Azureのデータを集めてAIにつなげ、AIの力でデータをフル活用できるという図式だ。

デジタルフィードバックループ
共通データモデル

クラウドアプリケーションが1つになったときがMicrosoftの真価

 ここで大谷氏は、Dynamics 365をあらためて紹介した。CRMとERPを1つのソリューションとして提供するクラウドサービスで、必要とするアプリケーションを個別に導入することも、トータルで導入することもできる。

 そのうえで「Dynamics 365のアプリケーション群だけではカバーできない」と話し、Office 365、Dynamics 365、カスタムアプリケーションを統合するローコードプラットフォームとしてPower Platformを紹介した。ビジネスプロセスを自動化する独自のアプリケーションをローコードにより自分たちで開発するハードルを下げるという。

 Power Platformは、業務分析のPower BI、アプリケーション開発のPower Apps、ワークフローやRPAのPower Automate、チャットボットのPower Virtual Agentsの4つからなる。

 そして、この4つが使うデータの器として「Microsoft Dataverse」があるほか、サードパーティーのデータを接続するデータコネクタが350以上用意されている。さらにAI Builderにより、ローコードでAIの機能をアプリケーションに盛り込める。

Dynamics 365。アプリケーション群を個別にもトータルでも導入できる
Power Platformの4つのソリューション。その下にデータがある

 こうしたDynamics 365とPower Platformだけでなく、基盤となるMicrosoft Azureや、コミュニケーションやコラボレーションの基盤であるMicrosoft 365といった、Microsoftのクラウドによるビジネスアプリケーションについて、大谷氏は「真のMicrosoftの価値は、これらのクラウドソリューションが1つになったことだと考える」と語った。

 大谷氏は「競合のソリューションは、CRMやローコードなど特定のカテゴリーで投資して、そこにつぎはぎでつけ足してきた。一見そろえているようだが、サイロ化が解決できていないとわれわれは考えている」と主張した。

 そして、Microsoftはこれからもイノベーションに積極投資していくとして、数万人以上の開発者を投入し、成果は年2回のメジャーなアップデートにしていくと説明。直近の10月期のアップデートでは480以上の真機能が追加されたと紹介した。

Microsoftのクラウドと競合のビジネスアプリケーション

Dynamics 365とPower Platformの採用事例

 続いては、Dynamics 365とPower Platformの事例を、日本マイクロソフトの綱島朝子氏(業務執行役員 ビジネスアプリケーション統括本部長)が紹介した。

 1つめの事例は、自動車部品メーカーの武蔵精密工業株式会社だ。世界中に拠点を持っており、新型コロナの世界的パンデミックの中でメキシコ工場の生産ラインを立ち上げるときに、日本のエンジニアがサポートできないことが問題になっていた。

 そこでHoloLens 2とDynamics 365 Remote AssistによるMR(Mixed Reality)を使った技術サポートを実施した。採用理由としては、MRでその場にいるようなコミュニケーション、Dynamics 365 Remote AssistやTeamsとの連携、多言語対応の3つだという。その結果、検証から2カ月で新規ラインを立ち上げた。移動費用と時間も削減したという。

武蔵精密工業株式会社の事例
HoloLens 2とDynamics 365 Remote Assistで移動費用と時間を削減(事例動画より)

 2つめの事例は半導体製造の東京エレクトロン株式会社だ。グローバル全体での業務改革が急務という課題に対して、Dynamics 365 Field Serviceを採用した。保守サービスにおいて、必要なタスクやパーツと、作業者のスキルとを確認して、その場で任命してパーツを手配できる。これにより、フィールドエンジニアの要員計画数を30%削減し、1000人の工数削減効果が得られるという。

東京エレクトロン株式会社の事例

 3つめの事例は神戸市だ。新型コロナのパンデミックにより、コールセンターに市民から健康相談や特別定額給付金について多数の問い合わせが寄せられ、電話回線が逼迫(ひっぱく)する状況となった。そこで、住民の必要な情報にアクセスできることが急務であるとして、健康相談チャットボットと、特別定額給付金の申請状況等確認サービス(住民ポータル)、統合ダッシュボードの3つを、2カ月以内という短期間でリリースした。それも、職員が自らPower Platformを学習してローコードで開発した。これにより、問い合わせが90%削減できたという。

 4つめの事例は経済産業省だ。約4万6000種類、年間48億件にのぼる、紙ベースの省内の行政手続きをデジタル化するために、Power Appsを導入し、自らがローコードプラットフォームを習得して実現した。この事例は、スピードと低コストに加えて、上記のような圧倒的なボリューム感が特徴だと綱島氏は説明した。

神戸市の事例
経済産業省の事例

Dynamic 365とPower Platformの無償講座を2021年1月開始

 最後に再び大谷氏が、Dynamic 365/Power Platform、あるいはDXやデータ化のウェビナーについて紹介した。7~11月で32本実施。大きいものでは1000人規模、のべ登録者数が1万人を超えたという。

 また、DXを阻害するIT人材不足の問題について、ビジネスアプリケーション領域における人材育成強化のため、2021年1月からDynamics 365とPower Platformの無償講座を提供開始すると語った。収容目標数は、Dynamics 365が3万6000名、Power Platformが5万1000名。さらに初級のFundamentalsについては、無償試験の特典も用意されるという。

ウェビナーの開催状況
Dynamic 365とPower Platformの無償講座を開始