効果は証明済み 国内事例が示すOracle Marketing Cloudのポテンシャル

Oracle Marketing Cloudの日本ラウンチイベントが都内で開催された

 日本オラクル株式会社は8月19日、クラウド型マーケティングプラットフォーム「Oracle Marketing Cloud」を発表。同プラットフォームの提供開始を機に、国内のデジタルマーケティング市場に本格参入する。記者発表会で、同社代表執行役社長兼CEOの杉原博茂氏は、2020年までにデータベース分野と同じようにクラウドやマーケティングソリューション市場でもナンバーワンを目指すとした。

 「Oracle Marketing Cloud」は、マーケティング・オートメーション・プラットフォームの「Oracle Eloqua」、クロスチャネル・マーケティング・プラットフォームの「Oracle Responsys」、ソーシャルメディア管理ソリューションの「Oracle Social Cloud」、データマネジメント・プラットフォームの「Oracle BlueKai」によって構成されており、すべてクラウド型サービスとして提供される。全世界では3000社を超える企業が導入しており、マーケティングツールとして高い評価を受けている。

 各製品や日本でのビジネス展開についての詳細は、以下の記事を参照していただきたい。

・オラクル、国内マーケティング市場へ「Oracle Marketing Cloud」発表
http://cloud.watch.impress.co.jp/docs/news/20140820_662718.html

 本稿では、19日に開催された「Oracle Marketing Cloud日本ラウンチイベント」から、すでに「Oracle Marketing Cloud」を導入しているマガシークとルネサス エレクトロニクスの事例紹介をレポートする。

イベントには約300人のマーケティング関係者やIT関係者が参加した

メールマーケティングで集客と売上が倍増――マガシーク

マガシーク株式会社
代表取締役社長
井上 直也 氏

 クロスチャネル・マーケティング・プラットフォームの「Oracle Responsys」の活用事例として発表を行ったのは、マガシーク株式会社 代表取締役社長 井上直也氏。伊藤忠商事の企業内起業として、2000年に総合ファッション通販サイト「マガシーク」を立ち上げたのが井上氏だ。現在マガシークは、約200万人の会員と112億円(2013年3月期)の売上規模を誇る。また、NTTドコモとの協業である通販サイトの「d fashion」も運営する。

 マガシークは、女性ファッション誌に掲載されている商品を購入できるというコンセプトを掲げてスタートし、サービス名も「マガジン(雑誌)+シーク(探す)」に由来する。しかし、2007年ごろからの雑誌販売低迷にあわせてマガシークの売上も下降した。これをきっかけに方向転換を行い、マガシーク自身がファッションの情報媒体としてリニューアルを行った。「雑誌で見た商品を買う」から「自分のためのセレクトショップ」へとコンセプトを変えたことで、自らリード獲得を行うなど、よりマーケティングの必要性が強くなってきたといえる。

 井上氏が「スタート時からOne to Oneマーケティングの仕組みを入れたかったが、コストや導入の手間から踏み切れなかった」と話すように、当時からマーケティングツールの必要性は感じていたという。しかし、ファッション関連のオンラインストアが次々と登場して競争が激化するなかで、差別化を行うための施策が求められた。

 「競合が増え、販売する商品も同質化して差別化しづらくなってきた。送料無料やポイント付与は当たりまえ。何か独自性を出さなければと考え、One to Oneマーケティングで顧客と向き合うことにした。それまで新規顧客獲得のためにテレビCMを使ってきたが、定着率(2回目以降も利用してもらう率)は下がる一方。要するに、お金を使って新しいお客さまを連れてきても、なかなかマガシークのコアなお客さまになってくれないという状況が続いた。そこで、メルマガによるメールマーケティングに取り組んで、テコ入れすることになった」(井上氏)

 社内からは、これからはメールではなくSNSだろうとの声もあったという。しかし井上氏は、メールでもまだやれることがあると感じていた。その理由は、マガシーク開始当初は、メールの効果が非常に高く、売上に大きく貢献していたからだ。もう一度、メールからの売上を取り戻したいという思いがあったという。

 ツールの選定にあたっては、初期費用やランニングコストの妥当性はもちろん、既存システムとの連携しやすさにも注目した。それらの条件をクリアしたツールが「Oracle Responsys」だったという。

 「2013年6月に導入を決めて、11月には運用を開始していた。しかも当社の少ないリソースで、3か月ちょっとの準備期間だけで対応できたのは、Oracle Responsysが導入しやすいツールだったから。導入にあたってシステム部隊への負担が少なく、しかも社内でPDCAが回せるという点も選定の大きな要因で、利用中の解析ツールとのつなぎ込みも簡単にできることもポイントだった」と井上氏は選定の経緯を説明する。

 マガシークが「Oracle Responsys」で行っている施策の中心は、顧客1人ひとりに対するメールを使ったコミュニケーションだ。たとえば、カートに商品を入れたままにしている「カート放棄」の顧客に対してそれを通知する。また、商品購入者に対して、数日後にアフターケアや商品紹介のメールを送り、レスポンスがあればさらに数日後メールを送るというリレーション維持も行っている。

 井上氏は「どれも基本的な施策だが、これまでできていなかった。現在は、社内でさまざまなシナリオを作りながらベストプラクティスを模索しているところ。たとえば、お客さまが気に入っている商品が残り数点になった際に『あとわずかですよ』というメールを送る。購入検討中でマークを付けた商品が値下がりしたら、それをお知らせする。どれも非常に高い効果が出ており、Oracle Responsys導入後はメール経由の集客と売上が倍以上に増えた。メルマガ購読者のリピート購入率は、未購読者の約1.5倍(49%)ある。目標として掲げた新規のお客さまのリピート購入率も、2013年度は前年比15%のアップ」と、施策の効果が順調に表れているとした。

 マガシークでは、「Oracle Responsys」の導入にあたって「メルマガ経由の売上を売上全体の10%に引き上げる」という目標を掲げていた。しかし、井上氏は「いまとなっては、10%という目標数字は小さかった」と、さらなる成果の手ごたえを感じている。

 今後は、データベースを活用した異業種とのコレボレーションに可能性を感じているという井上氏は、次のように展望を語った。

 「百貨店のような商業施設など、まったく異なる業界の企業との協業によって、ネットとリアル含めてデータベースを統合し、One to Oneマーケティングを仕掛けていきたい。それによって、異なる業界や異なる分野の商品とのクロスマーケティングが可能になるのではないかと考えている。マガシークのリソースを、オラクル製品を使ってうまく活用し、事業をさらに発展させていきたい」(井上氏)

既存顧客増加率(リピート購入率)の低下が課題だった
効果の試算とコストのバランスが導入時の検討ポイント
社内でPDCAを回せる機動性や既存ツールとの相性が選択の決め手
導入後はメールからの流入と売上が倍増
メールによってリピート購入率も増加
メール経由の売上を全体売上の10%に引き上げるための施策

BtoBマーケティングの要となる営業活動を支援――ルネサス エレクトロニクス

ルネサス エレクトロニクス株式会社
グローバル・セールス・マーケティング本部
マーケティングコミュニケーション統括部 eビジネス推進部 部長
関口 昭如 氏

 続いて、マーケティング・オートメーション・プラットフォームの「Oracle Eloqua」を中心に活用するルネサス エレクトロニクスからは、グローバル・セールス・マーケティング本部 マーケティングコミュニケーション統括部 eビジネス推進部 部長の関口昭如氏が登壇。BtoBにおけるマーケティングの特徴とデジタルマーケティングの取り組みについて語った。

 ルネサス エレクトロニクスは、半導体ビジネスを柱にしており、その顧客は企業である。典型的なBtoB企業だが、関口氏はまずBtoCとBtoBにおける顧客行動の違いを次のように説明した。

 「BtoBの特徴やBtoCとの違いとして挙げられるのは、たとえば製品を買う人、選ぶ人、使う人が異なるという点。同じ会社でも購買部と製造部で違っていたり、グループ企業などでは購入する会社と使う会社が異なったりすることもある。もう1つの違いは、製品を選ぶ際の期間が長いこと。本を買うとき、本屋でパラパラっと読んで面白そうだなと思ったら、その場で買うか、迷ってもせいぜい1か月くらいで決める。BtoBの場合は、極端な場合は数年かけて製品を選ぶことがある」(関口氏)

 BtoB業界では、これまでマーケティングといえば営業担当者による対面での活動が中心だった。しかし、近年はBtoBにもデジタルマーケティングの波が押し寄せているという。60%の企業が購入判断をオンライン上で行っているという調査結果もある。

 関口氏は、BtoBの顧客行動を表すカスタマージャーニーマップを示し、「最適なソリューションを顧客に届けること、及び顧客データをどう管理するかがマーケティングの重要なテーマ」と語る。その理由は、オンラインとオフラインを合わせた購買検討の行動は、非常に複雑だからだ。特にオフラインの行動では、展示会や製品講習会など対面で行うものがあり、しかも担当者1人ではなく会社組織として活動しているケースも多い。そのため、あらゆるチャネルや顧客接点を管理できるツールが必要になる。

 また、オンラインチャネルの中心となるWebサイトも、図書館のようなこれまでの情報提供だけではなく、営業やマーケティング、さらに顧客とのコラボレーションのための機能が求められつつあるという。

 このような潮流にあって、関口氏がデジタルマーケティングに特に期待していることは、「組織横断活動の推進」と「営業負荷の軽減と効率化」の2つ。そして、これを実践するために導入したのが「Oracle Eloqua」だ。

 ルネサス エレクトロニクスでは、「Oracle Eloqua」が提供する機能のなかでも、特に「ターゲティング」「スコアリング」「キャンペーン設計」の3つを活用しているという。

 「ターゲティング機能を使って、顧客情報に基づいて、最適な情報を、最適なタイミングで、最適なお客さまへ、最適なチャネルから提供している。スコアリング機能は、プロファイルとエンゲージメントという2つの軸でリードを評価するもの。プロファイルはその企業業種、人物の役職や職種などで、エンゲージメントはどれだけ深く接してくれているか。2つの軸で評価できるところがOracle Eloquaの特長で、成約確度の高いお客さまの情報だけを営業に渡すことができる。キャンペーン作成機能は、WYSIWYG画面の直感的な操作で簡単にキャンペーンを設計できる。これがなかったころは、Excelで関数やマクロを駆使してやらなければならず大変だった。メール配信やランディングページ作成も、ツールが用意されているのでマーケティング担当者でも簡単にできる」(関口氏)

 さらに関口氏は、自らの経験をもとにデジタルマーケティングの今後を次のように語った。

 「ツールを導入するだけでなく社内の関係者を巻き込むことが大切。特に重要になるのは、マーケティングと営業の連携。また、マーケティングオートメーションといってもツールは万能ではないので、PDCAを実践しながら日々検証と改善を加えていく必要がある。エンゲージメントとBANT条件(予算、決裁権、必要性、導入時期)も重要で、その把握のためにビジネス連携が鍵になる」(関口氏)

 最後に関口氏は、「マーケティングオートメーションは、今後はCMS、分析、ターゲティング/パーソナライゼーション、PIM(製品情報管理)等のツールとの統合が進むだろう」との予想を示し、「Oracle Marketing Cloudが、そのようなソリューションに進化してほしい」との期待を語って講演を締めくくった。

BtoBでも商品購入の判断はオンラインへと変化
BtoBの顧客ジャーニーマップ。オンラインとオフラインの行動が複雑に絡み合うため把握が困難になる
Oracle Eloquaの代表的な3つの機能を活用
グラフィカルなUIでキャンペーン作成が可能(右側)。以前はExcelを駆使していた(左側)
メールやランディングページも共通の素材を使って簡単に作成できる
スコアリングによって成約確度の高いリード情報を抽出できる

多くの導入実績によってすでに効果が証明されたツール

日本オラクル株式会社
執行役員
クラウドアプリケーション事業統括 多田 直哉 氏

 2つの事例紹介のあとに登場した日本オラクル株式会社 執行役員 クラウドアプリケーション事業統括 多田直哉氏は、「Oracle Marketing Cloud」を「適切なメッセージを、適切なタイミングで、適切な相手に、適切なチャネルで届けることができる。さまざまな条件や目的によってお客さまを絞り込むことができる。それによって最大限の効果を上げることができる」と表現。そして、2つの事例と世界での導入例を引き合いに、「今日の話は、これからの話ではなく現在の話。Oracle Marketing Cloudは、いますぐに導入して成果を上げることができるツール」と、その実績を強調した。これは、この日がラウンチといっても、「Oracle Marketing Cloud」が実力未知のツールではなく、効果が証明された安心して導入できることを示すメッセージといえる。

 さらに多田氏は、「これまでマーケティングの分野では、ROIやKPIなどの指標が作りづらい、数値化しづらいといわれていたが、Oracle Marketing Cloudならそれを明確化できる」とマーケティングに革新をもたらすツールになると説明。さらに、日本展開にあたっては、多くのパートナー企業の協力によって大きな足掛かりができたとして、今後の期待を示した。

(仲里 淳)