【特別企画】

こだわり抜かれた10GbE対応NASをリーズナブルな価格で

バッファロー「TeraStation 5010」シリーズ

 バッファローから10GbEを搭載したNASの新製品「TeraStation 5010」シリーズが登場した。10Gbpsのネットワーク速度を誇る高性能モデルながら、従来モデルから据え置きとなる価格帯での販売を実現。国内のNAS市場を牽引する同社が、10GbEの普及に本腰を入れた製品となっている。どのような思いで開発された製品なのか、担当者に話をうかがった。

ライバルメーカーはたまったものではない

正直、国内メーカーに、このスペックの製品を、この価格で販売されたら、海外メーカーもたまったものではないだろう――。

 バッファローから新たに登場したNAS「TeraStation 5010」シリーズは、従来の常識では考えられないようなコストパフォーマンスを実現したハイエンドNASだ。

 最大の特徴は10Gbpsに対応したLANポートを「標準で」搭載すること。

 10GbEに対応するNASは、すでに海外メーカー製が存在するが、安くても30万オーバー、オプション対応でも6~7万円もするネットワークカードの追加が必要で、コスト的に企業が手軽に導入できるものではなかった。

 これに対して、今回登場したバッファローの製品は、1ポートの10GbEを標準搭載しながら、実売価格で16万円前後(直販サイト4TBモデル)。

 これまでの相場の約半額という低価格で10GbE搭載NASを手に入れることが可能となっている。

2ドライブタイプの「TS5210DNシリーズ(容量:8TB、6TB、4TB、2TB)」

4ドライブタイプの「TS5410DNシリーズ(容量:24TB、16TB、12TB、8TB、4TB)」

 10GbEの普及は、今年後半から来年にかけてのネットワーク業界のトレンドの1つだが、勢いのある海外メーカーを出し抜き、バッファローが先手をしかけた格好となった。

 どちらかというと保守的なイメージがある国内NASベンダーが、どうしてこのような大勝負に出たのか? その真相を株式会社バッファロー ネットワーク事業部 次長 富山 強(以下富山氏)、同じくネットワーク事業部 ネットワーク第一開発課 HW開発係 石本 夏樹氏(以下石本氏)にうかがった。

(左)ネットワーク事業部 次長 富山氏、(右)ネットワーク事業部 ネットワーク第一開発課 HW開発係 石本氏

「タイミングを見計らっていた」

 1Gbpsでも十分――。そう考えている人も少なくないかもしれない状況の中、今なぜNASを10Gbpsに対応させたのだろうか?

 同社の富山氏は、こう語る。「すでにデータセンターなどでは10GbEの導入が進んでいますが、末端はまだまだこれからという状況です。その一方、iSCSIでのストレージの利用やバックアップなどでNASを使うニーズが増え、1Gbpsのネットワークがボトルネックになるケースが増えてきました」。

 確かにNASの性能に比べると、ネットワークの1Gbpsは十分とは言い難い。複数端末からのアクセスが前提であることを考えても、PCからNASまでオール1Gbpsでは渋滞も避けられない。渋滞を避けるために合流先の速度を上げてしまおうというのは、きわめて合理的な考え方であり、そのニーズも高そうだ。

 なお、単純にNASへのアクセス集中を分散させたいだけなら、複数の1Gbps対応LANをLAG(リンクアグリゲーショングループ)で束ねるという方法もある。この点について製品開発を担当した石本氏は、次のように説明した。

 「LAGという方法もありますが、ケーブルを複数本接続したり、NASやスイッチでLAGの設定をすることは利用者にとって簡単ではありません。また、負荷分散や冗長性を確保する意味では有効ですが、最大速度を向上させるものではありません。10GbEならサーバーのバックアップなど1対1の通信でも速度向上のメリットが生かせるため、朝までかかっていたバックアップを夜のうちに終了させるなど、単一処理の時間を短くできるメリットもあります」。

 もちろん、TS5010シリーズでも10GbEのほかに、1GbpsのLANが2系統搭載されているため、負荷分散や冗長性を確保することができる。それにプラスしてピーク時のスループットが単純に速いというメリットもあるというわけだ。

 このように性能面で有利な10GbEだが、その実装は簡単ではなかったようだ。「メリットがあるとはいえ、10GbEのコストは高価でした。タイミングを見てはいましたが、10GBASE-T(RJ45のツイストペアケーブル)であれば、SFP+よりも安価に10GbE環境を構築でき、伝送距離も長く、相性問題も少ないため、ようやく目処が立ちました」と富山氏は語る。

 この「タイミング」と「目処」というのは、とても意味が深い言葉だ。実際、冒頭でも触れたように、今回のTS5010シリーズの価格は10GbE製品とは思えない安さで、直販価格ベースでは従来のTS5000Nシリーズとまったく同じ価格に設定されている(2016年9月現在)。

 富山氏はこの価格設定について「非常に戦略的」と語ったが、1Gbps対応のNASと10Gbps対応のNASが同じ価格というのは、正直、信じられない設定だ。

 さらに追い打ちをかけるように富山氏は語る。「もちろん、NASだけが10GbEに対応するだけでは意味ありません。そこで今回弊社では、全ポート10GbEに対応するスイッチも戦略的な価格で提供することにしました。まだまだPCは1Gbps対応がほとんどですが、その先を10GbE化することで、アクセス集中時の混雑を解消することができます」と、同時に10GbE対応スイッチ「BS-XP20」シリーズの発売も開始したことを明らかにした。

 この価格も非常に「戦略的」で、同社の直販サイトでは8ポートの「BS-XP2008」が税込み105,840円となっている。消費税の関係で10万円をわずかに超えるが、10GbEスイッチの従来の相場から考えると、安いと言われていた海外製品のさらに半額という破格の設定だ。

8ポートモデルの「BS-XP2008」

12ポートモデルの「BS-XP2012」

 低価格なぶん、VLANやQoSの構成など、利用できる機能は限られるが、いわゆるノンブロッキングで全ポート10Gbps上下のフル通信に耐えられるパフォーマンスも備えた製品となっている。

 正直、NASにしろスイッチにしろ、この価格設定で潤沢な利益が得られるとは考えにくい。普通に考えればハイエンドの上位モデルとして価格を上げて販売するのが妥当だろう。しかし、富山氏としては「広いニーズに応えるために普及価格帯の製品として販売したい」としている。

 この戦略が実際に受け入れられるかどうかは今後のシェアを目守る必要があるが、少なくとも、海外メーカーが後を追うように10GbEの低価格機を投入してきてたこと、後追いの海外メーカー製品よりも今回のTS5010シリーズの方が安いことを考えると、この戦略は今のところ同社の読み勝ちという印象だ。

目指したのは多機能化ではなく「原点回帰」

 10GbE化がNASのトレンドの1つであることは間違いないが、その一方で、海外メーカーを中心に多機能化が進んでいる。その点について、同社の富山氏は「原点回帰」という言葉で説明した。

 「もちろん、NASの多機能化というか、サーバー化が進んでいることは把握しています。しかし、実際のユーザーの利用状況をアンケートで調査してみたところ、圧倒的に多いのはやはりファイルサーバーやバックアップでの利用です。今回の製品も、このような中小や部門用のファイルサーバーやバックアップが主な用途となるため、パフォーマンスや信頼性の向上を優先しています」。

 とはいえ、ファイルサーバー、バックアップ以外の用途をまったく考慮していないわけではない。実際、同社は「NVR(ビデオレコーディング)用のNASなども販売している」(富山氏)。

 NASの多機能化は、言うなればユーザーの選択肢が増えることだが、あらかじめ用途が決まっているのであれば多くの選択肢は必要ない。むしろ、その用途に特化させることで、パフォーマンスや信頼性の部分にコストをかけたほうが効率的だ。

 同社が、1TBで10万円という価格で初代テラステーションを発売してからすでに10年以上が経過したが、大容量のデータを安全に保管するという原点は今も変わっていない。むしろそこを追求することで、ほかにはない価値を生み出しているのが現在のTeraStationということになる。

はたから見てもコストのかけすぎを心配するほどの作りこみ

 低価格で10GbE環境を手に入れられるといっても、果たしてその実力は本物なのだろうか? そんな疑問を持つ人も少なくないだろう。

 確かに、10GbE対応と言っても、実際にNASのアクセス速度は10Gbspには及ばない。同社がWebページで公表している最大速度はシーケンシャルリードで351MB/s(RAID5時)だ。しかし、1Gbps対応のNASの転送速度が速くても100~110MB/sだと考えると、単純に3倍は高速な計算になる。

 iSCSI接続時のパフォーマンスも10GbEの恩恵を大きく受ける。同社が実施したiSCSI接続時のベンチマークテストによると、RAID6構成時でライトが最大5632.56 IOPS、リードが最大5306.10 IOPSの結果が得られている。同社の1Gbps対応従来モデル(TS5200DN)の結果がライト最大2399.85 IOPS、リード2287.67 IOPSなので、倍以上の値だ。

 と言ってもピンとこない場合は、時間で考えるとわかりやすい。同社では、バックアップの時間も公開しているが、従来モデル(TS5400DN)で10時間27分かかっていたバックアップが、TS5410DNで7時間30分になったテスト結果を掲載している。

 バックアップの場合、ランダムのアクセス速度が要求されるため、単純に3倍速くなっても時間が3分の1になるわけではないが、時間的に28%短縮できたことは大きなメリットだ。夜間のバックアップが翌朝になっても終わらないという例はよく聞く話だが、それが朝までに終了させることも可能となる。

 開発を手掛けた石本氏によると、「10G化に伴って、ほかの部分にもかなり手を加えています。CPUは従来のDualCoreからQuadCoreにグレードアップしています。RAIDの計算がボトルネックになるケースがあるので、そのアクセラレータもCPUに内蔵しています。また、メモリも今回は高価なECCメモリを搭載しました。ECCメモリの採用は、メモリ内のデータ化けやシステム異常を防ぐ効果が期待できます。定期的に再起動するような使い方のPCでは不要ですが、24時間365日稼働する本製品では、クリティカルな情報がメモリ内に蓄積しているため、システムダウンを防ぎ、データの信頼性を向上させるECCが有効になります。グループによる自社設計品でコストを抑えました」とのこのとだ。

 他社製のハイエンドNASの場合、Intel製のCPUを採用するケースが多いが、今回のTS5410DNではARMアーキテクチャが採用されている。このことを懸念する人もいるかもしれないが、NASでボトルネックになりがちなRAIDのアクセラレータを搭載している点が実は非常に効いているわけだ。

 ここで、もう一度、思い出してほしい。今回のTS5010は、従来製品のTS5000Nと同価格だった。ネットワークだけでなく、CPUも、メモリもアップグレードされているにも関わらずとなると、ちょっと心配になるだろう。

 筐体も新しくなった。デザインがモダンになったのも印象的だが、このケースには開発者のこだわりが、これでもかと詰め込まれている。

 「フロントの開口部は形状を従来のフィンタイプからメッシュタイプに変え、開口部を約2倍にしました。ホコリの流入を防ぐフィルタは従来モデルにもありましたが、今回はねじ止めではなく、すぐに取り外せる形状となっています。ホコリで障害が発生する例が過去にあったので、その対策として掃除をしやすくしています」(石本氏)。

フロントの開口部の形状はメッシュタイプに、開口部は約2倍の大きさとなっている。鍵穴の位置も変更されている

 コダワリはまだ止まらない。

 「フロントパネルの鍵穴の位置も、従来は下部にあったのですが、右側に移動しました。鍵をひねってそのまま開け閉めしやすくするためです。さらに、細かな点ですが、前面側は、両サイドの柱のように見える部分が少し出っ張っていて、ボタンが配置されている中央部がほんの少しだけ奥まっています。誤ってフロント部分に手やモノが触れたときでも、誤ってボタン類に触れないように工夫しました」(石本氏)。

開けやすく掃除もしやすい作りとなっている

誤操作防止のために両サイドのデザインも工夫されている

 挙げればキリがないが、要するに実質的に内部から筐体まで、すべてが新設計で、これまでのユーザーの声、そして開発者のコダワリが、これでもかというほどに詰め込まれていることになる。

 もちろん、ソフトウェアもかなり作りこまれている。従来の独自OSから汎用的なLinuxへとOSを変更した。これは石本氏によると、脆弱性が発見されたときに汎用的なLinuxのほうがより早くパッチを当てることができるからだそうだ。

 パフォーマンスのチューニングにもぬかりがない。sambaのチューニングにかなり時間をかけたそうで、今後、さらに現状の351MB/sよりも高いパフォーマンスを目指していると言う。

 実は、このソフトウェアのチューニングというのは非常に重要だ。海外製のNASのようにオプションで10GbEに対応できるような機器は、必ずしもソフトウェアが10GbEに最適化されているとはいいがたく、せっかくの10GbEの速度を活かせないケースも多い。こういった差は、特に複数クライアントの同時アクセス環境で効いてくる。

 多台数の同時接続で悩みを抱えている顧客からの声もあり、今回、同社では多台数負荷試験を実施したそうだ。石本氏によると、実際に数十台(50台以上)のパソコンを用意し、各パソコンから一斉に、しかも24時間連続で、書き込み、比較、削除を繰り返したそうだ。その結果、今回のTS5010シリーズでは、最大で57台のクライアントでエラーなくアクセスできることを確認したという。

 テスト内容は同社のWebページでも公開されているが、1Gbps対応の従来モデル(TS5000N)の最大40台に比べて、1.4倍も多くのクライアントからの接続に耐えることが可能だったことになる。タイマーで夜間に一斉にバックアップを実行する企業や、学校で1クラスの生徒全員が同時に作業をする場合を想定すると、50台以上を実現できたことは大きな進歩と言える。

 1Gbps対応のNASや多台数接続時の負荷があまり考慮されていないNASの場合、20~30台ほどのクライアントで同時アクセスの限界が訪れる場合もあるとされているだけに、単純なピーク性能だけでなく、アクセス集中する実用環境での性能も折り紙付きと言ってよさそうだ。

 このほか、ファームウェアもハードディスクと基板上のフラッシュに二重化されるなど、とにかく手の入れ方が半端ではない。こうした話を聞くと、ますます従来モデルと同じ値段で大丈夫か? と心配したくなる。

「国内」へのコダワリ

 このようなコダワリは、生産工程にも表れている。「組み立てや検査はすべて国内の工場で実施されており、国内産らしい細部まで気配りされた緻密な製品づくりが行われている」(富山氏)という。

 また、販売店からの声を製品づくりに生かすという国内メーカーならではの製品づくりにも取り組んでいる。具体的には、RAIDの構成を十数分で変更できるしくみを採用した。

 富山氏によると、「従来のTeraStationは、出荷時のRAID設定がRAID6(HDD搭載モデル)でしたが、3割くらいのお客様がRAID5での納品を希望します。これまでは、その要求に従って販売店が十数時間もの時間をかけてRAIDの構成を変更していましたが、初期設定時に限り、十数分で変更できるしくみを新たに導入することで、販売店の工数を減らすことに成功しました」とのことだ。

 国内で同社のNASが高いシェアを維持している理由は、こうした実際の顧客や販売店のニーズが見えている点も見逃せない。

 サポートにしても標準で3年、オプションで5年のサポートが提供されるが、ユニークなサポートの取り組みとして、修理時のHDD返却が不要というオプションがある。「サポート時にいくつかの確認をする必要がありますが、HDDが故障した場合、すぐにこちらから代替品を送付させていただき、既存のHDDは返却していただく必要はありません」(富山氏)という。

 故障したHDDであってもデータを社外に出せない企業などのニーズに対応したとのことで、顧客の視点を重視するバッファローらしい取り組みと言えそうだ。

2.5/5GBASE-T(IEEE802.3bz)にも対応予定

 と、ここで1つ驚きの発表があった。富山氏によると「リリースでは公表されていませんが、ハードウェア的には、9月に最終仕様が定まる予定のIEEE802.3bz、つまり2.5/5GBASE-Tにも対応しており、2.5Gbps、5Gbpsでの通信にも対応可能」とのことだ。

 設定画面を変更する関係でファームウェアのアップデートが必要になるとのことだが、事実上、2.5/5GBASE-Tでの利用も可能となっている。

 「10GBASE-Tでは、Cat6aのケーブルが必要なのでインフラに手を入れる必要がありますが、2.5/5GBASE-Tなら今の1000BASE-TのCat5eのケーブルが使えるので、さらに導入の敷居を下げることができます」という富山氏の言葉の通り、ニーズはかなりありそうだ。まずは2.5G/5G、そして10Gへと、段階的な移行を考えている場合に対応できるのも、本製品のメリットと言えるだろう

「ストレージとして」安心、高速に

 以上、新たに登場した10GbE対応のNAS「TS5010」シリーズについて、バッファローに話を聞いたが、かなり「攻めた」製品だ。10GbEというだけでも特徴的な製品だが、筐体からH/W、ソフトウェア、サポート、販売方法と、すべてにわたって「コダワリ」が詰まった製品となっている。

 正直、製品のリリースを見た段階では、安いだけの製品かと思っていたが、フタを開けてみると、むしろこちらが心配するくらい労力と時間とコストがかけられている製品であることがわかった。

 最後に、同社に今後の製品づくりについて聞いてみたところ「あくまでもストレージとして安心、高速に使える製品を目指します。機能を追加する場合も、ストレージとしての本質からぶれることがない機能、たとえばクラウドへの同期やバックアップなどを中心として、ストレージに特化させていくことが大切と考えています」(富山氏)とのことだ。

 よく考えれば、無線LANも、NASも、普及初期で思い切った価格の製品を提供してきたのは、いつも同社だった。後世から今を振り返ったときに、10Gbpsというネットワークの普及が始まったのも、今回の「TS5010」シリーズや「BS-XP20」シリーズがきっかけだったと思える日が来るかもしれない。