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「オークション比較サイトからデータビジネスへ」、オークファン武永社長


 「Eビジネスマイスターに聞く!」では、IT業界の次世代を担うキーパーソンを「Eビジネスマイスター」と称し、Eビジネス研究所 代表理事の木村誠氏がさまざまな話を伺います。今回は、株式会社オークファン 代表取締役社長の武永修一氏に話を伺いました。


Eビジネスマイスター:武永 修一
株式会社オークファン 代表取締役


1978年 兵庫県神戸市生まれ
1997年 山口県立宇部高等学校卒業。京都大学法学部に入学
2000年 在学中に、個人事業としてオークション事業を開始
2004年 株式会社デファクトスタンダードを設立。代表取締役社長に就任
2007年 株式会社オークファンを新設分割。代表取締役社長に就任

―以前からお付き合いさせていただいてますが、初めてお会いしたのはいつでしたか?

武永氏
 よく覚えているんですが、2004年の12月木村さんのお誕生会の前の週です(笑)。


―誕生会ではお世話になりました(笑)。それではインタビュー開始ということで、あらためてオークファン設立までの経緯をお聞かせください。

武永氏
 事業の転機ですが、これは冗談ではなく木村さんのセミナーが転機だったんです。これはあとで詳しくお話しします。

 大学に在学中の2000年に起業しているんですが、もともと、ベンチャーで起業する気はまったくありませんでした。

 当時はIT企業の株価が下がっていて“ITバブル崩壊”といわれていた時期でしたし、就職氷河期なんてこともいわれていたりで、このまま就職することに不安を感じていました。そんなときに大学のゼミの教授から、「ロースクール(法科大学院)ができるし、人生長いんだから教養を積んで社会人になるのもいいよ」と聞き、焦って1年後の就職をするよりも大学院に行こうと考えました。そうして大学院の学費を稼ぐためのアルバイトを探しているときに、たまたまテレビでネットオークションの存在を知り、試しに自分のノートパソコンを売ってみたら、中古屋さんにいわれた金額の4倍で売れてしまって「やり方次第では商売になるし、ネットオークションなら学生の自分にもできるんじゃないか」と思いました(笑)。

 その後、いろいろと試してみたんですが、商材によっては個人でのオークション参加はリスクが大きいことが分かりました。例えば家電やアンティークなどです。ブランドのリサイクル品が非常に売れ行きがよかったので、関西のリサイクルショップや質屋さんと組んでやってみようと思ったんです。

 この取り組みがうまく行きまして、当時ネットオークションにはあまり出回ってなかったメンズブランドをメインに扱いはじめたところ、これがヒットしまして、税理士から「売上も億を超えているし、いつまでも個人事業じゃなくて会社にしないとダメだよ」といわれ、それがキッカケとなり、株式会社デファクトスタンダードを起業しました。

 ちなみに、このころはまだ個人サイトとして運営されていた“オークファン(旧「オークション統計ページ(仮)」)”の存在を知り、「(商売の)いい迷惑だ」と、脅威に思っていました。なぜなら、モノの取引相場は、“自分だけが知っているからもうかる”からです。他人には石に見えても、目利きがあればそれは宝石だからです。競合が増えることを恐れた知り合いが、「(運営を)辞めてください」とメールを何度も送ったんですが、運営者からはまったく相手にされなかった話も聞いていました(笑)。


―デファクトスタンダードは一人で始めたんですか?

武永氏
 すべて1人でやってました。服のボタンがはずれれば縫ってましたし、配送も記帳もCSもそれこそ何から何まで1人ですべてやっていました。それでも月100万円位は利益を上げていました。


―月100万円位だとお客さん何人くらいでした?

武永氏
 仕入れが50万円とすると、仕入れの平均単価が1万円、売りの単価が2万円という感じで、月の顧客数は100人位で、日でいうと3人程度。それで利益がざっと100万円という計算です。


―売り上げじゃなくて利益が100万円ですよね。

武永氏
 そうです。リサイクルですし、当時はインターネットという販路に目をつけている人も少なかったので比較的高いのですが、それでも粗利だと67%くらいが限界でした。

 ただ、お金は入るけどすべて一人でやっていたため、徐々に忙殺され楽しくなくなってきてしまい、そんなときに知りあった人から「もっと事業を大きくして利益を上げよう」と持ちかけた人と、一緒にはじめることにしました。最初のうちは役割分担してうまくいっていたんですが、2004年に会社にした途端、いろいろと問題が起きまして・・・。

 結局、その人は会社を辞めることになったのですが、何人か引き抜いてすぐに同じ商売をはじめて、仕入れ先に「デファクトスタンダードよりも高く買う」と持ちかけ、商品が今までどおりに仕入れられなくなってしまいました。売るモノがなくなってしまっては事業が続けられないから、とにかく商品は仕入れなきゃいけない。しかし今度は人員不足で販売が追い付かないので、どんどん在庫となって倉庫にたまっていきます。最悪のスパイラルでした。結局、それまで貯めたお金や親から借金をして、黒字経営から半年後にはいきなり3000万円のマイナスを背負うことになってしまいました。

 そんな絶望のどん底だった時に、木村さんが事務所にいらっしゃったんですよ。


―あの、大崎の事務所?

武永氏
 そうです。当時26歳でした。木村さんからセミナー講師の打診をいただいたときオークションに関しては、過去の実績はあったし話すこと自体は苦手ではなかったんで、セミナーで話すことで「何かが変わるかもしれない」と思ったんです!

 そうして、セミナーの講師をさせていただくことになり、そこでまず1億円もうかったって話をしたんですが、それにはまったく反応がありませんでした。まあ、今考えたら年商数十億、数百億の会社の方々が聞きにきていたので、失礼な話ですが(笑)。

 その反応を見て今度は自社で組み上げた販売管理ツールや、効率化のフローの話をしたら、それには強烈な反応を示してくれました。実は一緒にセミナーで講演をした方がYahoo!の方だったんですが、終わったあと話をしていて、「モノを売る人を支援するだけのノウハウも商品もあるから、やっぱりそっちが反応良かった」と気付き、このとき「売る側から売っていただく側に回りたい」と初めて気づきました。

 このセミナーを受けたことで「インフラ部分(システムなりデータ提供なり)を核にして会社を盛りかえそう」と事業ドメインが変わったんです。まさにこのセミナーが転機でした。ただ、物販会社がいきなり“オークションツールを売る”といいだしてもなかなか受け入れてもらえず、最初は苦戦していたんですが、そんなときに友人の紹介で、以前から使っていたオークファンの開発者の川崎氏に出会いました。

 お会いしていきなり「ぜひオークファンの運営をやらせてください」とお願いしたんです。「買収や譲渡の提案は、いくらでもある」と簡単には話を聞いてもらえなかったんですが、「お金や会社名ではなく、サイトをきちんと育てられるところなら考えなくもない」と言っていただいたんで、3カ月ほど熱意を伝え、なんとか譲っていただきました。

 その後は優秀な役員や社員のおかげもあり、オークション販売の方も全国1位になったり成長していますが、事業ドメインを分けてお互いを伸ばそう、ということで、デファクトスタンダードから新設分割という形でオークファンを設立したのです。


―なるほど、そういう経緯を経て武永氏主導のオークファンが2007年に始動したんですね。

武永氏
 そうです。オークファンは伸びると思ってます。先日のEビジネス研究会でもお話を聞いたトムソンロイターさんとかも同じだと思うんですが、“流行(はや)っている”“ブームに乗った”とかではなくて、過去の商品取引のデータを持っているところは、世界的に見ても強みだと思っています。集積したデータをサイトに掲載しているのが、オークファンな訳ですから。データを統計・分析すると本当におもしろくて、国内の消費の縮図といいますか、インターネットを通じて“誰と誰が、いつ、何をいくらで売り買いしているか”が驚くほど顕著にわかってきます。インターネット上には、いろいろな“情報”を持っているサイトはいくらでもありますが、ネットオークション情報は、いわゆるモノの価格と取引額の集積です。それが売り手・買い手の双方にダイレクトにお金になる情報だけに、ニーズが絶えることがありません。海外のユーザーも、日本で売り買いをする際は、オークファンを見ていただき、自国の相場と比較してアービトラージ(サヤ取り)をする方々が世界的に多い。ここに強みがあります。


―ところで、オークファンを一言でいうと、日本で運営されている提携先オークションサイトが一括されていて、そこで過去や現在の相場状況を比較、把握でき、サイトからもダイレクトにモノの売り買いができるという理解でいいですか。

武永氏
 はい、そのとおりです。いまはまだ機能拡充中ですが、同時に見れ、同時に買え、同時に売れます。

 現在、オークションをする月間アクティブユーザーのうち、35〜40%がオークファンを利用していると言われています。オークションは、株式市場と似ていると思います。ユーザーが慣れてくると、「この商品はYahoo!で買おう」「これはモバオクで売ろう」、また「これは楽天で買って米eBayで転売しよう」というように、各サイトをクロスした売り買いがどんどん加速していきます。ここで、弊社はその売り買いの契機となる判断基準、つまり「情報」を提供しています。まさに、ロイターさんやブルームバーグさんとの類似点はここだと思います。


―なるほど、ほかに最近考えていることはありますか?

武永氏
 海外展開です。現在海外からの利用は7%くらいですが、もっとオークファンを海外の言葉で使っていただきたいと考えています。そしてどんどん世界をまたにかけた取引を行ってほしいです。株と一緒でこういうデータは普遍性があるので世界のオークションサイトで一括検索し、どこが一番安いのかがわかれば、そこから買えばよいと思うんです。もちろん売るときも。そこで世界的な取引ができてしまいます。

 実は、経済産業省のABL(動産担保融資)という制度があります。会社が持っている“モノ”を担保にお金を貸す制度があって、そこでは相場を知るために市場価格のほかにオークションでの価格がデータとして非常に有用だと思います。その他さまざまな金融市場において、実はこうしたデータの価値が注目されているんですが、金融業界に向けてデータを商品化しようとしています。


―最後に、将来目指すところや今後の展開を教えてください。

武永氏
 “モノ”のデータというのは世界中で普遍性があります。日本人にとっては安いと思うモノでも、ほかの国の人にしてみれば高いと思うわけです。仕入れ先や販売先の選定、アクションが一目瞭然になります。ぜひ実現させたいと思っています。目指すは“モノ”のブルームバーグですね。世界中のあらゆる“モノ”、つまり消費財のデータを集積し、提供してみたいです。


―世界のあちこちにオークファンのような会社があれば、それをつないでいけば難しくはないですよね。

武永氏
 そうなんですよ。オークファンがいちいち支社を作らなくても、各国に存在するオークファンのような会社とデータの相互提供をすれば、いつの間にか世界中で自分の商品を売り、買うことができる。気がついたら「いつの間にか便利になっている」という空気みたいな存在になるのが理想ですね。


―ほかの国にオークファンのような会社はあるんですか?

武永氏
 今はないです。米eBayの過去データを提供してる会社は1社だけあります。ただ、そこがオークファンと違うのは、メディアをもっていないことです。データとメディア、両方持っているのは業界でいえば世界的にも弊社だけです。ただ、急成長している中国やインドなどで、今後出てくるかもしれませんね。


―へぇ〜、まだまだ世界は広いんですね。この続きは、またセミナーででも聞かせてください。本日はありがとうございました。

今回のキーワード:リセールバリュー
いわゆる「再販価値」。自分が一度買った商品が「次に売ったらいくらで売れるか」「どれくらいの期間で売れるか」をさす。リセールバリューを把握することで、新品で買った所有物を売ったり、二次流通市場で中古品を安く買ったりすることが可能になる。不動産、自動車、骨董(こっとう)品などでは、従来からリセールバリューの認知が進んでおり、二次流通市場が確立された。それ以外のあらゆるモノ(消費財)については、オークファンが持つ過去の取引価格により、リセールバリューが把握できるようになった。これにより、個人や企業がモノを次々と買っては使用後に売る「レンタル消費」の流れが加速し、ネットオークション市場を媒介とした循環型ライフが実現できるようになる。

 5月25日に開催される第99回「Eビジネス研究会」のEビジネスマイスターとしてオークファンの武永社長が登場します。詳しくは、こちら



聞き手:木村 誠
1968年長野県生まれ。2000年6月より『Eビジネス研究所』として ITおよびネットビジネスに関する研究、業界支援活動をスタート。2003年4月『株式会社ユニバーサルステージ』設立。代表取締役として、ITコンサル ティング、ネットビジネスの企画・立案、プロデュース全般を行う。2006年ネットビジネスのイベントとしては国内最大級1000人規模『JANES- Way』実施。2007年4月よりIT業界に特化した職業紹介『ITプレミアJOB通信』をスタートさせ好評を得る。ASPICアワード選考委員。デジタ ルハリウッド、トランスコスモス、マイクロソフトなど講演多数。

2009/5/13/ 10:00

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