SaaS本格参入はいつ? 会計ソフトメーカー各社トップに聞く


 会計ソフトメーカー各社が、2010年にもSaaSビジネスへの準備を加速しようとしている。

 すでに、政府主導のJ-SaaSに、会計ソフト最大手のオービックビジネスコンサルタント(OBC)などが参画。さらに、PCAが独自に「PCA for SaaS」を開始するといった動きが見られている。

 そうしたなか、今後のSaaS事業への本格参入に向けて、2010年は各社とも準備に力を注ぐ1年となりそうだ。各社トップへの取材を通じて、会計ソフトメーカー各社のSaaSへの取り組みを追った。


SaaS化への課題

 会計ソフトにおけるSaaSの取り組みとしては、経済産業省が主導で行っているJ-SaaSが、すでに始まっている。

 2009年3月からスタートしたJ-SaaSは、中小企業を対象に、財務会計、給与計算、顧客管理、税務申告などの業務ソフトを、インターネットを活用して提供し、中小企業の経営力向上、国税の電子申告の促進につなげるというものだ。

 すでに、OBC、ビズソフト、ソリマチ、ウイングアーク、TKCなどが、J-SaaSにおいて、各種業務ソフトをネットを通じて提供している。

 だが、月額で3000~5000円の費用がかかり、1年以上利用すると、中小企業向けの財務会計ソフトパッケージを購入するよりも割高となること、サービスとしての認知が低いこと、そして、会社の外にデータを置くことに対する経営者の不安意識などを背景に、普及が本格化していないのが実情だ。


安心感を前面にSaaS展開するPCA

 一方、2008年から独自にSaaSサービス「PCA for SaaS」を開始したPCAは、2009年2月2日から、初期費用が0円となる「イニシャルコスト“0”プラン」を実施。300ユーザー以上が利用し、すでに単月で黒字転換しているという。

PCA・水谷学社長

 PCAの水谷学社長は、「新規ユーザーの比率が4割以上に達しているなど、新規顧客の獲得に大きな威力を発揮しているが、高い目標を掲げているだけに、まだまだ努力が必要。さらに認知度を高めなくてはならない」と語る。

 経済産業省では、SaaSのメリットとして、初期投資を抑制しながら業務のIT化を実現できること、ITシステムを構築するための専門スタッフが不要なこと、サポート費用を削減できること、そして、セキュリティ対策についても万全であることなどをあげる。

 経済環境の悪化でシステム投資を縮小したり、なかには、業績悪化を背景にリース契約が通らずに、業務改善に踏み出せないといった企業が、少ない投資でこれを活用できる点も、SaaSのメリットとなる。

 だが、中小企業におけるブロードバンドインフラの整備が進んでいないこと、J-SaaSを活用するIT化の価値が浸透していないこと、経営者の意識改革が進んでいないことなどの課題が山積。また、業務ソフトメーカー側も、販売パートナーにとって収益モデルの変革を促すビジネスとなるため、積極的に乗り出せないという課題がある。

 しかし、クラウド時代の到来とともに、各社ともにSaaSによる事業展開は、近い将来には避けては通れないものという認識が強い。ほとんどの業務ソフトメーカーが、すでにSaaS参入に向けた準備を進めている段階であり、2010年は次代のサービスに向けた体制構築において、重要な1年になりそうだ。

 SaaSで先行しているPCAは、会計、給与、公益法人会計、商魂、商管といった、これまでSaaSで提供してきた製品に、2010年2月からは建設業会計を追加。新たに建設業界への浸透を図る。

 「これまで約1年半にわたってサービスを行ってきたが、停止したのはわずか1分弱。停止が少ないという信頼性だけでなく、停止しても、すぐに復旧できるという点を評価してもらいたい」として、安心感を前面に打ち出した訴求を引き続き行っていく考えだ。

 同社では5年後に8万社の獲得を目指しており、まずは2009年度内に1000社程度までユーザー数を拡大する考え。

 現在、サービスを運用している関東地区のデータセンターに加えて、2月までに、関西地区における新たなデータセンターの稼働も視野に入れている。

 今後は、医療法人会計、人事管理、法人税も、SaaSによって提供する考えで、SaaS事業の拡大に意欲的だ。


2010年はSaaS準備の年に

OBC・和田成史社長

 一方、J-SaaSへの参画しているOBCでは、自社独自のSaaS展開について、「インフラ環境がまだ整っているとは言い難い段階。参入のタイミングを推し量っており、2~3年をかけてじっくり取り組んでいく」(OBC・和田成史社長)と対照的な姿勢だ。

 しかし、2009年に投入した「奉行iシリーズ」には、「SaaSに向けた機能も盛り込んでいる」としたほか、「2011年には、SaaSへの取り組みについて、なにかしらの回答を出したいとは思っている」とし、2010年をそれに向けた準備の1年と位置づける。

 応研では、社内に設置した基礎開発チームにおける主要研究テーマを、クラウドに関する基礎技術の研究および開発としており、すでに一部ユーザーに対して、クローズドサービスを開始している状況にある。

応研・原田明治社長

 応研・原田明治社長が、「技術的な準備はすでに完了している」と語るのも、SaaSに向けたインフラ検証、技術開発といった観点で、課題解決に向けた体制が整っていることが背景にある。

 だが、「技術的な課題よりも、むしろ、クラウドの価値、そして価格設定をパートナーとどう共有できるか。あるいは、パートナーのビジネスモデルをどう構築するかといった点が課題。パートナー各社と協議している段階にある」とし、2010年はビジネスモデルの構築、パートナーとの協業関係の確立に向けた準備に取り組むことになりそうだ。

 中小企業を主要顧客に持つ弥生では、早い段階からSaaSへの対応を掲げていたものの、現時点ではまだ具体的なサービスの概要を明らかにしてはいない。

弥生・岡本浩一郎社長

 しかし、弥生の岡本浩一郎社長は、「2010年半ばにはクローズドベータ版の提供を開始し、2010年中にはパブリックベータ版を公開し、弥生が提供するSaaSとはどんなものかをお見せしたい」と語る。

 SaaSで提供するサービスは、既存の弥生10シリーズなどとは別のプロダクトと位置づけ、印刷エンジンや機能などには差を持たせることになりそうだ。

 だが、その一方で、「業務アプリケーションをSaaSで提供するインフラとして、技術的にも、コスト的にも、最適なものを採用したいが、まだ適切なものが見当たらない。ユーザーの要求をとらえながら、適切なタイミングでサービス提供を開始したい」とも語る。

 このように、業務ソフトメーカーでは、SaaSによるサービス参入時期が近く到来すると見ているものの、現時点では慎重な姿勢を崩していない。

 2010年は、次代のサービス開始に向けて技術面からの準備を進める一方で、弥生のように、ベータサービスを開始する例も出てくることで、SaaSに向けた注目度はあがっていくことになろう。

 だが、本格的なサービスは2011年以降。2010年はそれに向けた準備の1年となりそうだ。





(大河原 克行)

2010/1/8/ 00:00