知られざるエンベデッドの世界 WEI8.1+業務タブが新たに切り拓く「現場IT」

在庫管理や工程管理、デジタルサイネージ、教育現場など、特定業務の効率化にタブレット端末を活用する動きが進んでいる。また、その波に乗って現場のIT化に新規参入するSIerも増えつつある。中でも最近注目が高まりつつあるのが、Windows Embedded 8.1 Industry(WEI 8.1)を搭載したタブレットの安全性と効率性の高さだ。WEI8.1、およびセキュリティ対策ソフト「McAfee Embedded Contorol」の代理店として、国内の組込み機器市場をリードしてきた岡谷エレクトロニクス株式会社の担当者に、業務用タブレットの「今」を聞いた。

 

業務タブレットの導入を不幸な結果にしないために

 「特定業務へのタブレット導入は、むしろ一般的なPCよりも導入時に考慮しなければならない点は多いといえます。それをいかに効率的に解決するかが導入の重要なポイントです」。

 そう語るのは、岡谷エレクトロニクス株式会社 組込みシステム営業本部 組込みソフトウェア推進グループ 鈴木大介氏(以下、鈴木氏)だ。

鈴木大介氏岡谷エレクトロニクス株式会社 組込みシステム営業本部 組込みソフトウェア推進グループ 鈴木大介氏

 たとえば、スーパーマーケットなどでは、店頭の棚にある商品とバックヤードの在庫に、当日の販売数を考慮し、次の納品日までの必要数を発注するといった業務に専用のハンディターミナル端末などを利用しているケースが見られるが、これをタブレット端末に置き換えようという動きが見られるようになってきた。

 もちろん、これまでのターミナル端末には、その業務に特化した専用端末としての利便性の高さがある。しかし、その一方で、導入費用が高額だったり、画面が小さくて見にくかったり、業務マニュアルの閲覧や日報の入力などの他の用途に使えないといった点を気にする経営者は少なくない。

 大手流通への統合が進んできたとはいえ、特定地域へ集中的に出店する企業が全国に点在するこの業界では、ITに投資できる費用が潤沢とは言えないうえ、その開発や運用管理に人員を割く余裕もない。その一方で、軽量でタッチ操作で扱える市販のタブレット端末の低価格化が進んできたことで、これを業務に活用したいと考えるのは、ある意味、自然の流れだろう。

 同様に、スーパーマーケットの例以外にも、在庫管理や工程管理などが必要な工場の現場、自社製品を紹介するデジタルサイネージを設置したい店舗などの現場、幼児などの早期教育向けに開発された独自の学習端末を使う教育現場、患者の記録に欠かせない医療現場など、さまざまな「現場」で、この動きは広がりつつある。

医療現場などさまざまな業種でタブレットの存在感が高まっている

 しかし、鈴木氏によると、「特定用途向けの端末には、ユーザーの日常的な利用シーンを想定した専用のセキュリティ対策や後々の管理を考慮したしくみが不可欠となるため、市販の端末をそのまま利用することはリスクが伴う」という。

 少しの間だから大丈夫だろうと置いておいた端末が盗難されたら・・・・・・。間違った使い方で端末の電源断を繰り返されたら・・・・・・。知識のある社員に勝手に端末の設定を変更されたり、アプリをインストールしたとしたら・・・・・・。明らかに悪意を持った目的でデータを盗まれたら・・・・・・。ウイルスやスパイウェアなどに感染したとしたら・・・・・・。

 これらの対策を考慮せずに導入すれば、企業として大きなダメージを追う結果にもなりかねないわけだ。

 低価格なタブレット端末の登場は、これまで企業の基幹業務などのシステム構築を請け負ってきた中小のIT企業にとっても、「現場のIT化」に参入できる大きなチャンスと言える。しかし、上記のような組込み機器ならではの特性を考慮せずに導入すれば、顧客にも開発側にも不幸な結果しかもたらさない。

 「タブレットの業務導入は、間違いなく、現在の大きなトレンドの1つです。これを自社のチャンスとして取り込むことができるかどうかは、導入する側にとっても、その導入をサポートするSIer側にとっても、1つの岐路となることでしょう。ただ、その際には、組込み機器ならではの注意点を考慮する必要があります」と鈴木氏は語る。

 

 

いかに“制約”を効率化するか

 では、タブレット端末を業務目的で導入する場合、どのような点を考慮しなければならないのだろうか?

 インテルの代理店としてスタートし、黎明期から長年にわたってIT業界に携わってきた岡谷エレクトロニクスは、このような組込み機器の分野のノウハウも豊富に蓄積されている。

 鈴木氏によると、「特定用途向けの端末には、運用やセキュリティ、紛失盗難、不正利用などを考慮した組込み製品ならではのソリューションを効率的に利用することが非常に重要です」とのことだ。

 具体的に同社では、Windows Embedded 8.1 IndustryとMcAfee Embedded Controlを組み合わせたソリューションを新時代の業務タブレットのプラットフォームとして定義している。

さまざまな業種に合わせて、専門性に特化した効率的なソリューションを提案してくれる

 Windows Embedded 8.1 Industry(以下WEI8.1)は、文字通り、特定産業向けの組込みOSだ。Windows 8.1をベースに、以下のような組込み機器向けの管理機能がプラスされており、インストールされたタブレット端末でユーザーの勝手な設定変更や利用を防ぐことができるようになっている。

 一方、McAfee Embedded Control(以下MEC)は、利用できるアプリを特定のものだけに制限することで、不正利用はもちろんのこと、ウイルスなどの悪意のあるプログラムの実行を防いだり、特定フォルダーのアクセスを禁止したり、動作状況をログとして記録できる組込み機器向けのセキュリティ対策ソフトウェアだ。

 前述したように、特定業務へのタブレットの利用には、考慮しなければならないリスクが多数存在する。そこで、8インチや10インチのタブレットという汎用的なハードウェアを使いつつ、このようなリスクをOSとセキュリティ対策ソフトウェアによって効率的に制御しようという発想だ。

岡谷エレクトロニクス 応用技術本部 システム技術グループ グループマネージャー 高橋一夫氏

 技術面を支える岡谷エレクトロニクス 応用技術本部 システム技術グループ グループマネージャー 高橋一夫氏は、「さまざまな制限をデバイス単位に設定できるのがWEI8.1+MECのメリット」と、その特徴を説明する。

 「たとえば、WEI8.1の『App Launcher』や『Shell Launcher』という機能を利用すると、特定のストアアプリやデスクトップアプリしか起動しないように設定できます。これらはWEI8.1に搭載されている『Embedded Lockdown Manager』というツールによって、簡単に設定することができます(高橋氏)」とのことだ。

 

 

 

 

 

 

■Windows Embedded 8.1 Industryの機能設定画面

 

■McAfee Embedded Control設定画面

 

 同ツールを使えば、ジェスチャー操作やソフトウェア/ハードウェア両方のキーボードの利用を禁止したり、USBメモリーの利用を禁止したり、再起動時に自動的にデータを消去して毎回決められた状態で起動させたりと、いろいろな設定を簡単に適用できる。

 ある程度の制限は、Active Directoryのグループポリシーでも設定できるが、「WEI8.1では、組込み向けの機能がまとめて提供されているうえ、デバイス単位に簡単に制限をかけることができる(高橋氏)」のが特徴だ。

 一方、MECはホワイトリスト方式で、特定のプログラムの実行のみをデバイス上で許可することができる製品だ。高橋氏によると「特定のプログラムのみを起動するように制限することはWEI8.1でも可能ですが、MECではEXEなどの実行プログラムだけでなく、DLLやスクリプトなども対象に起動可能なプログラムを制限することができます」という。

 つまり、利用制限という側面に加えて、不正なプログラムやスクリプトなどのマルウェアによる被害もしっかりと防御できることになる。WEI8.1の機能が、ユーザーの不正利用の制限や運用管理を中心としたソリューションだとすれば、MECはセキュリティ対策を中心としたソリューションということになる。お互いに機能を補い合うことで、タブレット端末を特定業務向けの組込み機器として理想的な姿へと変貌させることができるというわけだ。

 

 

SIerは業務拡張の大きなチャンス

 このようなWEI8.1とMECによる特定業務用タブレットは、先にも触れたが、実際に端末を業務に利用するユーザー企業はもちろんのこと、この分野へのソリューション提供を検討しているSIerにも大きなチャンスと言える。

 これまで、専用の機器に専用のプログラムを搭載するという限られた企業のみが提供することができた業務用端末の世界が、WEI8.1とMECによって、タブレットという低コストかつ汎用的なハードウェア上で、しかも慣れたWindows系のアプリケーションを使って、実現することが可能になるからだ。

 たとえば、これまで業務用サーバーとPCクライアントを顧客に提供してきたSIerが、これにプラスして、店舗やバックヤード、工場などで利用する業務用タブレットもソリューションとしてセットで提供することが可能になる。

 これからは、バックエンドのサーバー、オフィスのPC、そして現場のタブレットという組み合わせが、IT化の大きな波となることは確実だ。このようなビジネスチャンスを逃さないためにも、今から積極的に情報を取り入れていくことが重要だ。

 

 

何よりも信頼性の高さが重要

 このように、タブレット端末は、WEI8.1やMECといった強力なソリューションを得て、今後はビジネスシーン、その中でも流通、製造、建築、教育、医療といった現場を支えるツールとしての存在価値が急速に高まることが期待できる。

 ただし、WEI8.1やMECを機器に組み込むには、OEM向け契約を結ぶ必要がある。タブレットを利用したビジネスの拡大を考えているOEMやSIerは、まずは岡谷エレクトロニクスのような企業に問合せてみるべきだろう。

 同社には、企業としての長年の伝統に加え、国内のIT市場を中心に組込み機器市場をリードしてきた信頼と実績がある。また、展示会にブースを設けたり、WEI8.1やMECのハンズオントレーニングを開催するなど、技術の普及にも積極的に取り組んでいる。こういった信頼性や技術力の高い企業をパートナーとして選択することが、業務タブレットの導入を成功させるためには重要だ。大きな波に乗り遅れないようにするための準備を今から始めてはどうだろうか。


組込み総合技術展
Embedded Technology 2014に岡谷エレクトロニクスが出展

世界最大級の専門技術展&カンファレンス組込み総合技術展である「Embedded Technology」。数多くの注目企業による最新技術やソリューション展示と、組込み技術の最先端テクノロジーが一堂に集まる。岡谷エレクトロニクスも出展しているので、すべての組込み設計者・開発者、ソフトウェアエンジニアの方はぜひチェックしてほしい。
●Embedded Technology 2014 / 組込み総合技術展
●会期:11/19(水)~11/21(金)
●会場:パシフィコ横浜
●小間番号:A-01
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(清水理史)

 

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